Day.24 都 市 開 発 を 舐 め る な !

 前回までのあらすじ!


 やむを得ない事情から創造神の怒りを買った少年おれは、知り合いの神様が経営しているという「近隣都市いせかい」に飛ばされてしまう。

 飛ばされたのは軍神ぐんしんアレスによる、褐色巨乳アマゾン族たちが暮らす「女だらけの終末ハーレムワールド」。そして偶然知り合ったHカップのアマゾン族・Hermioneヘルミオネに連れられた俺が、対談したアレスに聞かされたのは神様たちが繰り広げている「天地創造ゲーム」の真相だった。

 なんでも『無限むげんそら』──もとい宇宙によって選ばれ「神様」となった連中には「前世」ってやつがあるらしく、特に俺を召喚した創造神、あいつに至ってはまさかの「元・人間」らしい。ま〜じ〜か〜よ!


 で、重要なのはここからだ。


 世界は現在進行形で宇宙にランク付けされているらしく、より優れた世界を作った神様は『天神てんじん』という名の誉れを手にすることができる。逆に、もしも世界を滅亡させるような失態を犯せば、最悪そいつは神の資格を剥奪されてしまうらしい。つまり死ぬってことだな。ま〜じ〜か〜よ!

 しし、しかも創造神のやつ、すでに一度「世界滅亡けいえいはたん」やらかした前科持ちらしい!

 あああ、あの馬鹿! イエローカードじゃねえか! レッドカードもらう前にそういう大事なことは教えとけよ! 俺の成長期の心配してる場合じゃねえだろ!


 そして、今。

 俺は「都市開発ゲーム」で培った経営能力を見込まれて、アレスから移住という名のスカウトを受けている。あんな無知全能の創造神なんかより、自分の世界でレッツ都市開発しないかってさ。

 ──俺の答えはただひとつ!



*****



「だが断る!」


 アレスを取り囲むアマゾンたちを指差して、


「『幸福度』が世界ランキングに大きく影響する、だって?」


 アレスの一番の腹心であろうヘルミオネをのぞいた、アマゾンたちの痩せ細った姿を目にした俺は言い放った。


「主語が足りていないぞ、軍神アレス。幸福は幸福でも、だろ?」

「……」

「客の俺にはこれだけ豪華な食事が出せるんなら、この食事をどうしてアマゾンたちに分け与えない?」


 創造神ビイが直面していた食料問題とはまるで性質が違う。

 この世界は現代人の俺から見れば古臭くてかなり文明技術が遅れている。けれど、それはあくまで文明が遅れているというだけの話であって、決して世界が発展していないわけでもなければ、食料が不足しているわけでもない。

 ここは神殿、そして目前にいるのは世界を創った神様──市長みたいな存在だ。


「過剰供給だ、軍神アレス。幸福度を集めたいがばっかりに、お前に必要以上の食べ物を献上しているせいで、住民が飢えかかってるってのは世界まちとして本末転倒だとは思わないのか?」

「……幸福の意味を履き違えるな」


 アレスは眉ひとつ動かさず、


「重要なのは『信仰力』だと告げたはずだ。すべての世界において神なき存続は決してあり得ない。ゆえに、全能なる我に従属が尽くすのは至極当然であろう」


 その言葉に俺は苦笑した。

 創造神といいアレスといい……おいおいお前ら、全能という割には!


「神様のくせに、やってることが俺たち人間と大差ないな」

「……何?」

「知らないのか? お前が神様だろうと市長だろうと、一番偉いやつや一部の住民にしか利益が出ない都市せかいのことを、俺が元いた地球ほしでは『格差社会』って言うんだよ」


 歴史から学べというやつだ。

 食料や資金を一部の人間に集めることで、表面上ではその都市せかいが繁栄しているように見せかけることができる。

 確かに「世界ランキング」とやらを手っ取り早く上げるには有効な手段だろう。

 けれど──


「悪いが、お前のその手段プロセスは許容できない」


 俺の市長としてのスタンスに反する。

 市長たるもの、他でもない「住民」の幸福を第一に考えるべきだ。

 それに、格差を許容する都市せかいも、信仰という名の見えない力で住民を支配する都市せかいも、いずれは綻びが生じるものなんだ。長続きするタイプの政治体系じゃない。

 もう一度言うけど、歴史から学べというやつだ! それも人間の歴史からだぞ!



