チュン チュン チュン、

「ん太。」 「けん太!」

誰かが、僕の名前を呼ぶ声がした。母さんの声だ。きっと、あれは夢、だったんだ。きっとそうに違いないよ。

僕が目を覚ますと、「けん太、どうしたの。いつもは早起きなのに、今日はずっとうなされてたわよ。最後は別人のような笑みを浮かべていたけれど。それより、学校に遅刻するわよ!早く降りてらっしゃい。」

「あー、うんン」

僕は曖昧な返事をした後、口笛が吹けなくなっていたらどうしよう、と少し不安になった。こわごわ口笛を吹いてみる。

「ピュウッ」

 風を吹くような奇麗な音が出た。僕は、また口笛を吹けるようになったんだ。

何とも言えない安心感が、体中を走り回った。




だが。





ズキンッ。

急に頭に激痛が走った。





まさか。     





夢だもんな。


そんな訳、 と思って頭を触った。





夢で上履きが当たったところに、かすかに血がついていた。







僕はまた悲鳴をあげそうになった。

そして、もう絶対に口笛は吹かないぞ、と身に染みて思ったんだ。


 大人になった僕は、結婚してかわいらしい男の子が生まれた。その子が通い始めた学校では、口笛が流行っているらしい。けしからんことだ。

僕は子供に言い聞かせた。

「口笛なんて吹くものじゃない。きっと、いやな夢をみるぞ、」と。

                end by酸性雨

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口笛 酸性雨 @sanseiu

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