第2話
「し、
登校してすぐ、昨日告白を受けた女の子、
本人の顔を直視できないおろか、恥ずかしさのあまり上手く舌が回らない始末。自分が思うよりも緊張している自分を鼓舞した。
篠崎は返事もせず唇を引き結んで顔をそらしたので伝わったのか不安になったが、首肯してくれたので一応は理解してくれただろう。
篠崎の友人達は盛り上がってるみたいだけど、俺は未だかつて味わったことのない緊張と羞恥に息が上手くできず、篠崎も真っ赤な顔を隠しながら友人達を叩いていた。
二人にしかわからない距離感が初々しくて、周りはこの温度についていけていないようだ。
しかし意識してからか、それとも俺が気づいていなかっただけか、篠原は案外可愛らしい顔立ちをしている。
特段目立ったところはないのに、少なくとも俺の目にはテレビで見る芸能人よりは可愛く見えた。
なんて返そうか、返す内容は決まっているのに何をどう伝えればいいかわからない。
ただ、それだけが頭を回って終着点のない列車に乗ってしまったようだった。
もちろん授業なんて集中できるはずない。そのせいで何度教師から注意を受けたか。
昼休みにも席に着いたまま、ずっとペンを回してもういっそ永遠に放課後なんて来ないでくれと、願ってしまうほどだった。されど電車は時と共に動いていく。
放課後のチャイムが鳴り、周りは一気に騒々しくなる中、自分だけが無音の空間にいる錯覚に陥る。一気に胸が締まり呼吸が浅くなる。
くよくよする時間は無駄なので脚は動かす。
屋上へ続く階段を上る度に脚が重くなり、心なしか熱がある時のように頭がぼーっとした。昨日ベランダで長時間過ごしたせいか。
最後の段差を登り屋上に行くと、彼女は待ってくれていた。足音に気ずくとビクッと体を震わせ昨日見た表情でこちらに振り向く。
その顔を見て俺もドキリとした。
昨日と同じ風景でシチュエーションのはずなのに、何かが違う。
付き合うというのはあくまで友達の延長、ただそう宣言するだけなのにこんなにも労力を使うものなのかと、震える脚を必死に抑え、乾ききった口の中に水分を送って声を出す。
「き、昨日の件なんだけど………」
「は、はいっ!」
胸の前で手を握り、頑張って目を合わせてくれている篠崎。でも微かに震えている手をぐっと我慢しているように見えた。
頭の中にある自分の言葉の中で何を言えばいいのか、列車は加速する。顔も熱くなってきたしはっきり喋れるかわからない。
俺は懸命に舌を動かし、伝えたいことは最小限に留めるよう努めながら
「俺から、告白させてほしい」
「っ?!……てことは……」
シンプルで、俺の素直な気持ちをぶつけた。
「俺と––––付き合ってほしい!」
その言葉を聞いて一気に体から力が抜けた。まだ体は熱を持っていて本当に倒れそうだった。
篠崎は流れる涙にも気づかないで
「はい!」
と目一杯の笑顔で答えてくれた。
それからは別に何をしようという訳でもなく、俺たちはそれぞれ帰路に着いた。
本当に付き合ったのか? 付き合えたのか?
自分でもよく分からない。帰ってからベッドでただ悶えるだけだった。
そうして不意に振動したスマホを見ると彼女からだった。
『これからもよろしくお願いします』
そんな短い文字。俺も短く返す。
『告白してくれてありがとう。これからよろしく』
文字を打つと恥ずかしさが蘇りさらに悶えた。すぐに帰ってきたのは可愛らしいスタンプ。
そうか今日から俺は、リア充というやつになったのか。恋人と言える人ができたのか。
そのことが嬉しくて、少しだけ明日、学校に行くのが楽しみになった。
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