第5話 『女神さま』


 『諜報員 に』、は、潜入していた国で、スパイ行為を見抜かれた上、持っていたメモリも奪われて、いのちからがら帰国したのである。



ミスター K


『あなた、しばらく、休みたまえ。基本給は、2等級下げ。払いすぎた分として、500万ドリムを国庫に返納したまえ。また、こつらから、連絡すんべ。じゃな。』



 『諜報員 に』、は、もはやこれまでと、真夜中、半日高速を飛ばして、むかしから話しに聞く『不思議が池』にでかけた。


 『諜報員 に』の失態は、すでに、国中に知れ渡っていた。


 マスコミは、言うのだ。


 『姿を見かけたら、労いの言葉を。』


 これは、もちろん、言外の意が籠っていると、本人は感じているが、さいわい、『諜報員 に』は、となりにいても、存在を感じないくらい地味なので、あまり、だれにも気づかれない。


 お池に着いた、『諜報員 に』は、慣例により、『不思議が池おきらく饅頭』を池に投げ込んだ。


 すると、最近、やましんちで、オリンピックを見ていることが多く、営業時間の深夜一時ギリギリに帰ってきた、池の女神、幸子さんは、あわてて、仕事着のすけすけドレスに着替えて、池の中から、どろどろ〰️〰️〰️、と、現れたのである。




幸子さん


『そなたは、初めてであるな。』



諜報員 に


『はい。』



幸子さん


『では、言っておくが、最近、不思議が池おきらく饅頭本舗では、参詣用の特別バージョン饅頭を用意してあるから、あなたの、経済状況にあわせて、利用なさるがよいぞ。お土産にも便利。さて、あなたが放り込んだのは、この、お徳用わけありお饅頭袋詰めか、それとも、参詣用特別バージョンの上か?』



諜報員 に


『わけあり袋詰めす。やすいほう。』



幸子さん


『あなたは、とても、正直なひとだ、両方持って帰るか。それとも、なにか、悩みを聞いてほしいか?』



諜報員 に


『仕事しくじって、もう、ダメです。あ。ぼく、諜報員してました。相手国で、ばれてしまって、身ぐるみ剥がれて、返されました。も。だめです。世間の笑い者になります。地獄に落としてください。』



幸子さん(横目で睨みながら……)


『あかたは、地獄に落とすほどの、優れた悪人とは思えぬなあ。おおかた、すべて、あの、秘密外交省の『ええふ』大臣のたくらみであろう? 気になさいますな。彼は、まもなく、地獄に招待されます。あの人は、普通のGDPとか貿易収支には載らない、宇宙人とか、地球裏政府とか、地獄との取引が主要任務で、しかたなく、ついでに私利を増やす巨大悪人で、このほど、地獄の女王さまから、あまりにすごい悪人として、特別招待が決まりました。あ、これ、秘密ね。だから、あなたは、休んでいたら、現世で良い方に傾くでありましょう。偉くはならないけど、ま、今まで位は。それでも、地獄に行ってみる?』



諜報員 に


『いやあ。ま、それなら、待ってもいいかな。開業資金が欲しいし。』



幸子さん


『そうよ。何が幸せかは、わかんないものよ。偉い人に乗せられてばかりが人生じゃないわ。乗せてあげる方に回る手もある。まあ、なにやってもだめな人もあるけどねぇ、あれは、あれでも、いきてるじゃん。次回来るときは、さきほどのお告げをよろしく。さらば。若者よ。あ、なんか、商売するなら、お供えとか、よろしく。お酒も好き。』



 なにが、お告げだったかは、よくわからないが、『諜報員 に』、の上司、ミスターKの、上司の上司の上司である、次期首相とも言われた、第2外務大臣『江絵府』氏は、その後、行方不明となったのである。


 暗殺されたとか、自殺とか、宇宙に逃れたとか、様々なうわさが流れたが、まだ、真相はわからない。


 しかし、ある、大国の不正経理疑惑にからんでいたことは、どうやら、間違いないようだった。


 合言葉は、『おせんべ1枚』である。


 『おせんべ一枚』とは、かの国の、金貨一枚のことらしかった。


 一方『諜報員 に』、は、やがて、休職解除になったが、あっさりと辞職して、うどん店を開き、けっこう、流行っているらしい。


 実は、『うどん』より、『不思議が池おきらく饅頭』の販売を始めたのが、良かったらしいが。


 まあ、人生、捨てたものでもなかったのだ。


 幸子さんは、その後も、社会を捨てた(捨てられた?)やましんちで、よくテレビを見ていたらしいが、こちらは、まったく、うだつも上がらなかったようである。

 


 





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『諜報室X付録』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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