第4話 天国と地獄への切符

 8月の下旬、詩織は熊本駅に降り立った。時刻は昼前であった。


 福岡の大学の退学手続きを終え、福岡のマンションの引っ越しは業者に依頼し、1人で新幹線に乗り、熊本に帰って来たのだ。


 詩織には急いで確認しなければならないことがあったのだ。


 詩織は駅の中央出口を出て、一際聳え立つマンションを見やり、そこを目指して歩き出した。


 詩織はそのマンションの玄関に着くと英一にLINEで連絡した。


 「今、マンションの前に居ます。」と


 英一は、マンション一室のソファーに腰掛け、丁度、今日、終盤戦を迎えた衆議院議員選挙の選挙活動のスケジュールをスマホで確認していたところであった。

 

 英一は、スマホに詩織からのLINE通知が表示されると、それを開くことなく窓からマンションの玄関をそっと覗き、日傘をさしている1人の女性が立っていることを確認すると、


 「予定どおり1週間だったな。」と呟き、それからLINEを開き、詩織に部屋番号の数字を送信した。


 部屋の号室を確認した詩織は合鍵で玄関を開け、エレベーターに乗り、英一の部屋に向かった。


 そして、その部屋のインターホンのボタンを鳴らした。


 すぐに英一が玄関を開けて、詩織を見やり、あの薄気味悪い笑みを浮かべ、こう言った。


 「鍵、持ってるんだから、それで開ければいいのにね。」と


 詩織は何も答えず、英一の後を付いて行き、あの「悪夢の絶頂」を乱舞した寝室へと入って行った。


 英一はあのベットに腰掛けた。


 詩織はドア口に立ったままだった。


 英一はにやけながらこう言った。


 「今日、来ると思っていたよ。予定どおりだ。」と


 詩織はあの悪夢のベット、そして、そこに腰掛けている英一を見ると、何となく気持ちが落ち着いてくる自分を変に感じた。


 詩織はそんな自分の感覚を一生懸命に振り払い、左腕の注射痕を英一に見せながら、こう問うた。


 「貴方、私の身体に何を打ち込んだの、ヘ○インなの?」と


 英一は、やれやれといった表情を浮かべ、頭を掻きながらこう言った。


 「心配するな。ヘ○インは上手に調整して打ったよ。禁断症状は出ないよ。」と


 それを聞いた詩織は、一旦、ホッとした表情を英一に見せてしまったが、再度、気を引き締めて、そして、改めて、硬い表情を作り直し、英一を睨み、こう言った。


 「この鍵、返します。もう、2度と私に近寄らないで下さい。」と


 そして、合鍵を英一の方に放り投げ、寝室から出ようとした時、英一が独り言のようにこう呟いた。


 「1週間、オ○ニーは我慢できたか?できなかっただろう。一日たりともね。」と


 部屋を出ようとした詩織の足が止まった。


 そして、英一の方を振り向き、詩織はこう言った。


 「貴方は、他に私に何をしたのよ!」と


 詩織の英一に対する口調は厳しかったが、表情は明らかに、何かをされたことを期待するかのように、その目線は英一の方を向くことなく、自分のつま先辺りを見つめていた。


 英一は詩織のその姿を見てこう言った。


 「やっぱりな。我慢できないよね。いっぱい、オ○ニーしまくったのかよ。涎を垂らし、痙攣して、何回も何回も逝ったのかよ。

 盛りのついた雌犬だな、やっぱりお前は!」と


 詩織は、英一の言った言葉、「雌犬」という言葉を聞くと、急に陰部の辺りが疼き出すのを感じ、両太腿を引っ付け、もぞもぞと擦り始めてしまった。


 英一はその詩織の動作を見て、また同じ言葉を言った。


 「予定どおりだな。」と


 英一は、あの1か月間、詩織の身体に、ヘ○インの他に、通称「エクスタシー」と言われる違法ドラック「MDMA」を染み込ませていた。


 ヘ○インとMDMAの違いは、


 ヘ○インは、アヘンに含まれる成分であるアルカロイド及びそれを原料として科学的に合成される物質であり、

 身体依存度、精神依存度も非常に強く、過剰摂取すると禁断症状を招き、また、摂取するだけで、性行為等をしなくても多幸感を与え、床に転がってるだけでも陶酔感を得ることができる。


