Day.40 相性の良し悪しは食の好みと魔法属性で決まるぞ少年
食文化の相違は時として、不毛だが決して馬鹿にできない争いを生むことがある。
味噌汁に使う味噌は赤か白か?
唐揚げにレモンはかけるかかけないか?
目玉焼きに付けるのはケチャップかマヨネーズか、はたまた醤油か?
パン派か米派か? 牛肉派か豚肉派か? きのこかたけのこか?
これらの違いが原因で、友人関係に溝ができたり家庭仲が崩壊したり、恋人と同棲して間もなく別れたりする。そもそも、宗教による思想や食物アレルギーで、食べられるもの食べられないものが最初から決まっているケースだって珍しくないんだ。
そして──今。
食文化の配慮に欠けた
*****
「ただいま少年!」
ピカピカピッカー!
戦場と化しつつあった学食に魔法陣が展開され、俺の隣りへ颯爽と姿を現したのは「肝心な時ほどいない無能神」こと創造神だった。
全身をピカピカ光らせながら登場するスタイルが随分とお気に召したらしい。自神発電を持ちネタにする気満々だ。ふざけるな。ネタを練る暇があるなら、その電力および魔力を自分の「
「久しぶりに『
「だがな〜、じゃねえよ!」
ごすっ!
創造神の脇腹を思い切りどつきがてら、俺は戦場の中心部を指差して。
「帰ってきたんなら助けて
「イベント? はっはっは、そいつは楽しいなあ! どれ、見物させてもらおう」
鬼気迫った表情の俺に対して、創造神は呑気にも程がある様子で、一番近くにあった丸椅子へどかんと腰掛ける。
いつから持っていたのか、机にどかんと置いた風呂敷包み。おもむろに広げ始めた風呂敷から顔を出したのは、学校に持参してきたボウル型の「弁当箱」だ。「水筒」らしきボトルも一緒に入っている。
「……べっ、べべ弁当!? 創造神まさかの弁当派!?」
「実は日本から取り寄せた」
「まさかのテイクアウト!?」
「そもそも全能なる私は食事を必要としないが、ほら、食堂が出来たと聞いてはお前たち従属と一緒にご飯食べたいじゃん? 輪に混ざりたいじゃん?」
学食にやってきながらわざわざ弁当持ち込んでくるという、白けプレイの極致をかます創造神が弁当箱の蓋を開ける。どんぶりを入れる用だった大きめの器には……まさかのシリアル。
「『アサイーボウル』という食べ物らしいぞ?」
「しかもアサイー!? 食事を必要としないやつがまさかの健康志向!?」
「人間の成人女性はやたらと無添加やオーガニックにこだわると聞いたんだが、その噂は本当か? 確かに専門店は多かった気がするな。あ、
「意識高い系か!? 全能なる神がチョイスする食文化じゃねえな!?」
ブウォオンッ!!
そんなやり取りを交わすうちに、前方で爆音がした数瞬、学食にけたたましい風が吹き荒れる。
風を起こしたのは妖精アルファだ。その小さな全身が──「炎」に包まれて。
「おっ、アルファは『炎属性』だったのか」
創造神はアサイーをスプーンで掬いながら、のんびりと。
「初知りだなあ。妖精にしては珍しい。てっきり私は『風属性』かと」
──……いや。
俺も初知りなんだけど???
「属性? 属性って何? 魔法に属性システムがあったのか、この世界!?」
「炎魔法をよく使う種族といえば『
「リザードマン!? もうゲーム違ってくる種族チョイスだろそれ!?」
「リザードマンといえば、知っているか少年? エルフ族は肉食だが、特に爬虫類の肉が好きなんだ。ワニとか。私もすっかり失念していたが、スノトラの他にもエルフが多く移住してくるのであれば、彼女たちのために新しい『牧場』を用意した方が良いかもしれないな。ほら、ロボットたちの『農場』みたいに」
「ワニを『
あと一週間ほど早く聞きたかった情報を創造神が公開している間にも、両手で炎の球を生成したアルファが標的目掛けて──
「半分トカゲ大好き半分妖精の半端種族があぁ! しねぇ
キィィィンッ!!
向かってきた炎の球を、スノトラは赤い両目から──「光」の線を放ち撃退する。
「め……目から『
「スノトラは『光属性』か〜! さすがは『アース十六』、強い魔法持ってるなあ」
「いや何楽しげに観戦してんだ創造神!? 早く止めろよ、学食もゲーム性もぶっ壊れるだろ!? 俺たちが今までやってきたのって
突如ぶち込まれた戦闘パートにおののく俺を、しかし創造神はへらへらと見返してはアサイーを頬張る。
……こ、こいつ微塵も危機感を抱いていない! さては創造神! 建物が壊れても自分で
「私? 私は『地属性』だが?」
「神様のお前が一番地味ぃ!? そこは全属性使えますくらいの
俺は呑気にランチタイムしている創造神の机をバタムと叩き、
「建物は直せたって、アルファとスノトラ先生の関係性は直せないだろ!? 生徒と先生、住民同士の喧嘩が起きてるんだぞ! それも、そこそこしょうもないけどそこそこ大事な
必死に仲裁するよう説得する俺に、創造神は笑ったまま答えた。
「……『
*****
「結構なことじゃないか、喧嘩。互いの気が済むまでやらせておきたまえよ」
「は……!?」
「都市間、国家間の
俺は何度もまばたきし、校内戦争を目前にしているとは思えないほど穏やかな表情をしている創造神を凝視した。
食事による栄養摂取を義務としないはずの創造神が、俺たちと同じようにランチを摂りながら、
「喧嘩くらいわけないさ。互いの不満をぶつけあって、言いたいことを言いあえる関係性は、種族や立場の上下関係よりもずっと大事だ。それにほら、喧嘩するほど仲が良いって言うだろう?」
「……」
「もちろん、私にも言いたいことがあるなら遠慮なく言ってくれて良いんだよ?」
おもむろに。
笑いながらさりげない態度で、創造神は俺に伝えてきたんだ。
「──なあ少年。全能なる
創造神いわく。
喧嘩をふっかけられることも、勝負を挑まれることも、いつもの俺みたく生意気に説教垂れられることも無くなって。
──自身の「
……ああ、ちなみに。
喧嘩の火種となった「日替わりランチ」は、妖精用とエルフ用でAセット・Bセットの二種類用意する結論で落ち着いた。以降は俺や他の種族に合わせてメニューも随時増えていく予定。
(Day.40___The Endless Game...)
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