Day.11 人間だって妖精だって機械だって、食べ物は自分で選びたいよな分かる分かる

 機械じかけの住民が暮らす、創造神ビイの「最高の世界」。

 そんな世界に招待された私と少年は、到着するなり──ただ一言。


「──世界観ジャンルが全然違うじゃないか!?!!?」

 ──世界観ジャンルが全然違うじゃないか!?!!?


 植物は生えていないし、動物も見当たらない。大地の恵みとか自然の富とか、そういった有機物とはまったく無縁の光景が目前に広がっていた。

 ギギギ、ゴゴゴと規則的に動き回る傀儡ロボットたち。

 歯車が付いた鉄塔や鉄筋の建物が、ギギギ、ゴゴゴとゆったりした動作でコンクリート上を移動している。


 こ、これ……本当にファンタジー世界なのか!?

 私が創造している世界とは、明らかに世界観ジャンル専門カテゴリが違うと思うのだが!

 それに──


「ふーん? あれ、普通に動いてんじゃん?」


 妖精アルファが髪のリボンをいじりながら問いかける。


「この世界のどこが潰れそうって話なわけ?」

「コノセカイノ『ライフライン』ガコワレソウナンダ」


 キカイタチガ「ストライキ」シタカラ、と創造神ビイが落ち込んでいる。


 ──で、でたあ! 「ライフライン」! 少年の都市開発せんもんが光る光るう!

 私たちはたずねた。どの施設に問題が生じているのかと。

 機械たちの世界ということは、やっぱり「発電所」かな?

 それとも、機械たちから生じた錆や廃棄物ゴミを処理する「焼却炉」かな?


בוראエイ……ク、クワシイネ?」


 どこかの人間市長しょうねんに思考を毒された創造神わたしを、困惑した面持ちで見返した創造神ビイが答える。

 それは、無機質なこの世界では一番意外な答えかもしれなかった。


「──『ノウジョウ』」



*****



 私たちが創造神ビイに連れてこられたのは、この世界で暮らす住民キカイたちにとっての「農場ノウジョウ」だった。


 ……おっと、諸君。

 もちろん人間きみたちが想像しているような「農場」とはまったくの別物だよ?