 アレスはそれまで差し出していた腕を戻しながら、さも不思議そうに俺を見据えてくる。そして、鼻で笑った。

 こいつが馬鹿にしてきたのは俺だけではなく──


「その人間の歴史を以って、בוראはすでに一度世界を滅ぼしたのではないか?」

「……まあ、そうかもしれないな」

「奴の従属でいれば、貴様や他の連中は幸福を得られるとでも?」


 アレスの指摘は正直ごもっともだった。なにせ、あの創造神も全能を謳っておきながら、こと都市開発においてはいろいろと抜け目が多い。

 いったいどんな理由で「世界滅亡けいえいはたん」をやらかしたんだか知らないが、それでも俺には、ひとつだけはっきりしていることがあった。


「少なくともあいつは、住民おれたちの幸せを蔑ろにするような神様ではないだろ」


 だってそうだろ?

 俺が求めてもないのに無理矢理ご飯を食べさせようとしたり。

 不眠がちな俺に子守唄を歌って聴かせたり。

 俺自身のやりかたに合わせてくれるのは、何やかんやとあいつの方だし。

 俺だけじゃない、妖精やアルパカたちのわがままもあいつはちゃんと聞いている。


 あいつはただ、知らないだけなんだ。

 あいつにとっての「最高の世界」ってやつの作り方を。

 だからあいつは俺を喚んだ。全能でありながら無知であることを自覚して、一緒にあの大地を開拓、開発する従属──あるいは「仲間」を、あいつは探していたんだ。


「軍神アレス。お前と創造神あいつには明確な違いがある!」


 俺もまた、椅子から勢いよく立ち上がった。

 腹いっぱいに満たした身長百五〇センチの少年が、アマゾン族の頂点に。

 自分たちの「ライバル都市」に宣戦布告をかますんだ。



*****



「お前はまだ、自分が無知であることを知らない。世界のランクはどうだか知らないが──自分が無知であることを知っている創造神あいつには、は遥かに及ばねえよ!」


 そして!


「神様としてのランクが劣っているお前の都市せかいに、俺たちの──俺と創造神の都市せかいが劣るはずがないだろう?」


 言うぞ!

 俺は二十四話目Day.24にして、ついに「例のアレ」を言うぞ!

 実は今まで一度たりとも口にしていなかった、あの台詞だ!



「俺は創造神エイの従属だ。あの都市せかいの市長として、あいつを『天神』とやらにランクアップさせてみせる! あいつと『最高の世界』を作るために、俺はあの都市せかいに喚ばれたんだ!」



 いいか、耳をかっぽじってよく聞けよ!





「いいか、軍神アレス!」




 はい三秒前! さん、にい、いち……────!


























「都 市 開 発 を 舐 め」

「遅 い ぞ 、 少 年 !」




 ──ピカピカと。

 俺の大事な大事な決め台詞を遮って、ピカピカと全身を輝かせながら俺の背後に現れたのは創造神くそばかだった。

 召喚陣を展開させて、自ら軍神アレスの世界へとやってきた全能にして


「待ちくたびれたぞ少年! 私の世界ではいったい何時になったと思っているんだ? 門限がないとは確かに言ったが、夜までに戻ってこなければ少年に適した時間に適した睡眠時間を確保することができなくなってしまうだろうが!」

「……」

「食事はきちんと済ませたか? 結構結構! さあ帰るぞ少年、地図作りやら会議やらは後回しだ。明日でもできる仕事は明後日から始めても決して遅くないんだぞ?」

「…………」

「うん? どうした少年、そんなに私を睨んで? ははあ、さてはアマゾンたちの美貌にあてられて、いよいよ童貞を卒業する気にでもなっていたのかな?」


 邪魔してしまったかなと笑う創造神に、俺は今日以上に殺意を抱いた日はない。

 ああ邪魔したよ、確かにな。

 前世では俺と同じ人間だったと言うんなら……おい、創造神!

 もうちょおっっっと、空気というものを読んでくれないかなあ!?



(Day.24___The Endless Game...)

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