Day.15 うたは時として会社も都市も、世界すら救いますので
ぶん、ちゃっちゃ……。
ぶんちゃっ、ちゃ……。
大木の下、晴天の原っぱ。
統一されていないテンポと均一でないリズムで、オルガンを奏でているのは妖精アルファだ。
──へ、下手くそ!
両手で弾いているくせに「
アルパカたちと少年が大きく揉めている最中、彼女が突然、私に楽器の創造を頼んできたのだ。
こんな緊急を要する状況でどういう風の吹き回しだか知らないが、要求を受けてしまった以上作らないわけにはいかない。
ぶん、ちゃっちゃ……。
ぶんちゃっ、ちゃちゃっちゃ……。
何拍子なのかも分からないほど拙い伴奏をしばらく眺めていると、大木の幹から、ぞろぞろとアルパカたちが姿を見せた。
いつものスーツ姿でありながら、ふわふわの毛むくじゃらな頭には、三頭ともなぜかネクタイを巻きつけている。鉢巻きみたいになっているが、いったいどうしたんだアルパカ族? まるで歳重ねた人間の酔っ払いおじさんだが?
二足歩行の足取りもなんだかおぼつかない。
原っぱに出てきた素面のアルパカ族トリオは、両手を腰に当て、ブサイクな足さばきと共に喉を鳴らし始めた。
──唐突に始まった音楽は、なんの捻りもないCメジャーから始まるんだ。
*****
♪妖精アルファの前奏(4小節)
♪代表取締役・クロの独唱(8小節)
パッカー、パッカー、アルパッカー。
ラクダーじゃないよ、アルパッカー。
カチクのミライをまもるためー、
週休二日でまいりますー。
♪妖精アルファの間奏(4小節)
♪営業部長・シロの独唱(10小節)
パッカー、パッカー、アルパッカー。
カピバラーじゃないよ、アルパッカー。
朝九時、夜九時、深夜五時ー、
二十四時間、年中無休で対応いたしますー。
♪妖精アルファの間奏(4小節)
♪製造部長・ベージュの独唱(10小節)
パッカー、パッカー、アルパッカー。
ラーマーじゃないよ、アルパッカー。
カチクに保険はありませんー、
給与は完全歩合でまいりますー。
♪妖精アルファの間奏&謎のオルガンソロ(7小節)
♪アルパカ三重唱(8小節)
ッララララー、ッママママー、
(ッラララッラー、マママママー、)
カチクのミライをまもるためー。
ッララララー、ッママママー、
(ッラララッラー、マママママー、)
年末年始も返上でー。
ッララララー、ッママママー、
(ッラララッラー、マママママー、)
サービス残業大歓迎ー。
ッララララー、ッママママー、
(ッラララッラー、マママママー、)
第二も既卒もいらっしゃいー。
♪妖精アルファの間奏&謎の転調(4小節)
♪クロの独唱&シロとベージュの
ッラララッラー、マママママー、
(カチークカチク、チクタックー、)
ッラララッラー、マママママー、
(ホワイト企業のカッチックー、)
ッラララッラー、マママママー、
(カチークカチク、チクタックー、)
ミライは明るいアルパッカー!
(ミライは明るいアルパッカー!)
♪アルパカ三重唱(∞小節)
ッラララッラー、マママママー、
(カチークカチク、チクタックー、)
ッラララッラー、マママママー、
(カチークカチク、チクタックー、)
*****
──ちょ。
ちょちょ、ちょっっっっっと待て。
なんだよその……唐突に始まった、三分あまりの耳地獄は!?
「いかがでしょうか? 創造神どの」
──いかがでしょうか、ってなにが!?
妖精アルファの「ぶんちゃっちゃ」が止まない原っぱで、クロが私に言葉を投げかける。シロとベージュも「カチークカチク」と軽快な足取りで踊り続けている。
いったいなにが始まったのかさっぱりなのは、どうやら私だけではないらしい。大木の枝に並んだアパートから、続々と妖精たちが顔を出しては凄まじい形相で悲鳴を上げている。
ほら、妖精アルファの彼氏も叫んでいるぞ! あと三秒でもお前たちの歌声を聞いたら、体内から
「こちらは『カチク・コーポレーション』の社歌でございます」
──しゃ、社歌!? その低クオリティで!?
「こちらの世界に支社を置かせていただく際は、ぜひともこの社歌を創造神どのの『聖歌』に採用していただければ」
──せ、聖歌!? その企業イメージも神への信仰心もすこぶる低下しそうなクオリティで!?
「ところで、市長の
──まだ遅刻してないよ! 予定時刻の二時間前だよ! あの少年が怠慢呼ばわりされてしまうなら、お前たちアルパカ族はその社歌の存在が怠慢だよ!
ツッコミという名の抗議が私たちの間で飛び交っているにも関わらず、アルパカ族トリオは再び妖精アルファに前奏の合図を送った。
やめろ妖精アルファ! お前もお前だぞ! なんだよその不気味なオルガン、メルヘンチックな外見に反して
私の抗議も虚しく、なぜか得意げな顔をしている妖精アルファが再び両手を鍵盤に置いた。左手の親指に右手の人差し指と中指の三本で、再びオルガンから微妙に調律のあっていないCメジャーが奏でられる。
そして繰り返される破滅の足音……。
しょ……少年!
助けて少年!
私の創造した世界史上、最大の緊急事態だ!!
はやく……はやく、この住民たちをなんとかしてくれえ〜〜〜〜〜っ!!!
(Day.15___The Endless Game...)
*****
【作者の余談】
この話は本当はもろもろが解決した「Day.16」に持ってくる予定だったのですが、本日がエイプリルフールとのことで急遽、予定を前倒しにしました。……エイプリルフール関係あるか???
また『カチク・コーポレーション』の社歌は、いずれ当方で制作できればと思っております。嘘じゃないよ!
ッララララー、ッママママー、ブラック企業の代名詞〜♪
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