第2話 悪夢の絶頂
7月7日午後2時、正栄丸は伊予港近くの桟橋に戻って来た。
正栄丸の船乗り場は、その桟橋の先端であった。
陽介が桟橋スレスレにバックで着岸したと同時に、健人は桟橋にロープを投げ、船首から桟橋に飛び移り、そのロープを手繰り、桟橋のコンクリート杭にしっかりと縊り、船を固定した。
本日の釣果は大漁であった。
全員で200匹のムロ鯵を釣り上げた。船酔いでダウンしていた県庁職員の分は健人がカバーしていた。
釣り上げたムロ鯵は、平均30㎝、中には50㎝級の大物も混じっていた。
獲物は既に帰港中に健人と常連の年寄り3人で血抜きの処理を済ませ、各自のクーラーボックスに平等に配られていた。
夏のムロ鯵は、鮮度が重要であり、特に今日のような大漁の日は、船の生簀に入れて置くと、酸欠状態で死んでしまい、緩い海水で鮮度が損なわれる。
そのため、帰港する2時間の間に、生簀からタモで掬い上げ、1匹づつ間引く必要があった。
間引き方は、鯵の頭にナイフを一刺し、首の切れ目から静脈洞にワイヤを通し、鯵を硬直させる。地元では「神経〆」と言われていた。
この措置をし、氷塊を入れたクーラーボックスに硬直させた鯵を入れ、上からバラ氷を撒き、最後は海水を入れる。
そうしておけば、刺身で食べた時、身の硬さが格段と違ってくるのだ。
客は満足気に帰っていた。
陽介と健人は船を洗い、陽介の軽トラで家路に着いた。
漁の日は、一休みした後、行きつけの居酒屋で2人で一杯やるのが慣わしであった。
陽介は健人を家まで送り、「また、後で」と言い帰って行った。
健人は手に大物の鯵が2匹入った袋を提げて、家に入った。
実家は、健人と母親との2人暮らしであった。父親はその年の4月、60歳の若さで亡くなっていた。脳梗塞であった。定年退職して1か月も持たなかった。
母親は健人を出迎え、「風呂沸いてるけん、入りよ!」と声を掛け、健人の鯵の入った袋を受け取り、中を見て、「こりゃ~、大きいわ!そんじゃ、大漁やったんやな!お客さん、喜んだやろ~。」と嬉しそうに笑って言った。大物2匹のお土産は大漁の証であった。
健人は風呂に入った。
台所から、母親が鯵を下ろしながら、「あんた、夕方、陽ちゃんと飲むんやろ~。リュウキュウ作っておくけん、帰ったらお茶漬けして食べよ~」と言う声が風呂場に聞こえて来た。
リュウキュウは健人の大好物であった。鯵の刺身を醤油、味醂、調理酒で味付けしたタレ汁に混ぜ込み、上から小葱と胡麻を振りかけ押し蓋をし、冷蔵庫で寝かしておく、地元の郷土料理であった。
午後6時、健人は家からいつもの居酒屋に向かった。
家から徒歩、10分程度の所にあり、居酒屋の大将も正栄丸の常連客であった。
健人が居酒屋に入ると、既に陽介の姿があり、いつもの隅っこの2人用のテーブルで大将が今日の釣果を仕切りに聞いている所であった。
「健ちゃん、いらっしゃい!ワシも今日、乗ればよかったなぁ~。」と大将は悔しそうに言い、カウンターに入って行った。
テーブルの上には、既に刺身と焼酎が用意されており、陽介は既に一杯やっていた。
健人は椅子に座ると、テーブルの上にショッポとジッポを置き、煙草を吸い始めた。
その間、世話好きの陽介が健人用の焼酎ロックを作り、健人の前に置いてあげた。
「健ちゃん、お疲れ~。」と言い、2人は乾杯し、健人も飲み始めた。
陽介は既に世帯持ちで、結婚も早く22歳で嫁を貰い、子供も小学生の娘2人授かっていた。
2人は今日の漁場、ポイント取りが成功したことを褒め合い、明日も今日と同じ場所に行こうとか、明日の天気について話していた。
居酒屋の客は、まだ、陽介と健人の2人だけであったので、大将もカウンター席に腰掛け、一杯やりながら、陽介らの漁の話に熱心に耳を傾けていた。
飲み始めて1時間が経った。2人とも酒豪であるため、既に焼酎五合瓶の2本目を飲み始めていた。
すると、いつもの如く、陽介が健人に、
「健ちゃん、早よ結婚しなはれ!嫁さん貰らわんと、お袋さん、心配するでぇ~」と健人の一番嫌な話を始め出し、
「健ちゃん、男前やから、その気になれば、女なんか一杯おるわ!」と続けた。
健人は、その話しは飽き飽きしたような素振りを見せ、陽介にこう言った。
「もう、女は懲り懲りやわ~」と
陽介は言った。
