Day.7 仕事は分業が最効率ってのはまじ常識だからな人間風情が
אתה נבחר על ידי
(訳:お前は私に選ばれた)
קבלו את ברכות הארץ
(訳:大地の恵みを受け取りなさい)
תשפוך עליי אהבה
(訳:私に愛を注ぐのだ)
בהצלחה לבסיס ההיסטוריה
(訳:歴史の礎に幸あらんことを)
少年の家、その脇で悠々と佇む大木に、妖精の新たな家を建てていく。
鳥小屋みたいにちょこんと枝へ乗っかるそれは、まさしく妖精の家にふさわしき造形をしていただろう。
——さて、少年。
妖精が新たな住民に加わったところで、私が目指す「最高の世界」作りは、いったいどこから着手していくつもりかな?
妖精の仲間たちを呼び込むための住居作りか。
「都市開発における『区画』ってのはだいたい三つあるんだよ」
少年は答えた。
「住宅区、商業区、そして工業区だ」
——ほうほう、それで?
「市長初心者が陥りがちなのは、やたらと住宅区を増やすことなんだ」
——ほうほう、それで?
「ろくに仕事もないくせに、住民だけ増やしても意味がない。だから、三つの区画で最も優先して作るべきは、開発するための資材を集めるための工業区なんだよ」
もっとも、資材とやらはわざわざ働いて産み出さずとも、この全能たる
そうは問屋がおろさねえ! と少年はすかさず私の言葉を拒んで、
「何でもかんでも創造神が提供したら、住民からニートしか湧かなくなるだろうが! 経済が回らないだろうが! 都市も国家も世界も動かないだろうが!」
——ほうほう、なるほど。
では少年よ、少年はこの世界に喚ばれる前はいったい何の仕事をしていたのかね?
「…………」
——え? 少年、なぜ黙った?
全身を黒服で包んだ少年が、ぶんぶんと首を横へ振っては気持ちを切り替えるように言葉を続ける。
「とにかく、まずは区画を考えるぞ。住民を増やすのは工業区を作ってから——」
「は? 嫌なんですけど?」
妖精が。
少年の計画を真っ先に否定した。
バタム、とその場に倒れる少年。……なあ少年、妖精と会話する時その流れはお約束にするつもりなのか?
「さっさと家作って。ちょっぱやで。んで、
新居の辺りをパタパタと舞っては、毒花のように鮮やかな色合いをした妖精が、つんとした態度でそう告げたのだった。
神様よりも市長よりも、住民たる自分こそがこの
*****
大木に作られしは、妖精アパート。
一気に賑やかとなった大木では、パリピ系ギャル族な妖精たちがきゃっきゃわいわいと騒いでいる。
そうして、満足げにこちらへと飛んできた妖精が、
「うっし! じゃあやりますかあ」
ぐぐんと宙を舞いながら背伸びしては、にかりと笑いかけたのだった。
……以後、この最初に喚ばれてきた妖精のことを、私たちは「妖精アルファ」と名付けることとしよう。
「やるって……何を? 勝手に開発進めるんじゃないぞ妖精」
「指図するな人間風情が。お前らの仕事を手伝ってやるって言ってんだよ。感謝して地に伏せろ羽なし族」
笑顔のままで罵倒する妖精アルファに、少年が再び倒れ込もうとするのを私は阻止した。
いくら柔らかな大地の上だからって、そう何度も背中からいったら、いずれは骨が折れてしまうよ少年。
妖精アルファは髪に付いた大きなリボンをいじりながら、
「まずは道路の整備だろ? あたしら妖精の飛行路と、お前ら人間の歩行路だよ」
そういえば……と少年が妖精アルファの言葉ではっとする。
妖精たちは
いくら人間世界の都市開発に明るい少年とはいえど、妖精たちの世界において、道路らしきものを引く手立てなど到底知る由もない。
とはいえ——
「飛行路はともかく、歩行路は邪魔だって話じゃなかったのか?」
蜘蛛の巣だった地図を却下された少年が、口を尖らせて問いかける。
すると妖精アルファは、偉そうに両腕を組んではぱたぱたと。
「地面の上でしか生きられない残念種族だからしょーがないっしょ? 最低限歩ける程度の道は作ってやるよ」
「ふうん、自分たちは使わない道路を作るのを手伝ってくれるんだな」
「仕事するだけだっつの。妖精だろうが創造神だろうが、働かない奴はゴミだから」
「……」
「この世界には、付き合ったらダメな男の特徴って三つあるから。女に手を上げる男、女と手を繋いで歩けない男、そして仕事をしないニート」
「…………」
——え? 少年、なぜまた黙った?
全身を黒服で包んだ少年が、ぶんぶんと首を横へ振っては気持ちを切り替えるように言葉を続ける。
「手伝うのは良いが、道路の計画を練るのは俺一人でやる」
妖精の力など借りずとも。
妖精の知恵など借りずとも。
この
しかし、妖精アルファは怪訝そうな顔を浮かべて、
「はあ? みんなで決めるに決まってんじゃん」
そう言った。
すると少年はひどく嫌そうな顔をした。
「……話し合いなんて嫌だ。いつまで経っても決まらないか、結局は誰かひとりの偉そうなやつの意見が通るかの二択だ」
——少年は、そういう話し合いを既に経験したことがあるかのように。
すると、妖精アルファは呆れたように肩をすくめて。
「そーいうのは
「……そうなのか?」
「進行役を決めて、意見出し合って交換して、良さげな意見をかいつまんで結論を出す。妖精だろうが人間だろうが、一人の脳みそなんてたかが知れてるからさ。みんなで考えた方がもっと良いアイデアがいっぱい出るし、仕事もみんなで分けた方が、ずっと早く終わるもんなんだよ」
目から鱗、とはこのことだった。
少年に限らず、全能たる
そういえば、私もまた、かつての世界では一人きりだった。
すべての創造を一人でこなし、世界で暮らす者たちの声を私一人が聞き入れた。
住民と呼べる者はたくさんいたにもかかわらず、どうしてか、あの世界では私はひとりぼっちだった。
そうか、私には今まで。
この少年がやってくるまでは。
ともに「最高の世界」を作り上げる仲間なんて、誰一人として——
*****
妖精アルファがぱんぱんと手を叩けば、彼女の周りに仲間たちが集まってくる。
「そういうわけだから、みんなあ!
はあい、と口々に返事する妖精たちを、少年はぽかんと見上げていた。
次第に開いた口を閉じていった少年に、新たな住民となった妖精たちが、一斉に声を上げるのだ。
「良い
——ここにいる住民たち、全員で。
少年は納得したように頷いた。
彼らがわざわざ続けなかった言葉を、その心へ静かに刻みながら。
(Day.7___The Endless Game...)
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