Day.33 Fairies Be Ambitious!! 〜妖精は理想も夢もでっかく!

「妖精アルファ。お前の『創造神専門学校(仮)』入学を破棄する!」


 入学試験を終えた音楽堂ステージ上で、少年は真っ先に妖精アルファの音楽下手ナンセンスを弾劾する。

 実力不問ボーダーフリーの専門学校でまさかの不合格通達。妖精たちのリーダーにして創造神わたしの世界で数少ないヒロインでもある彼女は、住民たちの音楽で神様への信仰ポイントを集め、世界ランキング上位を目指すゲームでは完全に戦力外だった。


「入学を破棄する! 学校から追放する! さっさと転生して来世に期待しろ! 以上解散! 閉店ガラガラ!」

「ッララ゛ッララー♪ ママ゛ァマンマー♪」

「だからもう歌うのやめろ! 地獄か! すまん創造神、俺が悪かった! ゲームの中でもNPCエヌピーシーでもない住民ひとりの教育レベル向上なんて、いち市長の俺なんかには土台無理な話だったんだ!」


 ──だから、たった二話で諦めるな少年!

 無理ゲーじゃないから、無理ゲーだけど無理ゲーじゃないから! ああ〜もう、あまりに取り乱し過ぎてテンプレネタもパロディネタも乱発しちゃってるじゃないか!


「いやまじでなれるんじゃね? 『妖精女王ティターニア』」


 阿鼻叫喚の音楽堂で、妖精ベータが虹色のふざけた頭でふざけた逆張り理論を展開させる。


「ここまで残酷な妖精のテーゼできんのは逆に天才っしょ、まじで。音程せんたく間違え続けんのも逆にオンリーワンな才能っつーか?」

「甘やかすな彼氏かれぴっぴ!」


 勝手に感心している妖精ベータへ一喝する少年。しかし一喝した数秒ほど後に、突然少年は静かになって、


「……おい、妖精ベータ」


 ベータが何気なく口にした新しい言葉を、もう一度聞き返したのだ。


「『妖精女王ティターニア』って……なんだ?」



*****



 私たちが向かったのは、校舎A棟の東端に位置した図書室。

 なにぶん建物自体が出来たてで、図書室の蔵書もまだ少ないが、人間以外の種族についてはほとんど無知な少年にとって、今後はおそらくこの図書室こそ新たな知識を蓄えるための重要な施設となるだろう。


「俺が知ってる『妖精女王ティターニア』といえば、シェイクスピアの戯曲だけどな。つーか、シェイクスピアが元ネタだろ?」


 少年が本棚から抜き出したのは、自身の出身地・日本から取り寄せた小説だ。

 イギリスの劇作家・シェイクスピアが手掛けた喜劇『夏の夜の夢』──かの物語で登場するティターニアは、子どもの相続をめぐり、夫妖精と痴話喧嘩を繰り広げるらしい。

 なるほど……アルファに似ていないこともない。彼女もまた、自身の進退をめぐりベータと移住騒動を起こすほど喧嘩したわけだからな。


「あ〜、でも自分たちの『妖精女王ティターニア』と、戯曲これとは完全に別人っすね」


 ペラペラと小説のページをめくりながら、ベータが少年に説明する。


「『妖精女王ティターニア』ってのはまじで自分たち妖精族のトップなんすよ」

「……ん? あれ、俺はてっきりアルファがお前らのリーダーだと……」

「この世界まちにいる集団グループの中ではね? でも妖精はあっちこっちで集団グループ作って、いろんな世界まちで暮らしてるっすから」


 つまり『妖精女王ティターニア』は、妖精という

 そして女王に選ばれる妖精、その基準はずばり──


「『音楽力』……ってか?」

「ザッツライト! さあすが市長! 察しの良い男はまじモテるっすよ!」


 少年はぎりぎりとベータ……ではなくアルファを睨みつけた。

 新設学校にも妖精界にも波乱を巻き起こしている張本人は、素知らぬ顔をしたまま机上でぱたぱた舞っている。



「……まあ、女王それはあくまでも妖精カースト最上位の話だよな?」


 気を取り直すように少年が、


「マイナススタートからいきなり目標を高く掲げても仕方ない。『妖精女王ティターニア』になんかならなくて良いから、まずは最低限、他人様に聞かせて恥ずかしくない技術レベルを身に付けるところから始めようぜ」