 機械じかけの住民、言ってしまえば「ロボット」にとっての農場だ。

 彼らが食料としているのは──



「『キカイ』タチハ『デンチ』ヲタベル」


 ゴポゴポと、農場のあちこちで水の音が聞こえる。

 住民たちが行動するためのエネルギー源である「電池それ」は、燃料の元となる液体が入った数多の巨大ボンベから生み出されていた。


 ──創造神ビイの説明によれば。

 私みたいな創造神チートとは違い、電池は真面目にも彼ら住民たちの手で作られていたらしい。


「俺は『電池』の作り方にはあんまり詳しくないが……」


 少年が腕を組みながら、


「たぶん、電池って『製造品』だよな? 電池としてそのままぽんっと出てくる代物じゃなかったはずだ」

「ウンウン、ソーイウコト」

「電池の元となる原料エネルギー……要は『資材』が必要なんじゃないか?」

「ウンウン、ソーイウコト!」


 詳しくないと言いつつ理解の早い少年。創造神ビイが少しだけ嬉しそうに、


「コノ『ノウジョウ』デツクッテルノハ、ソノ『ネンリョウ』ナンダ」

「ふうん。燃料電池か」

「デモ、サイキンハ『シゴト』ヲシナイ『キカイ』ガフエテキテ……セカイカラ『ネンリョウ』ガナクナッテシマイソウナンダ」


 燃料がなくなれば、当然電池は作れない。

 電池がなくなれば、当然機械たちは生きていけなくなってしまう。


 なるほど──確かに「世界滅亡けいえいはたん」の危機だ。



 少年はたずねた、住民たちの「ストライキ」の原因を。

 すると、創造神ビイが途端に声を潜めはじめた。


ニ……シテクレル……?」


 私たちが頷けば、創造神ビイが言葉を続けた。


「ネンリョウカラ『デンチ』ヲツクッテイルノハ、ボクノセカイジャナインダ」

「はあ?」

「トリヒキシテイル『セカイ』ガアルンダヨ」


 この世界で機械たちが作っている燃料を──電池に加工レベルアップしている「近隣都市いせかい」。


 分かったぞ! と少年が両手を叩いて。


「さては、創造神ビイ! 近隣都市にぼったくられてるな!?」

「エ?」

「自分の都市で生産している『資材』を安く買い叩かれた挙句、その資材で『製造』した電池を高く売り付けられているんだろう? 貿易問題だろう? さては!」


 なるほど、と私も妖精たちも納得する。

 創造神ビイの世界では、どうやら燃料の生産技術があるにもかかわらず、その燃料を電池に加工する技術が大幅に遅れているらしい。

 ……ロボットのくせに製造技術が低いとか…………だ、ださいな?


「住民たちの『教育』レベルが不足しているんだな。さっさと工業区を『ハイテク産業』に置き換えないから……近隣都市との『取引』もいろいろと面倒だが、なによりも『農業』の放置が都市発展を著しく妨げる戦犯なんだよ……」


 ぶつくさと謎の用語を並べ立てる少年。

 詳しくない詳しくないと言いながら、めっちゃ分析するじゃないか少年!


「『オカネ』ノモンダイダケジャナイ」


 創造神ビイが肩を落としている。


「サイキンノ『デンチ』……ンダ」

「はあ?」

「ボクタチノ『ネンリョウ』ハサイコウダケド、タブン、チガウセカイノ『ネンリョウ』ガマザッテル」


 ──なるほど!

 加工品はおろか、原材料すら「国産」百パーセントじゃなくなっていると!


 はあぁ、と大きなため息を吐いたのは少年ではなく妖精アルファだ。


「やっぱあるんだよね〜、そーいう舐めたことするイタい世界!」

 ──い、イタい?

「衣食住に関わるもんは、まじ自家製ハンドメイド推奨だから。魔力マナも一緒。外注品オーダーメイドなんか絶対に信用したら駄目!」

 ──ああ、だから妖精きみたちって服も自分で編んでいるのか!

「前にあたしがいた世界とこもまじでクソだったから。あたしらになんの断りもなく魔力マナ動線ライン変えるようなクソ上司かみだったから」


 お前は絶対にそういうことすんなよ、となぜか私が睨まれる。

 従属のくせに偉そうな妖精アルファを見下ろしながら、私は少年に問いかけた。

 それで……少年? この世界に何か解決策はあるのか?


「最終的には、やっぱり食料デンチは自分の都市せかいで生産できるようにしたほうがいい。ただ、製造技術ってのはそう簡単には向上しない」


 だから、と。

 少年は一呼吸置いて。


「創造神ビイ──まずは『電池』の取引先を変えよう」

「カエルッテ……ドコニ?」


 創造神ビイは言い返した。

 電池を食料としている世界は、実はそれほど多くないのだと。

 数に限りある世界で、限りあるコネクションで、電池や燃料のやりとりは行われているのだと。



*****



 ──少年が視線を向けてきたのは、ビイではなく。


「創造神エイ」


 少年が私に問いかけた。


「俺たちの都市せかいに、新しい『住民』を呼ぶぞ!」


 ──れ、Reallyレアリー!?


 言った! ついに言ったぞ!

 都市が完成するまで他の住民は絶対に入れませんとかほざいていた少年が!!

 つ、ついに自ら!!!


「住民は住民でも、電池を製造する技術スキルを持っている住民だ」


 住民、言い換えるなら──「種族」。


 それも今回はロボット以外が望ましい。創造神ビイの世界と同じ種族では、都市間の関係性でいざこざが起こりそうだからな。

 どこか心当たりはないか、と少年にたずねられ私は答えた。


 技術者エンジニアと言えば、やはり彼らだろう。


 私が目指す「最高の世界」。

 妖精に次ぐ、新たな住民とは……いったい?



(Day.11___The Endless Game...)

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