Day.26 だからその手のゲームは専門外なんだよリア充どもが
さあ、
長らく少年に明け渡していた
やはり私が創った世界で紡がれる物語は、私自身が語って然るべきだ。
それでは、今日も張り切っていこう。
創造の神と市長の少年、そして愉快な住民たちと──レッツ・都市開発!
*****
「自分、まじ移住するんで」
アット・市長の家。
少年と私にそう宣告してきたのは、大木アパートで暮らす妖精のひとりだった。
──…………あ。ああ。あああああ……っとおぉぉぉっ!?
つつつつついに現れたぞ少年!
全能なる私の完璧にして完全にして一滴の不足なき世界を自ら去らんとする不届き者があぁぁぁぁぁっ!
どうしよう、どうする少年!? 何がいけなかった? どのへんどのあたりがまずかった? 私の世界のいったいどこに落ち度があったというんだ? まさか私かっ? 私が悪いのかっ? ああぁあああわあああああああああぁあぁぁぁ……──
「落ち着け創造神!」
ごすっ!
数秒前まで食卓で呑気にポテトチップスをパリポリっていた私に、睡眠も食事も充足している少年が強烈なパンチを入れてきた。
いたた、痛い痛い。先日よりもずっと痛いじゃないか少年。やればできるじゃん。やはり日頃の少年は寝不足が祟っていたのだろうな。
しかも驚いたことに、突如移住を告げてきた妖精とはずばり、我らがヒロインにしてパリピ系ギャル族こと妖精アルファの彼氏だった。
ひとまず、仮の名として「妖精ベータ」と名付けよう。
妖精ベータも彼女にならっているのか単なる個人趣味か、随分と派手で個性的な色の髪をしていた。簡単に言えば「虹色」だ。毛の一本一本を違う色で染髪している。
「……理由を聞こうか、妖精ベータ」
いつも着ている黒服の襟を正し、少年は改まった態度で問いかける。
なにせ、初めて発生した住民からの「移住」の申し立てだ。冷静を装う少年の表情はいたって真剣で深刻そうにしていた。
「何か事情があるのか? 俺の経営に不満があるならそう言ってくれ。第一、お前が移住するってなれば……つまり、
「いやいや、移住はまじ自分オンリーで」
食卓の上で羽根をパタつかせたベータは答えた。
「自分、アルファと別れるんで」
「……は?」
「移住っつーか、前住んでた
「…………」
途端に沈黙する少年の両肩を掴み、私はゆっさゆっさと。
どうした少年、黙ってないで早くなんとかしろ少年! とうとう私の世界から初めての
少年はゆっくりと私を見上げてきた。そして、一言。
「……無理だろ?」
──は?
無理? 無理と言ったのか少年?
「無理だよ。無理ゲーだよ。俺にはどうすることもできないよ」
──な、なな何を言い出すんだ少年!? こと都市開発においては不可能の二文字など存在しない少年が!
「いいや不可能なんだよ創造神。だってこれは建築でも経営でも政治でも、都市開発ゲームという俺の専門を大きく逸脱している」
──ど、どういうことなんだ!?
「これは同じ『シミュレーションゲーム』でもまったくの別ジャンル……ずばり、『恋愛シミュレーション』ゲームなんだよ!」
急に声を荒げた少年が、胸を張ってはっきりと。
「恋愛ゲームとは、俺がこの世で最も苦手とするジャンルだ! 妖精ベータが抱える問題は俺じゃあ絶対に解決することができない! 以上、
──自信満々に言うことじゃないだろう!?
さっすが女性への免疫もなければ、人間との関わりすらまともに持てない少年は言うことが違うじゃないか!
いやしかし少年よ。自分自身のことならともかく、他人である妖精カップルの恋愛事情くらいは、彼らの市長として頑張って解決させてやろうという気概くらい見せてくれても良いんじゃないか?
「いいやあり得ないね。絶対に嫌だ。他人の家庭や恋愛の事情に、嬉々として首を突っ込んでくるやつほど俺が嫌いとしている人種は存在しないからな」
──そ、そうなのか?
何というか今更というか、人間嫌いを謳うわりに、他の種族では有していなさそうな面倒くさい感性を持っているよな少年は……。
少年は頑なに妖精カップルの事情に干渉することを拒んでいたが、全能なる創造神の立場としては、残念ながら見過ごせる状況ではない。
私自身の面子に関わるという理由もあるが……それ以上に。
今いる住民の中でも、特に妖精アルファは、少年に次いで有能な妖精たちのまとめ役だ。そんな彼女の進退に関わる問題であったならば、もう少しベータからは事情を聞き出さなければなるまい。
なぜだ妖精ベータ、なぜ彼女と別れるという話に?
そもそも、別れを切り出したのはいったいどっちなんだ? アルファか? まあ確かにあいつ……気が強くて男に小うるさそうな性格しているからな。
するとベータは大きなため息を吐いて。
「自分からっす」
──え、そうなの?
「自分はこれ以上、あの子とは一緒にいたらいけない男なんすよ」
──え、なにそれ? 自分から別れ話を切り出しておきながら、原因があるのは相手じゃなくて自分とかいう、人間並みの超理論を展開するつもりか妖精ベータ?
「悪いのは俺っすよ、まじで。あの子の夢を応援してやれる度量がないんすよ。甲斐性がない駄目な男なんだ俺は」
──……夢?
私はさらに聞き出した、おそるおそると。
あたかも玉手箱かパンドラの箱を開けるかのように。
よ、妖精アルファの夢とは……いったい…………?
「『
──……ん?
*****
「アルファのやつ、超
──…………。
「俺は一度は言ったんすよ、
──……………………。
「音楽界の『
だから別れるっす、と妖精ベータが頭を掻いた。
沈黙を重ねている私の顔を、少年がのぞき込むなり。
「どうだよ創造神。全能なお前なら解決できそうな問題か?」
思い出されたのは、少年が不在だった間に聞かされた『カチク・コーポレーション』の社歌。千鳥足なアルパカたちの踊りに合わせ、妖精アルファが奏でたホラーでカオスなオルガン伴奏……。
私は少年のつぶらな瞳に焦点を合わせた。
自分では決して解決できない問題を、きっと全能なる
…………………………………………無理だろ?
(Day.26___The Endless Game...)
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