「まだ、大学ん時の彼女、気にしとるんかい?、健ちゃん、世の中の女、あんな奴ばっかりやないでぇ~、なんも言わんで、姿消し去って、金持ちのボンボンと結婚するような奴は、そう居らへんから!」と健人をいつものように慰めた。
健人は、心の怒りを照れ笑いで誤魔化し、焼酎ロックを一気に飲み干した。
城下詩織、旧姓佐野詩織は、陽介の言うような女ではなかった。
詩織は悪魔に盗られたのだ。
それは、詩織が健人と付き合い初め、一年経った夏の日のことであった。
その日は、今日と同じ夏日であった。
詩織と健人の馴れ初めは、2人が大学1年の時であった。
健人は愛媛県の高校から福岡の国立大学に入学し、詩織は熊本県の高校から同じ福岡の私立大学に入学していた。同じ歳であった。
健人は大学の野球部に所属し、一年生からレギュラーであり、詩織は野球部のマネージャーであった。
健人の大学は九州一の国立大学で、他校生徒からの憧れの大学でもあり、特に詩織の入った私立大学の女学生の中では、健人の大学の彼氏を持つことがステータスとされていた。
詩織も友達に誘われ、高校時代も野球部のマネージャーであったことから、自然と健人の野球部のマネージャーに応募した。
詩織は地元熊本では美人で有名であり、実家は熊本城近くの老舗の料亭を営んでいた。
2人とも一目惚れであった。
詩織がマネージャーになって一試合目の慰労会で健人が詩織に告白し、詩織も即応じ、美男美女のカップルは簡単に成立した。
それから、2人の愛は深まり、健人は自分のボロアパートよりも詩織のマンションで生活する時間の方が長いくらいであった。
2人は大学2年の夏休みを迎えていた。
「健ちゃん、今度、衆議院議員の選挙あるでしょう、だからね、うちの実家の料亭、お偉いさん達の予約で一杯だから、私、1週間、熊本に手伝いに帰るからね!」と詩織が言った。
健人はキッチンでタバコを吸いながら、「分かった。」とだけ言い、慌てるようにバイト先に向かった。
健人は詩織の大学傍のデパート屋上のビヤガーデンでバイトをしていた。
まさか、この素っ気ない会話が、健人と詩織の交わした最後の会話になるとは、その時、2人とも予想だにもしていなかった。
詩織が実家の料亭を手伝い始めて5日目の最終日、この日、詩織は朝から気が向かなかった。体調が悪いのではなく、今日の予約客である衆議院議員候補者の後援会長の息子が気になって仕方がなかった。
その息子は、詩織と同じ高校の同級生の城下英一という男であった。
英一の実家は、熊本県南地方の名士であり、先祖代々、その地方の首長を歴任しており、家業の酒造りも全国的に有名であった。
特に英一の父親である城下太郎は凄くやり手であり、県議会議員から若くして衆議院議員に当選し、将来の党の幹事長候補と目された人物であったが、数年前、闇組織(暴力団)との関係がマスコミに報じられ、議員辞職に追い込まれ、現在は地元に戻り、熱りが冷めるのを待ち、自分の子飼いを国会に送り込み、再度、国政への復活を虎視眈々と狙っていた。
息子の英一は、正に金持ちのボンボンで、高校は県南の田舎を離れ、熊本市内の有名私立高校に親のコネで入学していた。
風貌は、ひょろっと背が高く、顔付きは面長で青白い顔色しており、特に印象的なのは細くて小さな目であり、その目付きはいつも鋭く、性格は暗かった。
垢抜けた熊本市内の同級生は、英一の父親の事件のこともあり、その風貌も伴い、英一を忌み嫌っていた。
高校時代の英一のあだ名は、「デビルマン」であった。
英一と詩織は高校3年の時、クラスが一緒になった。
英一は自信家でもあったので、周りの自分を見る眼には気づいておらず、ある意味、一目置かれていると勘違いしていた。
英一は詩織のことが高一の時から好きであった。詩織は周りと同じく、英一を気味悪く思っていた。
しかし、この自信家の男は、そんな詩織が自分に好意が有ると思い込み、詩織に何度も求愛をしていた。
詩織はこの男の父親のマスコミ報道もあり、邪険にすると何か危険な感じがしたため、当たり障りなく、上手くスルーしていた。
英一は熊本の私立大学に入学し、現在、大学生でありながら、父親が後援会長である衆議院議員候補者である県議会議員の秘書として、将来は父親の跡を継ぎ、政治家となるための見習いをしていた。
