Day.12 種族と見た目で判断するなよ、低俗で無能な人間風情が

 ──「少年おれ」の話を、ちょっとだけ聞いてほしい。


 確かに俺は、都市開発シミュレーションゲームが好きだ。

 一番好きだ。あいらぶ都市開発。

 でも、ゲームなら大抵のジャンルはこなしてきたつもりだ……学校の「五教科」なんかよりもずっとずっと真剣に。


 ロールプレイングゲームR P Gもそのひとつだ。

 俺は一度やると決めたゲームは、クリアするまで絶対に他のゲームには手を出さない主義なんだ。

 最高マックスレベルになるまでラスボスと戦闘しないなんて当たり前だ。俺は新しい町へ行くごとに、最新の武器や装備がすべて揃うまではひたすらモンスターを狩って資金集めする。

 仲間集め? 後回しだよそんなもん。仲間かと思ってついつい話しかけたら、実は敵キャラ(しかも強キャラ)でした〜なんて展開はお約束だからな! いつだって信じられるのは、自分の実力スキル努力レベルだけなんだ!


 ──で、何が言いたいかというと。


 RPGアールピージーのお約束といえば、人間以外の「種族」が当たり前のように出てくるってことなんだ。

 俺が今いるココとか、モロに異世界だしな。

 ……まあ普通なら、初手で「創造神」が出てきたりしないけどな! ゲームのストーリーにもよるだろうけど!

 だから、俺が召喚された異世界で「妖精」とかいう架空生命体ファンタジーが出てくるのもまあ理解できるし、ロボットしか住んでいない世界だって……まあ若干世界観ジャンルがブレてるなと思いつつ、それでも一応は理解できるわけだ。



 ──それで? 創造神Aエイ


 ついさっき創造神Bビイ都市せかいから、俺たちの都市せかいに戻ってきたわけだが?

 ……も…………もう一度言ってみろ。

 お前は今から、ここへ「何」を喚んでくるって?


「『羊駝アルパカ』」

 「羊駝アルパカ」!?



*****



 創造神ビイが作りし「傀儡ロボット」たちの世界では、貿易問題と住民のストライキにより食糧不足の危機に陥っていた。

 そこで少年は、彼らの問題をひとつの近隣都市いせかいとしてともに解決すべく、まずは傀儡ロボットたちの食料である「電池」を製造できる技術者エンジニアを、私たちの世界で雇うことに決めたのだが──


羊駝アルパカって、それもう『種族』じゃねえだろ!?」


 ──その技術者エンジニアを私が召喚しようとすると、少年は真っ青な顔で制止した。

 どうしたんだ、少年? 何をそんなに慌てている?

 工業製品でんちを作る技術を有した「種族」を、新たな住民に迎え入れるという話だっただろう?


 ずばり──「羊駝アルパカ」だろう?


「ずばり羊駝アルパカじゃねえよ!」


 狼狽する少年に私は首を傾げてやった。

 そして、辺りにいる妖精たちに確認を取ってみた。……なあ、どう考えても「羊駝アルパカ」だよな?


「『羊駝アルパカ』じゃね? どう考えても」

「『羊駝アルパカ』じゃねーよ! どう考えても!」


 ほら、妖精アルファだって納得してるじゃん。

 少年だけだよ? 違う違うって騒いでいるのは?


羊駝アルパカは種族じゃなくて、動物っていうか、なんていうか、こう……しゅ、種族じゃねーよ!」

 ──なんだその抽象的なツッコミは!? 少年らしくないな!?

「あとまずいよ! 動物は動物でも、特に羊駝アルパカが出てくるのは俺たちの『界隈せかい』ではめっちゃまずいよ!」

 ──まずい? 何がまずい、言ってみろ。

「言えないレベルでまずいんだよ! せ、せめて違う動物か……せめてせめて、漢字を『羊駄アルパカ』とか『羊駱駝アルパカ』に変えろ! つーか、カピバラとかじゃ駄目!?」

 ——少年が何をそんなに怯えているのか知らないが、おそらく勘のいい読者にはとうの昔にバレているよ?


 少年は頭を抱えながら、


「俺はてっきり、技術者エンジニアと言ったら『ドワーフ』あたりだと……」


 私は、少年が言い放った新・住民候補に苦言を呈した。

 おいおい少年、しっかりしたまえよ。

 ドワーフという種族は確かに存在しているが──奴らは物作りなんてまるで出来ない、無職ニートの集まりだよ?


「まじで!? 俺の知っているドワーフと違うんだけど!」


 RPGアールピージーとかいう二次元ゲームの中で知識を得ている少年が、


「物作りとか職人って言ったらドワーフだろ!? 平均身長が低くて髭ボーボーの、エルフとめっちゃ険悪だって噂の!」

「エルフとドワーフって、確か昔から『ズッとも』じゃね?」


 バタム!

 妖精アルファの証言にひっくり返る少年であった。


 もっとも、ドワーフの平均身長が低いという少年の前情報は正しい。逆にエルフの平均身長は高いという情報も私から付け加えておこう。

 そしてドワーフという種族は昔から……特に男ドワーフは、そんな背丈が高い女エルフたちがたいへん趣味タイプであるとも付け加えておこう。



「ゆーて、エルフも全然仕事しない奴ばっかだけどな? あいつら、創造神ばりに強力な魔法が使えるからさ。いくらでもサボれるんだよ。ええと、こーいうのなんて言うんだっけ? 『類友るいとも』って言うんだっけ?」

「なんだよそれ……どうしたんだよ急に……ここまできて、急に『種族設定』がガンガン盛られていくじゃないか……!」


 都市開発がテーマじゃなかったのか、と意味のわからないツッコミをしている少年に構わず、私は召喚の詠唱を歌いはじめた。

 ──いつもの奴、いっきまあす!


 אתה לא תבגוד בי

(訳:お前は私を裏切らない)

 אני לא אוהב אותך

(訳:私はお前を愛さない)

 אתה עבדי הנצחי

(訳:お前は私の永遠の下僕だ)

 חירה טובה, החיים שלך

(訳:選択するが良い、お前の人生を)

 הדרך הנשגבת של "נשגב לה'"

(訳:「神への従属」という崇高なる道を)


 新世界誕生の「儀式」をした地点と同じ大地で、召喚陣が展開されていく。


 さて、今回はどんな住民だろうな?

 妖精たちはいささか、少年とは性格キャラが合わないパリピ系だったが。

 怠け者のドワーフとは違って、アルパカという種族はいたって生真面目な性格だと聞き及んでいるが……。



*****



 こうして、私の世界に姿を現したのは。


「お初にお目に掛かります、創造神"בורא"どの」


 二足歩行をした、スーツ姿のアルパカが──


「わたくし、アルパカ族にして『カチク・コーポレーション』の代表取締役、クロと申します」

「わたくし、アルパカ族にして『カチク・コーポレーション』の営業部長、シロと申します」

「わたくし、アルパカ族にして『カチク・コーポレーション』の製造部長、ベージュと申します」


 ──横並びとなって、口々に名乗りを上げていく。

 スーツの胸ポケットから名刺を取り出せば、創造神わたし、少年、そして妖精アルファの順番に手渡して。


「それではさっそく、ミーティングをいたしましょうか」


 アルパカ・トリオのリーダーと思わしき代表取締役クロが、かしこまった態度でこう告げた。

 全能たる私ではなく──この都市せかいの市長たる少年に向かって。


「何卒よろしくお願いいたします、低俗で無能な人間風情」



(Day.12___The Endless Game...)

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