Day.2 食事と睡眠を抜いて良いのはゲームの世界だけだぞ少年
私の世界に少年を喚んでから、丸一日が経過した。
少年の指示通りに空を飛び、土地の長さを測っては看板で印を付けていく作業。
同じ作業を繰り返すのは面倒な上に退屈だ。かの有名な神だって、一日に二つ以上は異なる生命を創造していたというのになあ。
お前だって退屈だろう、少年? 同じ作業、変わらない風景、おまけにこの創造神たる私と二人きり。
不完全たる人間どもは、愛に飢えれば死ぬと小耳に挟んでいるからな。
…………いや。ちょっと待て。
そういえば、この少年、食事は摂ったか?
摂っているわけないよな、この世界何もないんだもん。水すら飲んでいないんじゃないのか。
愛どころか物理的に、自然法則的に飢えやしないか、この少年。
いや待てよ。食事だけではない。
寝ている姿も見ていない。
当然だよなあ? だってずっと、私と一緒に飛んだり着陸したりしてたもん。
神の私が命じたわけでもないのに、本当に二十四時間労働しているよ、この少年。
食べない、寝ない、
——に、人間の「三大欲求」をひとつたりとも満たしていないぞ、この少年!? 本当に人間かお前!
こうして私は、天地創造二日目にして、ようやく下僕たる少年に「神様」としての大事な命令を下した。
早急に、食事と睡眠を取るための場所を作るのだと。私のではないよ、お前のだよ少年!
すなわち——「
*****
「『市長の家』なんて都市開発での優先度は大して高くない」
——言うと思った! 絶対に言うと思った!
この少年はどうやら、都市という名の新世界を作るために必要な知識は、すべて「
実際、土地サイズの計測の手際は確かに見事なものだった。神様なんて、そんな几帳面なことをせずとも、作りたいものから手当たり次第に作るのに。地形とかその都度で良くない?
しかし、ここはゲームの世界じゃない。「
少年に死なれて困るのは、「最高の世界」の続きを作れなくなる私自身だということを、決して忘れてもらっては困るのだ。
「
——い、「一日三食」のノリで言うんじゃない!
「睡眠だって、三徹くらいは日常茶飯事だよ」
——
「だ、誰が童貞だ! 三十歳まではセーフだろ!?」
——まだ何も言っていない! 墓穴を掘るな少年!
少年はひどく鬱陶しそうに、白紙の地図を両手にため息を吐いて。
「だったら飯とベッドだけ
私は、その少年の言葉を断固として否定した。
食事は腰を据えてじっくり摂るべきだと、睡眠も野宿などもってのほかだと私は少年に説き伏せた。
ましてや、目前に全能たる
まだ「地形」もできていないのに住宅の「地点」なんて決まっているわけがない、とかいう少年の分かりきった反論も、今回は私は決して聞き入れなかった。
——「神様」は、自身の世界を創造してこそ、初めて認められ得る存在だ。
自分の世界が無かったら、私たちは生きていくことができない。
生きるために世界を作っている。決して欠かせない行為なのだ。
つまり、例え下僕だろうと従属していようと、「人間」だって同じはずなのだ。
食事や睡眠、愛の交易は、人間たちが生きる上で決して欠かせないもののはずだ。
欠かせないし、欠かしてはいけない。
少年は私の主張を聞きながら、この世界に喚ばれて、初めて「少年」らしい顔を見せた。
ぽかんと口を開けたまま、作業する手を止めて私の言葉に耳を傾けていたならば。
「……お前、
私はお前の神様だから、私の「命令」には従ってもらう。
そう告げたなら少年は、迷惑そうな顔を浮かべながらも、地図を広げて拠点の位置を検討し始める。
そして、何も書かれていない地図の、隅の方を指差して。
「開発が進んだらすぐに移転する。今回のところは極限邪魔にならない位置に建てるぞ。……で、どうやって建てるんだ創造神?」
少年が指差した地点まで、ひとっ飛びで降り立ったなら。
私は初めて、この少年に詠唱を歌って聴かせるのだ。
אתה נבחר על ידי
(訳:お前は私に選ばれた)
קבלו את ברכות הארץ
(訳:大地の恵みを受け取りなさい)
תשפוך עליי אהבה
(訳:私に愛を注ぐのだ)
בהצלחה לבסיס ההיסטוריה
(訳:歴史の礎に幸あらんことを)
まだ何もない大地の上で、召喚陣が展開されていく。
神たる私とこの下僕の屋城にふさわしい、この世界で初めての建築物が目前に姿を表すのだ。
2LDK、二階建て。私と少年で一部屋ずつ。
「さすが創造神、良い家じゃん。このまま家具も揃えて配置を考えるぞ」
地図とはまた違う紙を要求してくる少年を、私は毅然たる態度で叱りつけた。
食事と睡眠が先だ、大馬鹿者! 世界地図だけじゃ飽き足らず、家の設計図まで作る気だぞ、この凝り性。
いずれは家の設計にまでいちゃもんを付けてくるだろうと、私はこの先で読め得る展開に頭を悩ませたのだった。
*****
リビングに机と椅子だけ置いて、少年は自らが所望したカップラーメンをずずと啜る。
そうして食事を終えたなら、二階の少年の部屋にベッドを構えた。
まだ寝ない、などと頑なに労働を続けようとする少年を、やはり私は叱ったけれど。
「
——どうして、この黒服の少年は。
神様でも「大人」の人間でもないくせに、それほどまでに生き急いでいるのだろう。
いつまでもベッドの上にうずくまっては眠れないままでいる少年に。
——「子守唄」を、聴かせてやった。
どんな詠唱なのかは教えられない。教えれば「君たち」も眠ってしまうだろう?
天地とただひとつの「
(Day.2___The Endless Game...)
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