 今後の方針をアルファに伝えれば、


「例えるならそうだな、同じクラスや会社の連中とカラオケに行っても、歌ってドン引かれたり場の空気を悪くしない程度の、音楽力という名の社交力を──」

「やだ」


 アルファはむすっとした顔で、少年の方針を切り捨てた。


「あたし、絶対『妖精女王ティターニア』になる」

「……はっ?」

「やるからにはてっぺん目指すのは当然っしょ。ただでさえあたしら妖精は身体が小さいチビなくせに、なんで夢までちっこくしなきゃいけないわけ?」


 たんっ、と図書室の机上に舞い降りた黄色いブーツ。

 緑のワンピースをひらめかせ、赤いマニキュアを爪に塗った両手をぴんと広げ、その場でターンしては正面でウィンクした、青のアイシングがきらりと輝き仲間の妖精たちは一斉に歓声を浴びせる。

 妖精グループのリーダー、アイドル的存在、誰よりもカリスマを持ったアルファが満面の笑顔で──




「『妖精よ大志を抱け!Fairies Be Ambitious!!』」




 彼女自身の、そして妖精としての矜持プライドを見せつける。


「ちっこい身体にはでっかいハートを! 魔法は不可能を可能にしてなんぼ! 夢を叶えるのも恋を実らせるのも、あたしの幸せハッピーはいつだって、誰かでも、あたしが自分で掴み取るんじゃいっ!」


 魅せられてしまう。


 妖精たちの拍手喝采で溢れかえった図書室。ベータが「最の高……さすが俺の最推し……萌え、いや燃えだわまじで……百ファボでも足りない……」とか呟きながら大粒の涙を流している。

 人間族における図書室の作法マナーを知る少年であれば、いつもなら「図書室では静かにしろ」とか注意しそうなものだったが、あまりに眩しい妖精アルファのワンピース姿に、さすがの少年も見惚れてしまったらしい。

 もちろん──この創造神わたしでさえも。



「……ま、まあ」


 小さく咳払いする少年。


「そりゃあ『妖精女王ティターニア』とやらになるに越したことはないんだけどさ。音楽に限らず芸術アート芸術家アーティストは時として、都市に絶大な商業効果をもたらす可能性も少なくないわけだし……」


 ──まったく同意見だ、と私も少年に頷いてやる。

 アルファに女王それの可能性が幾ばくであるかは別問題として、私にとっても、この世界から『妖精女王ティターニア』が輩出されるのはたいへん喜ばしいことであるからな。


「え? まあ、そりゃ音楽力イコール信仰力とは聞いたけど。だからって別に、アルファが女王トップになるかどうかはお前にはそんな関係ない……」


 ……い、いやあ。

 信仰力それんだよ、少年。

 実は妖精族だけでなく、私たち創造神界隈にとっても『妖精女王ティターニア』の逸話は有名なんだ。


 私は目を丸くする少年に打ち明けた──このそらで伝わる、ひとつの「迷信ジンクス」を。



*****



 いや〜、なんでもさあ。


 妖精たち当事者にとっては、自らが種族の女王トップに選ばれることは単なる栄誉に過ぎないかもしれないよ?

 ただ、創造神わたしたちの間ではさあ。

 自らが創造した世界から新たな『妖精女王ティターニア』が誕生したとき、その神こそ次なる『天神てんじん』に選定される可能性が大きく跳ね上がる──というジンクスが、まことしやかに囁かれているんだよねえ。


「…………」


 信仰力うんぬんと違って根拠はないよ、全然ない!

 別に『無限むげんそら』がそう言ってましたとか、確かなデータがあるわけでもない!

 たださあ、今だから正直に白状してしまうとさ。かくいう私も『妖精女王ティターニア』が有するジンクスに淡い期待を抱き、少年の次に彼ら妖精を新たな従属として召喚したような節があったりなかったり……って、あれ、少年?

 どうしてアルファではなく、今度は私をそんなに睨みつけているのかな?


「…………だあ〜かあ〜らあ〜……」


 右拳を大きく振り上げた少年は叫んだ。

 この図書室で誰よりも大きく、学校敷地全体まで響き渡りそうな声量ボリュームで。


「そーぞーしんっ! そーゆー大事な情報ジンクスは、後出しじゃなくて妖精を召喚した一番最初に言えっつってるだろうがあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!」



(Day.33___The Endless Game...)

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