第4話  ドナドナぱくぱくですわ〜!

 

 数分後。皿の上にあった五つドナドナはきれいサッパリなくなっていた。

 

「足りませんわ……もっと、もっとよこせですの!」机の上にあったベルを叩きまくる。ちんちんちんちんちちんちんちん!!

 

「うぃー。よびやした?」ダークエルフの店員がやってくる。

 

「ドナドナありったけよこせですわ」

 

「え、食ったんすか!? はっや。いますぐ持ってきやすね」

 

 三十秒後。ドナドナ十個がどどん! と置かれる。

 

「ぱくぱくですわ〜!」私は満面の笑みでほおばりまくる。

 

「いやぁ、すごい食いっぷりですねぇ」店員も感心している。

 

「私は天下のナツミスバルですのよ! これぐらい余裕ですわ! ん? なんか視線を感じますわね……」店員ではなく、別の視線が。窓の側の席をみやると、フードをかぶった一人の人物がじっとこちらを見つめていた。

 

  スバルより少し年上の女性のようだ。フードを突き破って一本の長い角が伸びていて、銀髪のロングヘアーだった。

 

「なにみてんですの? みせもんじゃねーですわ」そう言うと慌てて目をそらす。

 

 三分後、また皿が空になる。「おかわり!」と私は元気よく店員に皿を突き出す。

 

「うぃっす!」と店員は厨房からおかわりを持ってくる。

 

 合計三十個ほど食べたあたりでとん、と肩に手を置かれた。

 

「ん?」私はほおばりながら振り向く。そこにいたのは強面の大男だった。スバルの二倍、いや三倍はありそうだった。

 

「お嬢ちゃん、いい食いっぷりだねぇ」にこにこと笑みを浮かべて語りかけてくる。厨房の奥から聞こえてきた声が

 

「うますぎてぱくぱくがとまりませんわ!」と私は笑顔で返す。

 

「そんな美味しそうにくってくれると店長としても冥利につきるねぇ」大男は嬉しそうに腕組みをする。「ところで嬢ちゃん、お金はもっているのかい?」

 

「たりめーですわ!」私はポケットを漁り、一枚のブラックカードを取り出す。

 

「戦闘機も買える、アフリカン・エキスプレス・センチュリオン・カードですわ!」

 

「は?」と店長はなにいってんだこいつ、という表情をした。

 

「あ、リボ払いでお願いしますわ」と大男にカードを手渡す。

 

「……嬢ちゃん、お金は持ってないのかい?」

 

「そんなかさばるもの持ち歩きませんわ。カードで全部支払いますわ」

 

「カード……? こんな金属の板で払えるわけねえだろ」大男は少し語気を強める。

 

「何ふざけたこと言ってますの。とっととレジにカードを通しやがれですの」

 

「なぁ嬢ちゃん、おふざけは大概にしな。もう一回聞くぜ、お金は持ってないのかい?」こめかみに青筋をたてている。

 

「耳に垢でもつまってますの? お金なんて貧乏な物持ってないですわ!」

 

 ブチッ。大男の頭から何かが切れる音がする。

 

「あっやべえ、お父さんキレちゃった」ダークエルフの店員は言う。

 

「ちょっと裏来い」ドスのきいた声で店長は告げる。そして私の襟をぐいっとつかむ。

 

「なにするんですの! はなしやがれですわ!」私は暴れる。

 

「いいから来い!」無理やり私を引きずろうとする。私は慌てて残りのドナドナを引っ掴み、ほおばる。

 

 ずるずると引きずられながら、店の裏口へ私は連れて行かれた。

 

「あーあ、行っちゃった。お父さん怒ったらとめられないんだよなぁ……あの子、死んじゃうかも……まいいか、店番してよ」と店員はつぶやく。

 

 そして窓際にいた女性は……コップの底から紐がついたものを取り出し、紐を指ではさみゆっくりとしごく。ぴん、と真横に紐がまっすぐ伸びたのを確認してから、コップの口に向かって話し始めた。

「もしもし、エムリア・スカレット様。お探しの……大食いが見つかりました。ただ、死ぬかもですが……」

 

 

 ぱくぱく

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