 一方、MDMAは、別名セックスドラッグとも言われており、裏社会ではMDMAを飲んで行う性行為を"キメセク"と呼び、ノーマルセックスより、"何十倍もの快楽を得られる"と言われている。

 その効果は、服用すると、相手と話がしたくなり、相手に共感を持つようになり、そして、肌も敏感になる。

 そして、性行為をすれば、ずっとイキっぱなしになってしまう。

 また、身体依存度はないが、強い精神依存性をもっており、乱用を続けると錯乱状態になり、腎・肝臓の障害や記憶障害等の症状も現れわれる。


 英一は、詩織をヘ○イン中毒ではなくMDMA中毒に仕立て上げたのであった。


 その一番の理由は、ヘ○インは入荷するのに大きなリスクがある。  


 父親の城下太郎が政界を下されたように裏社会との取引が必要となる。


 一方、MDMAはかなり市中に出回っており、警察のマークもヘ○インほど厳しくはなく、金さえ払えば、簡単に街のチンピラどもから手に入れることができた。


 英一は、自身の調教成果を更に確認するため自分のスマホを取り、あの動画を流した。


 そう、あの「悪夢の絶頂」を


 英一のスマホのスピーカーから詩織のはしたない喘ぎ声、淫語の叫び声が鳴り始めた。


 すると、股を擦りつけモジモジしていた詩織は、陶酔した表情を見せ始め、股間を押さえながら、英一に近づいて行った。


 そして、英一が詩織に手を伸ばすと、詩織は、そ~と、その手を掴んだ。


 詩織の表情は益々妖艶さを帯び、身体はヒクヒクと波打ち、口から涎を垂らし出した。


 そして、詩織は立っていることができなくなり、英一の目を何かを欲しがっているように、とろ~んとした眼差しで見つめ、しゃがみ込んでしまった。


 その様子を眺めながら、英一は詩織にこう言った。


 「お前は何が欲しいんだい?」と


 詩織は身体をピクつかせながら、あのフレーズを言おうとしたが、僅かに残っていた理性が詩織の口を止めた。


 英一は、「ちょっと効果が薄れたかな。」と言い、詩織の手を引っ張り、ベットの上に引きずり上げ、そして、服を脱ぎ捨て、全裸になり、自身の陰茎を座っている詩織の目の前にぶらぶらと垂らした。


 詩織は英一の陰茎を見た瞬間、股間の疼きが増して来て、手を震わせながら、英一の陰茎をそ~と握った。


 英一はニヤリと笑い、また、詩織にこう言った。


 「お前は何が欲しいんだい?」と


 詩織はその手で握った陰茎を見つめ、そして、英一の顔を見上げて震える声でこう言った。


 「こ、こ、これが欲しいです。」と


 英一は更に問うた。


 「これとは何かな?」と


 詩織は英一の顔見ながら、もう我慢できないとばかりに、はっきりとこう言った。


 「お○ん○んが欲しいです。」と


 そう言うと詩織は徐に英一の陰茎を口で咥え込み、恰も野良犬が骨をしゃぶるように、むしゃぶりついていった。


 そして、英一がベットに横たわると、詩織は慌てるように服を脱ぎ捨て、全裸となり、正座をした。


 英一はニタニタ笑いながら、なかなか、例の合図を出さなかった。


 詩織は飼い犬が餌を待つように、涎を垂らしながら、じっと英一の陰茎を見つめ続けた。


 そして、英一が、遂に「よし!」と言うと、


 詩織は、サッと英一に跨がり、片手で英一の陰茎を掴むと、自身の白い涎でビチャビチャになった陰部の口に、ずぅ~っと挿れ込んで行った。


 根元まで入れ込むと、詩織はうっとり笑みを浮かべ、腰を動かし出した。


 詩織の腰の動きは徐々にスピードを上げて行き、表情の笑みも消え失せ、正に恍惚の表情を浮かべ出した。

 

