Day.39 お前ら学校は給食派?学食派?それとも購買派?まあ俺は不登校だけど
妖精アルファ率いる
衣食住は
「せっかく学校ができたんだ! お前らにもいい加減働いてもらおうか」
校舎A棟、一階中央部。
校舎内で最も大きな部屋に集めた妖精たちへ、
「来週から始まる
新クラスの開講によって、学校はいっそう賑わいを見せるだろう。
教師もすでにスノトラの紹介で、新しく十人ほどエルフ族が補充されている。さらにロボット族の生徒が数百機となれば、昼夜の食事を取る場所は、校内できちんと確保されていた方がスケジュール効率もはるかに上がるはずだ。
(あと俺もちゃんと
突然ブチ切れられ
「あと、来週からは敷地内の掃除とか図書室のカウンター受付とか体育館の物品整理とか、学校の運営や事務に関わることは極力お前らも手伝ってくれ」
「まじで別に良いっすけど〜」
首をもたげさせたのは妖精ベータ。
「自分たちも一応生徒っすよ?
昼間に開講しているのは通常授業ではなく、希望者限定の個人レッスンだ。
少年はベータの問いに応じた。
「日本の学校では小中高と、生徒も自分たちが使う場所は自分たちで何とかするよう
「へ〜、勉強する場所なのに勉強以外の仕事があるなんて人間風情の子どもは忙しいっすね」
「ひとまず学食だ。お前ら普段から、自分たちで料理したり
オッケー牧場! と妖精たちは笑顔で了承してくれた。
いくら都市開発にあれこれうるさい市長こと俺でも、学校ならまだしも、学食経営なんてピンポイントなシミュレーションゲームまで併行して興ずるつもりはない。
さっそくアルファを主体にその場で会議が始まる。妖精たちが口々に意見出しという名の言いたい放題をしている現場は俺も何度か見てきたけれど、毎回アルファがきちんと仕切ってくれているから、たぶん放っておいて問題ないだろう。
俺はエルフ族の教員会議に出席するため、まもなく大部屋を後にした。ロボット族は人間とそれほど図体が変わらないし、一気に数百も生徒が増えるとなれば、会議の結果次第では校舎B棟の新設も創造神に頼まなければいけないかもしれない。
(ふん。いいね。忙しくなってきたじゃん)
リアルタイムで目まぐるしく展開が進んでいくシミュレーションゲームっぽい日常に満足しながら、俺は廊下を進んでいった。
…………分かってなかった。勉強不足だ。
俺としたことが、まだまだこのゲームを甘く見ていた。
都市開発にしろ学校経営にしろ、ここにいる住民も生徒も先生も、俺と同じ人間でもなければゲームシステム上で動くNPCでもなかったというのに。
*****
翌日。
正午を知らせるチャイムが鳴ると同時に、俺は開店初日の学食へ足を運んでみた。
ぶっちゃけ楽しみだ。学校でご飯食べるとか久しぶり過ぎる。寝室でゲーム三昧だった、元不登校中学生にはあまりに贅沢な時間の使い方じゃないか?
……結論から言おう。
開店初日の学食では、
「……いや、何でだあっ!?」
睨み合ってる、超睨み合ってるよ!
妖精代表・アルファとエルフ代表・スノトラ先生が大部屋ど真ん中でガン飛ばし合ってるよ! つーかスノトラ先生、いつも超優しいのにあんな怖い顔できたんだ!?
「さ〜すがはカラーコーディネートに
「せんせーたち、ファッションは量産型なくせに、食うメシと男は超個性的っすね! 距離感ミスってドワーフにフラれた回数、ちょっくら数えてみ? アルファちゃんが恋愛カウンセリングしてあげる」
な、何が起きてる!?
先生と生徒が揉めてる! 早えよ! 喧嘩早え! つーか、
ま、まさか……開校一週間でこんなにも早く『
俺は慌てて二人の仲裁に入った。つーか創造神どこ? あんの自称全能、どうでも良いときはにやにやしながら俺にべったり付いてくる癖して、緊急時に限っていないじゃねえか!
すると、ベータが俺のもとまで飛んでくるなり、
「いやまじでえ? 先公があ? 自分たちが超マッハでまじに考えたこれが気に入らねーっつって」
紙切れを眼前に突きつけてくる。
書いてあったのは、まさに火種の元となった学食のメニュー表だ。
「……あ、ああ〜……メニューか、メニューね……」
その表に目を通してみれば、
「てっきり音楽性やら授業方針やらで揉めたのかと……まあでも学食はさ、給食と違ってみんなが同じモンを食べなくて良いのが長所みたいなところあるからさ……先生は先生で、食べたいものを注文すれば良いんじゃ……」
気がついたことがふたつある。
まず、極端に品数が少ない。「日替わりランチ」と称したセットメニューが表の真ん中にドカンと座していて、残りはサイドメニューみたいな小皿が多くても十品あるかないかだ。あ、飲み物はドリンクバー方式だ。ファミレスっぽくて良いな。
そして問題は、品数の少なさではなかった。
日替わりランチにしてもサイドメニューにしても、なんならドリンクバーのラインナップを見ても──
「何言っちゃってんの半分妖精族? 我ながら完璧なメニューっしょ?」
「あ、アルファさん……その…………肉系は?」
「人間風情だってこれで良いだろ? ほら、イマドキは塩顔と草食男子がトレンドだってどっかで聞いたことあるし」
──「
え、なにこれ? 日替わりランチってお前、前菜のサラダが
「アルファ……お前さてはベジタリアンか!?」
「こ〜んなランチは困っちゃうわよね〜? 市長くん♪」
頬に右手のひらを当てたスノトラが、
「人間の男の子は〜、ミルクとお肉をいっぱい食べるとすくすく育つってスー聞きました〜♪ こんな
「……あ〜…………先生、俺実は
「ということで〜♪ これからは皆さんと一緒に学校生活をエンジョイするスーと
左手で俺に提示してきたのは、自分たちで考えたのだろうメニュー表。
そう──「
ら、ランチの量じゃねえ! 肉なん百グラム使ってるんだそれ!? アスリートしか完食できなさそうな胃もたれ必須ランチじゃん!? え〜〜〜スノトラ先生、見かけによらねえ!
*****
(いや待て! そうか、これってもしかして……!)
俺は完全に失念していた。勉強不足だった。
エルフは漢字で「半神」と書くこともあれば「半妖精」と書くこともあるという、創造神からの種族情報を聞いたあたりで、身体のサイズ以外は大して変わらないんじゃないかとたかを括っていたんだ。
つまり、アルファがベジタリアンだとかスノトラが肉食系女子(物理)だとか、そういう個人レベルの話じゃない。
種族の違いによる──「食文化」の違い!
(し、しまった……!)
パン米麺類の、炭水化物さえ食えれば満足派の俺は頭を抱えた。
ここにいる生徒も先生も、俺と同じ人間でもなければゲームシステム上で動くNPCでもない。ひとえに経営者の失態が招いた、異種族だらけの学校で巻き起こるトラブル。
草食妖精と肉食エルフの「
そ、創造神! お前の出番だよ創造神!?
こんな連中に暴れられたら、開校一週間で「
早く……早く、この争いを止めてくれ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!
(Day.39___The Endless Game...)
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