Day.21 その都市、その世界はいったい誰のためにある?

 あ……ありのまま、今起こった事を話すぜ!


 少年おれは創造神に「縛りプレイ」と「尋問」を食らったと思ったら、いつのまにか違う都市せかいに飛ばされていた。

 な……何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何をされたのかわからなかった……。頭がどうにかなりそうだ……俺はきっとこれから、もっと恐ろしいものの片鱗を味わうことになるんだろう。


「つーか、もう味わってるう!? ぎゃあぁああああああああっ!!」


 ──颯爽と。

 飛ばされた別の都市いせかいで出会ったアマゾン族のHカップ・ヘルミオネに脇で抱えられ、俺は森の中を颯爽と移動していた。

 自分の足で走っていないから、体感マッハな人外ヘルミオネの走行スピードに人間の思考が全然追いつかない。これっ、もしかして車より早いんじゃねえ!?


 異世界に飛ばされたと思ったらヘルミオネと出会ったと思ったら熊に襲われたと思ったらヘルミオネが熊を倒していた。

 そして、いつのまにか合流した他のアマゾンたちに熊を託したヘルミオネが、


「何? 『軍神ぐんしん』に会いたい? あいわかった!」


 ……と相槌を打つなり、この有様。

 展開も走行スピードも早すぎて、俺の脳内CPUシーピーユーはクラッシュしそうだ!

 都市開発ゲームだってなあ、未開の地では「時間」の経過スピードもひとまず「一倍速」に設定しておくもんなんだよ。いきなり「倍速」に設定したら、都市の開発状況整理もトラブル対応もまともにできなくなっちゃうんだよ!


「た、たのむヘルミオネ! いったん『停止』ボタンを押してくれえええええっ!」


 もしこの場に創造神がいたら、きっとあいつはこう返すだろう。

 ──ここはゲームの中ではないんだぞ、少年。現実世界で時間を止めることなど、全能なる創造神わたし不可能に決まっているだろう?


「うわあ言いそう! めっちゃ言いそう! たぶん時間停止ボタンとか持ってるよ創造神あいつ!」


 創造神の勝手なイメージを押し付けているうちに、俺とヘルミオネは森を抜ける。

 森を抜けた先にあったのは、いわゆるこの世界の住宅地区──アマゾンたちの『集落』だった。



*****



 ……ものすごく今更だけれど。

 俺がプレイしてきた都市開発ゲームの大半は、もんのすごく近代的モダンな世界観でデザインされている。高層ビルが並んだり、謎の研究所が建ったり。


 対して、アマゾンたちが暮らす集落は俺から見ればもんのすごく古代的クラシックだった。

 クラシックというかレトロというか、地球で言うところの「原始時代」?

 さすがに原始時代は言い過ぎかもしれないけれど、木造住宅と表現するのもはばかられるような、雨風を凌げればじゅうぶんみたいな簡素すぎる家が並んでいた。


 ──なんだろうな、胸がモヤモヤしてきた。

 このモヤモヤはヘルミオネのHカップが原因かと思っていたが、たぶん巨乳それだけじゃない。

 さっきからヘルミオネと同じような服装をした女たちが、同じような造形をした住居のまわりをうろついている。


「はあ〜〜〜…………」


 失望のため息。


「もろもろ世界観デザインが古臭え……ここの創造神と掛け合って、俺に家の設計デザインから全部やり直させて欲しい……」

「さっきから何をぶつぶつ呟いているんだ?」


 ──「MODモッド」も自分で弄れない都市作りシミュレーションなんて意味がねえ!

 そんな俺の心の叫びは、ヘルミオネには届いちゃいないだろう。



「オレたちの主人に会いたいのだろう?」


 ヘルミオネが手招きをする。

 視線の先にあったのは、そんな量産型かつ古臭いアマゾンたちの住居とは対照的な、かなりの高さがあって白い柱が何本も建ち並ぶ──


「ああ、もしかして『神殿』ってやつ?」


 時代の古さこそ感じるものの、他の住居よりも遥かに豪華な建物を見上げた俺はふと疑問を抱く。

 ──あれ?

 そういえば、俺ん都市とこの創造神って、市長おれの家に入り浸ってばっかで自分の「神殿いえ」は持ってなくね?


「何? キサマの世界には『神殿』がない? そんな馬鹿な!」


 俺からそのことを聞かされたヘルミオネが、ぱちくりと吊り目を瞬かせながら。


「オレたちが神に喚ばれたら、真っ先に建設すべきは『神殿』だろうに!」


 ──いやいやそんなわけねえじゃん! と俺は言い返した。

 本当ならば地形作りからやりたいところだが、最低でもインフラ整備から取り掛からなければ都市せかいの発展が遅れてしまう。発電所、水道、ゴミ処理施設。区画を決めて道路を引いて住民たちの家や職場を用意して、ようやく都市開発のスタートラインだ。

 これ都市開発ゲームの常識だから! あたり前田のクラッカーだから!


 すると、ヘルミオネは露骨に眉をひそめた。

 そんな開発ものは自分たちにとっての「常識あたりまえ」などではないと。


「キサマは何を言っているんだ? オレたちがいったい、この地で生を受けたと思っている」

「は?」

「オレの命は、『軍神』様のためにある」


 たゆんと豊満な肉体を揺らして。

 自分たちがを、ヘルミオネは俺に告げるんだ。


「いかなる世界まちも彼ら『創造神』のために存在しているのだ──すべては、オレたちが主人かみの御心のままに」



*****



 それで、とヘルミオネは俺に問いかける。


「人間。──キサマのあるじの名は何と言うんだ?」


 少年おれをあの世界に召喚した、創造神の名前。

 俺はひとまずあいつのことを「エイ」と適当に呼んでいるけれど、その名前は本当にノリで付けただけだから、他の都市のやつに言ったところで誰だかさっぱりわからないだろう。

 そう答えてやれば、ヘルミオネは首を捻りながら。


「キサマの創造神はもしや……『名無し』か?」

「は?」

「その程度の『信仰力』でよくオレの主と知り合えたものだな」


 名無し? 信仰力?

 言葉の意味を理解しきれていないうちに、俺たちは神殿の内側へと入り込む。

 敷き詰められた柱の内側を進み、奥へ奥へと誘われていく間にも褐色肌のアマゾン族と何人もすれ違った。


 そして最奥で俺が目にしたのは、この世界まちでは初めて遭遇した俺以外の男。

 ──軍神アレス。

 アマゾンたちを従え、そこに座していたのは軍神アレスだ。



 …………え。

 冗談とかネタ抜きで頭がどうにかなりそうなんだけど。

 少年おれって今、いったいなんの「試練ゲーム」をさせられているんだ!?



(Day.21___The Endless Game...)

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