 更に詩織は、英一に陰部の結合部分を見せつけるように身体を仰け反らせ、右手人差し指で自分のク○ト○スを捏ね回し出した。

 

 そして、詩織は瞬く間に絶頂を迎え、狼の遠吠えのように、天井に向かって、絶頂の合図の声を上げながら、ビクビクと痙攣をした。

 

 10秒ほど痙攣をしながら快感を味わった詩織は、どっと英一の胸に顔を埋めるように前屈みに倒れて行った。

 

 詩織は、久しぶりのあの「悪夢の絶頂」を味わったことから、ほんの何十秒かの動きで凄まじいエクスタシーの大波をまともに受けてしまい失神してしまったのだ。

 

 しかし、意識を失っても、詩織の身体はピクピクと生存をアピールしており、特に英一の陰茎を咥え込んだ下の口の中は、ひくつくようにその陰茎をじんわり、じんわりと締め付けて、白い涎を垂らし続けていた。


 詩織が熊本の実家に戻って来たのは午後6時頃であった。


 詩織が帰ってきたことに気づいた両親は急いで詩織を玄関に迎えに行き、詩織の自室へ抱えるように連れて行った。


 そして、何が福岡であったのか、新ためて母親が詩織に問うた。


 詩織は両親には、電話で「福岡の大学を辞めて、熊本に帰る。」としか、伝えてなかった。


 詩織は、英一が指導したとおりにこう説明した。


 「この夏休みから英一と付き合うようになった。英一のことをとても好きになってしまった。福岡に戻ったが、英一のことが恋しくなった。英一も私に熊本に戻り、英一の大学に転入するよう勧めてくれた。

 そして、この料亭を手伝いたい。」と下を向き、おずおずと説明した。


 詩織の両親は、その説明を聞き終わると、2人で顔を見合わせ、ホッとした安堵の表情を見せた。

 両親は詩織が、福岡で襲われた(レイプ)のではないかと心配していたのだ。


 そして、母親は詩織にこう問うた。


 「福岡で付き合っていた人、いたんじゃないの?」と


 詩織は英一の指導どおり、「その人とは夏休み前に別れた」とだけ答えた。


 父親は、急な展開に戸惑いながらも、大事な一人娘が帰って来たこと、大学も地元大学に転入できること、家業を心配してくれてる詩織の気持ち、そして何よりも城下財閥の息子である英一と付き合っていることに喜んだ。


 一方、母親の方は、取り敢えず、詩織に何もなかったことでホッとはしたものの、詩織の性格からして、あの城下英一を好きになるなどとは到底考えられなかった。


 全て、英一の思うとおりに事が運んで行った。

 

 父親が後援会長していた候補者も衆議院議員選挙で当選を果たし、大学生秘書である英一も地元マスコミからインタビューを受けるなど脚光を浴びることとなった。


 そして、何と言っても熊本市で美人で有名な詩織を彼女にしたことから、今まで自分を忌み嫌っていた者達に自分の得たステータスを見せつけるように、何処に行くにも詩織を同行させた。


 ただ、英一の想定を超える一つの問題が英一の知らない所で始まろうとしていた。

 

 その問題は、英一により新たに開発された詩織の性欲であった。


 詩織は、熊本に戻ってからは、ほぼ毎日、英一のマンションに通い、MDMAを服用しながら、あの「悪夢の絶頂」を繰り返していたが、段々とその絶頂感に物足りなさを感じつつあった。


 やはり、ヘ○インの恍惚感に比べるとMDMAでは満足できなくなっていた。


 英一のセックステクニックも風俗通いで女経験を積んだだけのものであり、お世辞にも決して上手いとは言えず、その持ち物(陰茎)も並以下の代物であった。


 詩織は、次第に英一にヘ○インをねだるようになった。


 しかし、英一は、学生秘書としてマスコミから注目を浴びる存在となったこともあり、以前のように危険なリスクを負うのを躊躇し、なかなか、詩織のヘ○インへの願いを叶えることはできなくなっていた。


