Day.22 創造神ってそういう連中だったんだな、なるほど完全に理解した

 俺はこの世界に飛ばされてから、ひとつ気がついたことがある。

 神殿まで俺を案内したアマゾン族の褐色巨乳女・ヘルミオネ……に限らず、行き違った住民たち全員が褐色で、揃いも揃って胸には肉塊おっぱいをたっぷり蓄えていた。

 そもそも、この世界には……この世界は…………!


「男のロマン、『女だらけの世界ハーレムワールド』じゃねえか!?」


 俺がそう叫んでやったのは、前方の豪勢な椅子に腰掛けている、この世界で初めて遭遇した男。

 ……もっとも見た目が男というだけであって、創造神という種族に本当に性別があるのかどうかは、無知なる少年おれにはわからないけれど。


 がつややかに。

 立派な黒いあご髭を生やした強面の創造神──『軍神ぐんしん』アレス。



「──貴様が"בורא"の従属か」


 アレスは椅子に肘を置き、頬杖を付きながら言語を発した。

 発された「名前」こそ正確には聞き取れなかったけれど、聞き覚えのある響きだったからおそらく……。


「あんた、俺ん都市とこの創造神の知り合いって聞いたぞ」

 いかにも偉ぶったアレスの態度に眉をひそめながら、

「早く元の都市せかいに帰してくれよ。今日中に書き上げたい都市計画せかいちずもあるし、シロから進捗報告まだ聞いてないし、あの都市せかいでやらなきゃいけない仕事タスクが山ほど残ってるんだ」


 ……冷静に考えたらおかしいよな。

 俺ってそもそも日本から創造神あいつに喚ばれているのに、召喚先の世界のことを「元の世界」って表現するのは。


 するとアレスは、自身の椅子の脇で鎮座している何人ものアマゾンたちに、指先ひとつで指示を送る。


「こっちへ来い」

 ヘルミオネが俺の腕を掴みながら、

「まずは飯だ、客人。アレス様と飯を食え」


 客人を相手にしている割には結構な腕力を込めて腕を掴んでくる。

 力加減がアマゾン族仕様なのか、それともヘルミオネの腕っ節が特別に強いのか。


「用意はすぐに完了する」

「い、いや……俺はさっさと帰りたいんだけど」


 俺がごねようとすると、アレスが言った。


「בוראから言伝をもらっている。貴様がきたら、早急にその小さな腹を我が土地の肥やしで満たせと」

「…………」


 ──ち、ちくりやがった!

 創造神エイのやつ、知り合いの神様に俺の不摂生をちくりやがった!


 アレスにもヘルミオネにも促され、しぶしぶ俺は食事の席に着くことにする。

 西洋絵画でしかお目にかかれない長テーブル、背もたれが長い椅子の陳列、そして王宮パーティよろしく無駄に並べられたコース料理の品々。

 何十人も同時に晩餐をとれそうなテーブルに、俺とアレスの二人だけが着席した。


 俺は椅子に着きながら横目で眺めた。

 食事の支度をするアマゾンたち、ヘルミオネ以外の住民たち……。

 彼女たちの、褐色を。



*****



 乾燥食品ばかり口にしていた俺が久々に摂取した、生鮮食品で作られたコース料理は美味しかった。

 やたらと量が多いのは気になったけれど、一度これだけまともな食事をすれば、今日一日、いや明日の夜くらいまでは何も食べずに過ごせるんじゃないか?

 ……などと企んでいれば、それまで黙々と食事をしたいたアレスが、デザートの果物を手にしたあたりでようやく口を開いた。


「貴様は我々の『仕事』を知っているか」


 その赤い果物は、俺がまったく知らないものだった。葡萄よりも大粒だけれど、ザクロや桃とも違う。


「我々って……お前ら神様の話か?」

「そうだ」


 アレスはかつて別の世界で知り合った、、ビイよりもはるかにしっかり聞き取れる声と言葉を連ねていく。


「人間もアマゾンも、貴様らは『無限むげんそら』に存在する地上に棲まう生命である」

「『無限の天』……もしかして、宇宙のことか?」

「そうだ」


 単語こそ初耳だったが、俺は不思議と腑に落ちた。

 なるほど、やっぱりアレスの世界も創造神エイの世界も、違う大陸……あるいはちがう天体ほしに位置していたわけか。

 それに──やっぱり。


「やっぱり、お前ら創造神って……」


 俺は問いかけた。

 アレスに──彼が従えているアマゾンたちとほとんどよく似た造形デザインの神様に。


「神様という『種族』ではないんだな?」

「そうだ」


 アレスは答えた、俺が以前からなんとなく察していたことを。


「我々は『無限の天』に存在する数多の生命、その終わりを迎えた肉体が神格を得て顕現している」

「要するに……生まれ変わりか」


 あらゆる種族から生み出された──生まれ変わった神様。

 俺は苦笑した。ファンタジーにも程がある。

 まさかこの十年余りの生涯で、異世界召喚を経験するだけじゃ飽き足らず!


「人間じゃなくって、神様のほうが『異世界転生』してるのかよ……!」


 神様によって俺たち人間が転生させられているんじゃなく、むしろ神様のほうが転生した後の存在だったなんて。

 アレスの姿形を見るに、おそらく彼は、今まさに自身を囲っている住民たちを前世とした、元・アマゾン族の神様なんだろう。

 そして以前知り合った創造神ビイは、電池を食料としている傀儡、ロボット族……と呼んで良いのかどうかは知らないが、とにかくあいつら機械仕掛けを前世としているんだろう。

 そして……そして、俺をあの世界に召喚した創造神エイは!


「あいつ……やっぱり『元・人間』か!」

「我々の仕事を知っているか人間」


 軽く二メートル近くありそうなアレスが、赤い果実をあぐりと頬張る。向かいの席からも果実の芳醇な香りが漂ってくる。

 空になった皿を淡々とアマゾンたちが片していく、その姿にまったく目もくれないままアレスは告げた。


 ……たぶん。

 俺をあの世界に喚んだ創造神が、ずっと黙っていたことを。

 そして、創造神に喚ばれた俺が、一番知らなければいけなかったことを。



「創造神としての『使命』とも表現できる。『無限の天』に選ばれた我々の仕事は、『最高の世界』を創造することだ。そして最も優れた世界を創造した神こそ、この数多の星の頂点──『天神てんじん』となるのだ」



 …………もしかして。

 いつものゲーム感覚で「都市開発」やってたけど。

 リアルに都市開発舐めてたのって、創造神じゃなくて俺のほうだった!?



(Day.22___The Endless Game...)

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