のっぺらぼう
僕は夢の中で教室にいた。先生が話している声が聞こえてくる。それにしてもリアルな夢だ。体が思い通りに動く。手を顔の上にかかげてみると、乾燥した皮膚がひび割れて、なぜかオレンジ色の血がにじんでいた。まるで生きているように見えて気味が悪かったが、まあ、これは夢なのだから、と僕は思うことにした。口笛が吹けるようになった喜びの余韻に入り浸ることに忙しかったからだ。
僕は、もしかしたら夢の中でも口笛が吹けるかもしれないと思った。恐る恐る吹く形をつくり、空気を小さな風に変えて外に放した。
「ピュウッ」
風を切る音が聞こえ、僕の挑戦は見事に成功した。それからは授業なんてそっちのけで窓の外を見ながら口笛を吹いていた。
そういえば、さっきから先生の声が聞こえない。変だな、と思って僕はふと先生の顔を見た。
その途端、僕は「ヒッ!?」と声をあげた。僕は怖くなってしまって顔を下に落としてから、もう一度視線を先生に合わせた。
ゆっくりと振り向いた、先生の顔が無かった。目や鼻、眉毛やしわもなく、また、口もなかった。
のっぺらぼう、そう思った。
タイミング悪く、震えている肘が筆箱に当たって音を立てながら地面に落ちた。
クラス中の生徒達が僕の方に顔を向けた。
そしてやっぱり、みんなの顔はのっぺらぼうだった。
一瞬の間の後、突然、みんなが僕目掛けて襲い掛かってきた。
「グゴオオオオオオオオ」という声にならない雄叫びをあげて、僕の目や鼻、口を掴んできた。まるで、僕の顔の一部を自分のものにするために。
まるで、いままでの恐怖をわし掴みにするように。
「「助けて!!!!!!!」」
恐怖しかなかった。僕は、叫びながら廊下に飛び出した。
僕はとっさに後ろを振り返った。追ってくる沢山の顔、顔、顔。皮膚だけが顔の表面にべったりと張り付いてはがれようとしない。呼吸するたびに張り付いている皮膚がへこんで、戻って、を繰り返している様子は、吐き気が出そうなほど気持ち悪かった。
まるでもともとあった顔に、皮膚を貼り付けたみたいだ。
怖かった。
口笛という名の伝染病に自分もかかって皮膚をべったり張り付けられてしまいそうだった。
今では、学校中ののっぺらぼう達が僕を捕まえようと追ってきていた。
もう駄目だ、と思い、手を天井に向かって伸ばした。
と、その時。
音もなく、上履きが宙を舞って飛んできた。
上履きは見事に僕の頭に命中し、頭からオレンジ色の血がどくどくと流れ出た。オレンジ色の血は、頬を伝って床をオレンジ色に染めた。それから血はどんどん集まり、アメーバのような形で常にぷるぷる動いていた。それは弱っているようで、震えながら遠ざかっていき、閉まっている窓の隙間から外に出て行った。そのとたん、僕は意識がもうろうとして、その場に倒れこんだ。
続きます。by酸性雨
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