 そんなある夜、詩織は熊本市内の繁華街の裏道に佇んでいた。

 そこは、熊本市では有名な風俗街であった。


 詩織はある男を待っていたのだ。

 出会い系サイトで探し当てた男を


 その男は裏サイトでは女性を悦ばせる達人と評されており、所謂、「竿師」であった。

 その男の単価は一晩で10万円であった。


 詩織はその男が近づくと、10万円の現金の入った茶封筒を男に手渡し、一緒に看板の灯の消えたスナックの中に入って行った。


 その中では恐るべき行為が展開されるのであった。


 そのスナックの地下1階に空部屋があり、その部屋の中からは、ギシギシと何かが軋む音がしていた。


 空部屋の中のベットの上には、四つん這いに尻を突き出した詩織の陰部を目掛けて、その竿師のとてつもなく大きな陰茎がグジュグジュと音を立てながらドリルのように突き刺さっていた。

 

 竿師が突く度に詩織の尻からパンパンと太鼓のような音が響いていた。


 詩織は悶絶した表情を浮かべ、「もっと!もっと!」と涎を垂らしながら叫び続けていた。


 そのベット脇の机の上には、覚せい剤の混入した注射器が転がっていた。


 竿師は、今度は詩織を仰向けに寝かせた。


 そして、詩織に両腕で膝内を抱え股を開くよう促し、徐にその注射器を取り、詩織の陰部に直接、覚せい剤を注入した。

 

 竿師は覚せい剤を注入し終わると、1~2分、詩織の陶酔した表情を眺め、詩織の目が白目を剥くのを待った。


 すると、段々と詩織の身体はブルブルと震え出し、目が白目に剥き始めた。


 竿師は、「そろそろ良いかな。」と言うと、ビール瓶のような一物を詩織の下の口に捩じ込むように押し込んだ。


 その時、詩織は自身の子宮がその一物に触れたことを感じるとともに、物凄い快感が脳裏を突き刺し、絶命するかのような喘ぎ声を発した。


 竿師は、その声を合図とし、凄まじい勢いで腰を詩織の尻に叩き付け始めた。


 詩織は声にならないような歓喜の声を張り上げ、何度も何度も絶頂を迎え痙攣を繰り返した。

 

 そして、英一のMDMAとは違い、恐るべき覚せい剤の持続力により、詩織は快感に失神することなく、何十回、いや、何百回もの絶頂を繰り返し迎え続けるのであった。


 詩織は、遂に英一が手を控えていた闇の社会に踏み込んでしまったのだ。

 

 この竿師も暴力団の一員であり、その背中には夜叉の刺青が彫られていた。


 人間は、一度、覚せい剤を始めると、連鎖反応のように、危険な人間関係(暴力団)、危険なセックス(竿師)、そして今が良ければ先のことはどうでもいいという人生観となり、人生の破滅へと繋がって行く。

 そして、その破滅列車は、止めることができなくなるのだ。


 奇しくも、詩織は、ヘ○イン中毒にはならなかったものの、英一のMDMAの調教により、強烈なセックス依存症となり、その挙句には、覚せい剤と竿師によるセックスを求めてしまった。


 この時、詩織は、自ら人間性の破滅へと延びる地獄行きの切符を手にしたのであった。

 

 そんな詩織の悲惨な状況を知らない健人は、一生懸命に詩織のことを忘れようと、それだけを考え続けていた。


 詩織の面影の残る大学の野球部は退部した。


 そして、ひたすら学業に打ち込んだ。


 健人の心の内を支配するのは、最愛の人に捨て猫のように捨てられたことに対する「怒り」であった。


 健人は、詩織が自分を捨て、英一と付き合ったことを絶対に後悔させてやろうと考えていた。


 健人は法学部法律学科であった。

 大学3年から始まるゼミ学科においては、どのゼミに入るかで、その後の就職先が決定すると言っても過言ではなかった。


 健人は、同大学の中で最も一流企業等への就職率の高くて有名であった猪俣教授の民事訴訟法のゼミを目指し、猛勉強に励んでいた。


 ほんの数ヶ月前までは、清々しく、誰もが羨む美男美人のカップルが、ある意味、袂を分かち合うかのように、天国と地獄の切符を掴もうとしていた。

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