Day.27 真・チュートリアルの時間だ少年。最高の世界に必要なものを言いたまえ

 パリピ系ギャル族、妖精アルファの彼氏かれぴっぴから得た証言によれば、どうやら彼女は音楽家ミュージシャンになりたいらしい。

 彼女が以前披露していたオルガン演奏を知っている私は断言した──無理だろ?


「はあ。全能なる創造神にも不可能ってか?」


 妖精ベータが去ったあと、私も少年も頭を抱えた。

 最初に移住の相談を受けた時はただの妖精カップルの痴話喧嘩と思っていたが、実際は恋愛事情よりもずっと、第三者による干渉が難しい問題が控えていた。


 すると少年が、食卓に突っ伏してぼそっと。


「まいったな……今から『神殿』も作らなきゃいけないのに……」


 ──え? 神殿?

 神殿って、創造神わたしの『神殿いえ』のことか?

 もしかして作ってくれるのか少年? ま〜じ〜か〜よ!

 ゲーム脳の少年のことだから、初期の頃みたく「『神殿』なんて都市開発での優先度は大して高くない」とか言い返してくるんじゃないかと思って、あえて私も遠慮していたのに!


「いや遠慮するなよ! まあ確かに神殿や教会ランドマークはゲーム内じゃ優先度高くないけどさ。でもお前ら創造神にとっては『世界ランキング』とやらに関わる重要な建物なんだろ?」


 まったくもって少年の指摘通りだ。

 神様の『信仰力』によって世界の評価が決まるシステム。

 そして『神殿』とは、神様が自分の世界で棲まうすべての生命から『信仰力』を集めるために必要な場所。

 、この世界に神殿がない限り、これ以上『無限むげんそら』による世界の評価ランクは上がることはない。



*****



 ──なあ、少年。実はさ……。


「なんだよ創造神? まだ何か俺に喋ってないことがあるなら、今のうちに情報共有しておけよ。俺にも読者にも、な!」


 少年の勘がやたらと鋭い。実は、もうひとつ話していないことがある。

 神殿はあくまでも『信仰力』を集めるため場所、スタートラインに過ぎない。より多くの『信仰力』を集めるためには、高めなければならないのは……ずばり、なんだ。


「量と質、ね……まあ『量』ってのは単純に『人口』のことだろうが」


 少年が顎に手を当てながら問いかける。


「住民の『質』ってのは具体的に何を指しているんだ?」

 ──分からないか少年? ずばりアレですよ、『魔力マナ』なんですよ……。

「はあ? 魔力マナ!? 俺たち人間に魔力マナなんか無いだろ。それとも何か、お前が俺たちに供給してくれたりするのか? 自神発電的な」

 ──残念ながら、全能なる神の力を持ってしても種族の身体構造は変えられないんですよ。

「……」


 何かを言いたそうに口元歪めた少年を、しかし私は制止した。

 ちょっと待て少年、分かるよ。何となく言わんとしていることは分かるよ。

 少年自身が魔力マナをまったく有していないのだから、『信仰力』をたくさん集めたければ、今後はより多くの魔力マナを持つ種族を新たな住民として呼び込まなければ……とか何とか言うつもりなんだろう?


 その思考はもちろん間違っていないが、魔力マナに関してもうひとつ提示するべき情報があるんだ。

 今は新しい住民の話よりも、今すでに住んでいる──妖精アルファの話が先だ。


「え? いやまあそうだけどさ。ただ、アルファの芸術センスっていうか……まあ言ってしまえば『音楽力』? それとお前の『信仰力』や、住民たちの『魔力マナ』とはまったく関係がない話──」


 ──そ、れ、が!

 ぜえんぶなんだよ!!



 目を丸くした少年に、私は『魔力マナ』の説明を初めて行った。

 魔力マナの量は初めから持たざる人間しゅぞくにとっては、残念ながら不変、永遠のゼロだ。

 しかし魔力マナを持っている私や他の種族たちにとっては、その量は一時的に変動できる力なのだ。


 さあ問題だ、人間なる諸君。

 召喚にしろ創造にしろ、私がこれまで魔法を行使する際。

 魔法発動と同時にかなり高い頻度で行っていた、魔力マナを向上させるための行動……それはいったい、なんでしょ〜うか?



 がったんと。

 少年が勢いよく立ち上がったはずみで、椅子ががたんと床に倒れる。

 顔を真っ青に染めた少年が、まだ自分では目撃したことのない妖精アルファが笑顔でオルガンを奏でていた光景と、まだ耳にしたことがないアルファの指先から放たれる地獄の旋律を脳裏に浮かべながら。


「え…………詠……唱……………………?」


 ──せいか〜い!

 うたむと書いて、詠唱でございます!

 つまりだ少年!


「『詠唱うた』もまたひとつの音楽! つまり、それぞれの住民プレイヤーが初期ステータスとして有している『魔力マナ』から、後発的にレベリングした『音楽力』をプラスした状態で神殿に献上すれば、イコール創造神の『信仰力』ってことなのか!?」


 私が言おうとしていた台詞を、少年が代わりに発してくれる。

 その通りだよ少年、さすがじゃないか。


「お…………お前っ! 創造神お前えっ!」


 今度は顔を真っ赤に染めて、少年が大声で。


「ゲームのチュートリアル級に大事なことじゃねえか! なあにが『世界ランキング』だ、なあにが『最高の世界』を作れだ! そーゆー大事なことは、俺を召喚した一番最初に言うんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」



*****



 כשנוחתים שם, אפשר לשמוע את רשרוש היער.

(訳:その地に降り立てば、木々のさざめきが聞こえてくる)

 ציפורים רוקדות בחן בשמים הכחולים, ודגים קופצים בקצב של הגלים

(訳:鳥が優雅に青天を舞い、波のリズムに合わせて魚たちが跳ねている)

 בלילה, הוא יואר בכוכבים, וכל החיים יזרחו.

(訳:夜になれば星に照らされ、すべての生命が輝きを得る)

 בהצלחה לברכות הארץ. הבורא הזה נתן רחמים משמים

(訳:大地の恵みに幸あらんことを。この創造神が天より慈悲を与えたもう)



 私は椅子から立ち上がり、いつだかに唱えてやった歌を朗らかで清らかな美声を以って披露する。

 その歌声を真面目に聴いているのかいないのか、テーブルの下に潜り込み、しばらく頭を抱えてうずくまっていた少年。

 少年はのっそりと机から這い出ると、


「……おい、創造神」


 自身が市長として運営する都市せかいの創造主、そして己が仕える主にお伺いを立ててくるのだ。


「お前の『神殿』って……造形デザインは俺が決めても良いのか?」


 ──ああもちろんさ、市長にして偉大なる我が芸術家アーティストよ。

 なにせ、神殿建設も神の信仰も、神様ではなくお前たち住民が主体となって行うべき活動だからな。


 だから、どうか我が従僕よ。

 私が作りし世界を、このそらで一番の「都市せかい」に成り上がらせてみたまえ!



(Day.27___The Endless Game...)






*****

【作者のあとがき】

 いつもご愛読ありがとうございます。

 皆さまにたくさん応援していただいたおかげで、ついに大台の★200まで到達することができました。

 よその異世界を行き来したり急に創造神や世界の真実が明かされたり……まるで「都市開発ゲーム」のようにリアルタイムでライブ感満載な本作でございます。これからもぜひ、彼らの都市せかい作りを温かく見守ってやってください。


 次エピソードからいよいよ「第3章」に突入します。ようやく建設される創造神の神殿、そして少年が新たに打ち出す施策とは……?

 お楽しみに!

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