第5話 お喧嘩をたしなみますわ〜!

 

 店の裏。影で薄暗くなっているそこは人の気配はなく、とても静かだった。

 

 ぽいっと、地面に私は放り出される。

 

「なんなんですの! もっと食わせろですの」最後のドナドナをほおばりながら私は怒る。

 

「まだ食べてんのか。好きなのは嬉しいけどよ」

 

「私は客ですわよ!」

 

「金を払えば、な。今のお前は無銭飲食してるクソガキなんだよ」

 

「クソガキ!? 私に向かってなんて無礼な口聞くんですの!? だからカードで払うってつってんだろですの、このデカ男が!!」怒った私は言い返す。

 

 ぶち、ぶち。また店長の頭から切れる音が聞こえる。顔が赤くなり始めている。

 

「なぁ、お嬢ちゃん。これが最後の通告だ……今ここでごめんなさいして、食べた分働けば出禁で許してやる……断ったら……痛い目似合う事になるぜ」ドスのきいた声で店長は告げる。

 

「あやまる? 働く? ぜっっったい嫌ですわ!」私はきっぱりと告げる。

 

「ほう……わかった」店長は右手を振りかぶり、スバルの頬めがけて振り下ろす。

 

 ぱあん。店の裏にはたかれる音が響きわたる。

 

「まだぎりぎり手加減してやってる内に……あやまってくんねえかな。このままだとてめえを殺しちまいそうなんだ……」

 

「……」私は叩かれた頬を抑え、うつむく。

 

「痛いだろ? 俺は優しくなでたつもりなんだが……ガキには響くだ」

 

「ぜんっぜんいたくねえですわ!!!!」私は遮るように叫ぶ。

 

「なんですのこのビンタは。蚊に刺された方が痛えですわ。ドナドナの味と同じでお優しいビンタさんですわね〜」ぷぷぷと、私は笑いながら言う。

 

「もう、あやまっても遅いぜ……」無表情になった店長は左手をあげ、腰をひねり思い切りスバルの頬を張る。

 

 ぱあぁあん! 破裂したかと思うほどの音が響き、私の体は顔から横に吹っ飛ぶ。ゴン! 壁に頭からぶつかり、跳ね返る。

 

 しかし、すぐに私は立ち上がる。まるでダメージがなかった。「……全然痛くねえですわね」自分でも驚いていた。

 流石に吹き飛ばされたら痛いはずなんだけど……転生したときは頭痛かったし。

 

「すげえなお前……痩せ我慢かわからねえが、手加減しなくてすむってもんだ」自分の手のひらに拳をぶつけ店長はにやりとわらう。

 

「殴られてばかりじゃお嬢様の名折れですわ……今度はこちらから行かせていだだきますわ! おらぁ!」と私は拳を振り上げ店長に腹パンをかます。

 

 ぺちっ。拳が腹にぶつかる音が響く。まるで梱包材のプチプチを潰したような音だった。

 

「……?」店長は首をかしげる。「いや、そうだよな……か弱い女の子のパンチなんてこんなもんだよなぁ」と納得している。

 

「ふふん、どうしたんですの? 痛みのあまり、身動き取れませんの〜?」どやりんと、私は挑発する。

 

「逆だ逆。痛くなさすぎて拍子抜けしてんだよ」

 

「あなたも痩せ我慢ですの〜? こうなったらどちらかが根を上げるまで殴り合いですわね!」私も両脚を肩幅に開き、左掌に右拳を打ち付ける。「死しても恨まず、ただ強敵とめぐり合えた事を天に謝しますわ!」 

 

「そこまで煽られちゃ受けて立つしかねえな……血がたぎるぜ」


 店長とスバルは同時に飛び出し、拳をぶつけ合う!

 

 死闘の幕が、切って落とされた。

 

 ぱくぱく

 

 

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