Day.9 いよいよ創造神の本気を見せるときが来たようだな諸君

 …………。

 …………えー…………。

 あー……どうも。市長です。

 土地造形やら区画設定やら交通網整備やら、全然まだまだ発展途上の都市まちですが、いつも俺たちの「都市開発」を応援してくださり、本当にありがとうございます。


 そして、「あれれ? いつもの創造神あいつはどこへ行った? 『地の文ナレーション』は創造神の担当だったのでは?」などと不思議に思ったそこのあなた。

 ここにいる俺もまったく同じ気持ちです。

 実は、俺ん家のリビングに創造神の書き置きがあり、妖精たちもまとめてここへ呼び出された感じです。

 市長おれの家からも妖精たちの大木アパートからも遠く離れた、完全に未開拓の荒野の上に立ってます。


 ……………………で。

 語り部ナレーションをほっぽって、いったいどこへ行ったんだよ創造神あいつは!



*****



「——……はぁあ〜〜〜はっ、はっはあ!」


 ぴかぴかと。

 突然、何もなかった荒野に「召喚陣」が展開されたかと思えば、ぴかぴかと全身を輝かせながら例の創造神あいつが現れた。

 いつもはモザイクアート的に突然出てくるって感じの「召喚」なのに、今日はなぜか地面の下からぬぅ〜んと出てきた。ふうん、一口に「召喚」と言ってもいろいろバリエーションがあるらしい。


 両腕を組み、甲高い笑い声と共に現れた創造神が叫んだ。


「私の世界へようこそ、下僕たち!」


 ——いや、ようこそも何も、一週間くらい前からずっとここに住んでるけど?

 それからなんだよ「下僕」って。誰がいつ、お前のしもべになったんだ?


 俺がそう言い返してやれば、創造神は少しだけ口を尖らせて答えた。


「いつからも何も、お前たちは初めから私の下僕だよ?」

 ——そうだったのか?

「なにせ私の召喚に応じることができるのは、私への従属を誓った者だけだからね」

 ——そうだったのか!? 完全に初耳なんだけど!

「いわゆる『契約』というやつだよ、少年。もちろん妖精たちもだ。まったくお前たちというやつは、全能なる創造神に向かって失礼にも程があるんじゃないか?」


 まるで身に覚えのない契約を取り付けられていた事実に、俺は唖然として創造神を見返した。妖精たちも口々に「知らな〜い」「何こいつうざ〜い」などと勝手なことを騒いでいる。

 そんな俺たちの様子などお構いなしな創造神は、


「さて諸君。私がそんな従属たる諸君を呼んだのは他でもない」


 本題を告げた。


「ただいまより、創造神わたしプロデュースによる新世界誕生の『儀式』を執り行う!」



 ぎ……儀式!?

 俺はものすごく驚いた。

 つっても召喚やら創造やら「魔法」を多用する神様なんだから、「儀式」があってもなんの不思議もないのだけれど。


 ただなあ……儀式イベントって……。

 おいおい待てよ創造神。

 ここがもし、都市開発とか「シミュレーション系ゲーム」の中だったら——それ、終盤も終盤の展開だぞ!?



 対して妖精たちは、驚くどころか喜んでいる様子だった。

 とにかく楽しいことが大好きな妖精たちには、段取りとか開発手順とか、細かいことなんかど〜うでも良いらしい。


「そ、それで……儀式って、いったい何をするんだ?」


 完全に専門外な話題トピックに付いていけない俺が問いかければ、よくぞ聞いてくれましたと創造神が胸を張る。


「少年よ。儀式とはなんのために行うものだと心得る? 今後の世界の発展を願い、少年が私の従属であることをこの大地に示し、何より世界の存在を公に知らしめ認めさせることこそ、儀式の大義となり得るのだよ!」


 俺はしばらくの間は頭を捻っていた。

 大地はともかく……公ってなんだ? おおやけ?

 公に知らしめるも何も、この世界にはずっと俺たちしかいない——


「——……は…………っ!?」


 ——俺は気がついてしまった。

 そうだ。この都市せかいには俺たちしかいなくっても!


「その通りだ、少年!」


 創造神が満面の笑顔で答えた。


「これから諸君には、私と同じ『創造の神』が集いし場所へと付いてきてもらう!」


 この都市せかいとは違う——それぞれの『異なる世界』を作りし神々どうるいの集合場。


 ぱちぱちと拍手や歓声を上げている妖精たちだったけれど、俺はむしろ顔面蒼白の大事件だ。

 何を言っているんだ創造神! 見ろよこの光景を!

 まだぜ〜んぜん完成していないじゃないか。こんな状況で他の神様たちに、俺たちの都市せかいなんか公表したら——



*****



「ま、まだ早すぎるって!」


 少年が真っ青な顔で抗議した。


「いくらなんでも早すぎるだろ! こんな都市せかいを『近隣都市いせかい』に披露してたまるか! せ、せめて、ちゃんと地図が書き終わってから——」


 私は言葉を返してやった。


 心配いらないよ少年、新しい天地の創造を公にするだけだ。

 この世界の全体像を見せるわけではない。この儀式において重要なのは、私の新たな従属となった、お前たちを神々やつらに紹介することなんだ。


 私の新たな——「最高の世界」を作る仲間たちを!


 אתם נבחרתם על ידי

(訳:お前たちは私に選ばれた)

 ההתכנסות כאן היא אבן היסוד של אהבה צייתנית

(訳:ここに集うは従順なる愛の礎である)

 תסתכלו, בני ארצי

(訳:刮目するが良い、我が同胞たちよ)

 נמה שנפתח כאן הוא תלם האהבה הנשגב!

(訳:ここに拓かれしは崇高なる愛の轍である!)


 詠唱を歌えば、少年や妖精たちの身体も光を帯びる。

 ひええええええええぇっ! と声を漏らす蒼白な少年の顔が、この大地に残っていたのはわずか数秒だった。



 さあ。

 ご招待しよう、偉大なる芸術家アーティストの諸君。


 全能たる創造の神が集う、無限にして永久——『白昼はくちゅうゆめ』へと!



(Day.9___The Endless Game...)



*****

【あとがき】

 いつもご愛読ありがとうございます。

 今までは何話からでも読める「1話完結型」を目指してのんびり執筆を続けてきたのですが、想像以上に好評だったため、この第9話までを「第1章」とし、ほんのちょっぴり物語にはずみを付けてみようかなと思います。

 こう見えて結構、その場その場の勢いで書いておりますので、「あれ……なんか思ってたんと違う……」みたいな感じになったらすみません。(笑)


 次のエピソードから「第2章」に突入します。

 今後とも本作をよろしくお願いします。

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