第14話 市中観光ですわ〜!
外に出ると、エムリアは転移魔法を使い馬車を呼び出した。それは白を基調とした幌付きのシンプルなものだった。
「ん? お馬さんはどこにいるんですの?」きょろきょろとスバルは見回す。彼女の言うとおり、馬がいるべき場所は空だった。
「ああ、それはユニがやるのよ」エムリアは当たり前のように言う。
「おまかせください!」胸をどんと叩いて腰に馬具を身に着け始めた。
「へー、人力車みたいなもんですのね」そう言いつついそいそとスバルは乗り込む。
エムリアはスバルを中の席に案内した。外と違って中はけっこう豪華で、ゆったりと座れる三人掛けのソファーが備え付けられていた。左右の壁には大きい窓があり、外を見渡せる。
二人はそれぞれソファーの両端にすわる。
「街の中通って、スバルさんに風景をゆっくりと見せながら帰るのがいいかしらね」とエムリアは提案する。
「ですね〜近道ですし」ユニは頷く。
「これ、なんですの?」二人の間においてある紐を持ちスバルはたずねる。片方はソファーの中央の脚に繋がれている。
「それは脱落用の紐よ。ソファーの端の輪っかに通して使うの」
「あ、シートベルトですのね!」
「しーとべると……? まあ、納得したならいいわ。あと今はゆっくり走るから使わなくていいわ」
そうして馬車は走り出した。ぽこ、ろこと。
ユニの走り方が上手なのか、馬車の性能がいいのか、振動はほとんど感じない。
レンガの街並みを眺めながら「ふーん、田舎なんですのね〜」スバルは思った感想を漏らす。
「まあ……そうね。ここは辺境の田舎だからね」
「悪かねぇですわね。たまのバカンスにはぴったりですわね」
「あらそう? スバルさんのいた街はどんなだったの?」
「やかましい場所ですわ……お屋敷から外に出たら至るところに人がいるのですわ。はらじゅくにタピオカ買いにいった日には通りに人がみっちりつまっててめちゃくちゃなんですの」
「はらじゅく……タピオカ? たくさん人いるのも大変なのね。こっちにはそんな場所はあんまりないかしら。あ、でも今度やる収穫祭はけっこう集まるわよ」
「しゅうかくさい?」
「うん、名産品のリンリンの収穫が終わった時にみんなでお祭りをするの」
「へぇ、面白そうですのね」
「一年に一度のお祭りだから、みんな張り切って準備してるのよ、ほら」とエムリアは窓の外を指さす。
馬車は大きな広場にさしかかっており、周囲にはちらほら市民の姿がみえはじめていた。木でできた出店を作る者、華やかにしようと街灯や柵に飾り付けを施す者。
「あ、エムリア様だ!」と飾り付けをしていた子供が気づき、手を振る。
そして窓を空け、優しく声をかける。「頑張ってるわね」
「はい! 今年も楽しみにしてください」きらきらした瞳で子供は答える。
他の市民達も気づき、ぞろぞろと近寄って来た。エムリアはユニに声をかけて馬車を止めさせ、自身は降りる。「スバルさん、ちょっと待っててね」老若男女、二十人程集まった市民達は会釈や挨拶を交してくる。彼女はそれに対し、丁寧に返していく。
「人気者なんですのね〜」そんな様子をみて、スバルはぽつりとつぶやく。
「そうですよ! なんてったってこの地方の領主さまですからね」馬車の幌を開けて近くに来たユニはそう答える。
「領主っていうと悪役のイメージですわ。漫画だと搾取しまくって市民をいじめるかんじの」
「まんが? でもたしかに周りの地方の領主はあんまり市民とは仲良くないかも……もめてるって噂良く聞きますし。それに」
「それに?」
「エムリア様は大領主の養子だから……色々苦労してるんです。だからみんなにやさしいんだと思います」
「養子……」とスバルは返す。
そこまで言ってユニはしまった、という顔をする。「こっ、これは秘密です! しーっ、しーっ!」とテンパっている。
そこへちょうどエムリアが戻ってくる。「ただいま〜。何を話してたの?」
「あ、や、その世間話を、へへ」ユニはしどろもどろになる。
「エムリア様がやさしいって話をしてましたわ」
「え、ユニが? 照れるわね……うれしいわ」エムリアはユニの首に手をのばし、やさしくなでる。
「え、えへへ……」ユニは顔をほころばせ、スバルにむかってこっそりウィンクする。
「あと養子っていってましたわ」
「スバルさん!? 秘密ですって!」
「……ユニさん?」エムリアは途端に冷たい声色になる。表情は変えずに、笑顔のまま。
「はっはい、ごめんなさいでででで!!!」ユニは両頬をつねられて悲鳴を上げる。
「口が軽いのはしょうがないから、誤魔化そうとしないで正直にいいなさいね」ふう、とエムリアは軽くため息をつく。
「はい……すんません」ほっぺをさすりさすり、ユニは頭を下げる。
「わかればよろしい。じゃ帰りましょ」
そうしてまた、馬車は走りだす。
ぱくぱく令嬢の胃世界すろーらいふ! 金魚屋萌萌(紫音 萌) @tixyoroyamoe
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