初恋

(⌒-⌒; )

第1話

 中学に上がってすぐの頃、ある一人の女の子から告白を受けた。

 入るのが禁止されているはずの屋上に呼ばれ、さも告白を応援しているかのように幻想的に染まる茜色の空の下。目の前には呼び出した張本人である彼女がその空色に負けないほど頰を染めていた。

 僕の目を見つめ、震える唇でこう言った。


「私と、ください!」


 その言葉は、放課後に揺れる喧騒や、強く吹く風のどの音よりも鮮明に聞こえてきた。

 俺が何も言えずに立ち尽くしていると、羞恥に耐えかねたのか返事を聞く間もなく隣を通り過ぎて屋上を出て行ってしまう。

 そんなことにも気づかないほど動揺し、そのまま呆然と直立不動になった俺に次にかかった声は


「お前立ち入り禁止だぞ! 何してるんだ!」


 管理作業員の慌てた声だった。


 俺、田野彰たのあきらは今日、人生で初めて異性から告白を受けた。



 ※※※



 家に帰ってから今日あった出来事を整理するもただ動揺を招いて他のことが出来なくなった。

 ご飯を食べるも手は止まり、食べても味はしない始末。浴槽につかっても温度も感じず、一人でいる空間ということもあり長く考え込んでしまい、結果立ちくらみがするほど逆上せてしまった。


 逆上せた体と頭をゆっくりと冷やすためベランダに出て、月夜に吹く夜風に当たる。

 それでも頭に残るのは、今日受けた告白の言葉。

 実感がまだない。告白されるってこんなものなのか。


 まだ中学生のガキには、付き合うということがどういうものなのかわからなかった。

 その女の子のことは気になっていたし、好きか嫌いか言われれば好きだと思う。だから付き合ってもいいんじゃないかという自分もいたが、ただそれ以上に付き合うことの必要性、意味などを理解できなかった。

 今まで通り友達でもいいんじゃないかなんて自分もいた。


 時間の経過も忘れていると投げられた服で我に戻る。


「お兄ちゃん、風邪ひくよ?」

侑芽ゆめ

「なに?」

「もし、気になってる人に告白されたらどうする?」

「何急に? えー、好きじゃないなら付き合わない。もし好きなら付き合う! それ以上にある?」


 以外にも真っ当な答えが返ってきた。

 一つ下の、まだ小学生の妹に恋愛について相談なんて情けないと思ったが、今はそんなことどうでもよかった。俺がどうしたいのか、もし侑芽ならどうするのか、それが知りたかった。


「そうなんだけど。友達のままじゃダメなのか?」

「う〜ん。でも告白してくれたってことは、友達じゃ嫌ってことじゃないの?

 知らないけど。関係を進展させたいとか、特別な関係になりたいとか。いきなりどうしたの? ひょっとして告白された、とか?」

「まあ。そんなとこだ」

「ええ?! お兄ちゃんが? 付き合っちゃいなよ!」

「でも、付き合うってそんな簡単でいいのかな。俺付き合うって知らないから」

「それなら付き合えばいいじゃん。簡単でいいんだよ中学生の恋なんて、大きくなってからまた考えればいいんだよ」


 まだ年端もいかない妹に、妙な納得感を覚えさせられてしまう。

 どうやら侑芽は俺よりもそういったものに詳しいらしい、と内心驚く。女子の方が内面の成熟は早いって言うしな。


「そういうもんか?」

「そういうもん。ほら、早く入りなよ本当に風邪ひいちゃうよ?」

「おう」


 そういうもんか。

 深く考えすぎなくていいのか? 付き合うということは俺が思ってるほど難しいものじゃないのか。

 いっそ素直な自分になってしまえば、楽なのかもしれない。

 曖昧な答えを抱いたまま、その日は早めにベッドに就いた

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