第3話 はらぺこあおむしですわ!

 

  どちゃっ! 私、夏海スバルは石畳の地面に真っ逆さまに落ちた。

 

「いってえですわ!」おでこを思いっきりぶつけ、私は転げまわる。

 

「へティアの野郎……適当に転生させましたわね、今度あったら乳しぼりの刑ですわ……」ぶつぶつ文句言いながら私は立ち上がる。

 

「ここが転生した世界ですの?」きょろきょろとあたりを見回す。

 

「おイタリアに旅行したときに似てますわね……でもなんかしけてますわ……」

 

 のどかな、という表現が似合う風景だった。石造りの建物が立ち並び、『イタリア 田舎 風景』で検索したらでてくる感じの……。

 

 路地裏をぽてぽてとあるく。人の気配はない。少しするとそこは広場にでる。中央には噴水があった。

 

「うわめっちゃ血が出てますわ……」額に手をやった私は気づく。多分頭から落ちたときにぶつけたみたい。このままだと顔半分が血におおわれてしまいそうだ。

 

「とりま洗わないと……」と水道を探す。幸いにも噴水の横にライオンの口から水が出る感じのやつがあるので両手ですくい、顔を洗う。

 

「……お、とまりましたわね」そうつぶやいた途端、ぐううっとお腹がなる。

 

「クッソ腹減りましたわ……。ん! いい匂いがしますわ!」くんくんと自慢の嗅覚をつかって、においのもとをたどる。

 

 ひとつの建物の前まで来る。「ドーナツ屋ですかしら?」看板の文字は読めないけれど、横に書かれている絵は薄茶色の穴が空いた丸い物体で、ドーナツにそっくりだった。

 

 ぐう、ぐうぅ。「う、お腹のカロリーがゼロですわ……とりま入ってみますわ〜」

 

「らっしゃっせ〜」と入り口近くにいたエプロンを着た店員が声をかけてくる。若い女性のダークエルフみたいな店員だった。肌が浅黒くて、耳が横にとがっている。

 

「はらぺこですわ!」

 

「お食事っすね。こちらにどうぞ」空いてる中央のテーブを指し示し、そこにすわる。

 

「ドーナツをくださいですわ」

 

「ドーナツ……?」店員ははて、という表情をした。

 

「看板に書かれてた丸いやつですわ」

 

「看板……ああ、ドナドナですね。いくつたべやす?」

 

「ありったけくださいですわ!」

 

「ありったけ……りょっす」店員はメモを取り厨房に向かっていった。

 

「ドナドナありったけはいりやしたー」と店員は厨房に告げる。

 

「ありったけってどのぐらいだよ!」厨房から声が返ってくる。

 

「まー五個ぐらいじゃないっすかね? 嬢さん、身体小さいしそんな食えないっしょ」店員はそう返していた。

 

「ドナドナ……なんか少し悲しくなる言葉ですわね」私はぽつりとつぶやく。

 

  数分後、ドナドナが運ばれてきた。「おまたせしゃしたー」と

 

「おお、一個がでかいですわね……」スバルが知ってるのは片手で持てるサイズだけれど、目の前にあるのは両手でないと持てないほどの大きさだった。

 

 もちろん作りたてのようで、薄茶色の生地からはほかほかと湯気が立っていて食欲をそそる。

 

「食べがいがありますわ〜! 早速いただきますわ!」私はドナドナにかぶりつく。

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