そんな情報も詩織の耳に届いていたので、詩織は今宵の料亭での接待がとてもとても気が重くてしょうがなかったのである。
当日の夜7時、その候補者の出陣式の宴が始まった。
詩織の嫌な予感は的中し、英一は秘書でありながら、上座に父親と一緒に座っていた。
実はこの出陣式の料亭の予約は英一が力尽くに取ったもので、前日に急遽予約が変更されていた。
英一は詩織が実家に戻っていると聞き及び、父親の圧力を利用し、この予約を無理矢理、捻じ込んでいたのだ。
詩織の父親としても、数年前の熊本地震で料亭家屋が崩壊した時、銀行から多額の融資を受けており、その銀行の筆頭株主が英一の父親であったことから、先方に何とか詫びを入れて、予約をキャンセルして貰っていた。
詩織は美人でもあり、特に着物姿はとても美しかったので、料亭の手伝いは客相手の給仕を任されていた。
詩織は英一のことが気にはなったが、これは仕事と思い、腹を決めて、いつも通り、明るく、客をもてなした。
宴が始まり1時間ほど経過したが、詩織と英一との接触はなく、英一と目が合う感じは全くなかった。
英一は候補者の隣で、各後援者の話に耳を傾けていた。
英一が自分に気づいてないと思い、詩織はホッとしていた。
しかし、この素知らぬ振りをする英一には、末恐ろしい計画があったのだ。
その時、詩織は自身の人生を左右する出来事がこの何時間後に訪れるとは予想だにしていなかった。
午後9時、宴はお開きとなり、客は帰っていった。
詩織は急いで私服に着替えた。今日の午後10時30分熊本発の新幹線で博多に帰る予定であったのだ。
両親にまた帰ってくるからと一言挨拶し、急いで熊本駅に向かって歩いて行った。
詩織の料亭から駅まで徒歩15分で、高校時代の通学路でもあったことから、詩織に何の不安もなかった。
詩織が、丁度、駅まで半分の地点である歩道橋を降りようとした時であった。
歩道橋の下に一台の黒い車がハザードランプを点滅し停車していた。
詩織は何も気にせず、通い慣れた歩道橋を降りて、駅の方向を向き直した時であった。
何かが後ろから詩織の口を塞いだ。
それから1か月、詩織の記憶はない。
今、詩織は熊本市内のある高級マンションの部屋のベットの上で全裸になり盛んに腰を何かに擦りつけていた。
詩織の体の下には、全裸の英一が腕枕をして横たわっており、白目を剥き、涎を垂らしながら、気が狂ったように腰を振り続けている詩織の狂乱振りを眺めながらニタニタとにやついていた。
何と詩織はあの夜、あの歩道橋の下で、英一に拉致され、監禁調教を受け続けていたのだ。
そこは、英一のマンションの一室であった。
ベットサイドの棚には、いろいろ媚薬の瓶、へ○インの入ったカプセル、注射器、脈取りのゴム、麻酔薬の瓶などが雑然と置かれていた。
詩織はあの夜、英一にモルヒネの染み込んだハンカチで意識を失わされ、このマンションに拉致されて来た。
英一は詩織の意識が戻りだすと、モルヒネを注射器で注入し、また、意識を失わさせるといった行為を1週間繰り返した。
そして、日中、詩織が意識を失っている間、選挙活動を行っていた。
そして、英一はマンションに戻ると、先ず最初に、詩織の左腕の脈を取り、へ○インのカプセルをコップに入った水で溶かし、注射器でそれを吸い取り、詩織の静脈に直接、注入した。
詩織が錯乱状態に陥ると、シャワー室に連れて行き、詩織にここで用便するよう命令し、用便が終わるとそれを処理して、詩織の身体を隅々まで入念に洗い、また、ベットに寝かせ、今度は栄養剤の注射を打ち込むのだった。
この栄養剤には媚薬も含まれており、詩織の顔色が紅潮した時点でこう言うのだ。
「お前は何が欲しい?」と
最初のうちは、詩織は無意識の中でも、何か自分にとって、とても大きな危険が生じていることを朧げながらも意識しており、この英一の問いには、なかなか答えようとはしなかった。
その際、英一は、詩織の淫部に媚薬を塗り込み、また、へ○インを注入するのであった。
詩織の本能的危機意識、健人への愛、英一への憎悪感は2週間目に消え去ってしまった。
詩織は頑張ったが、2週間が限界であった。
今は、英一から何が欲しいかと問われると、卑猥な言葉を涎を垂らしながら言うようになってしまった。
今日も詩織は、英一の帰りをいつかいつかと待ち侘び、英一が帰ると、ベットに鎖と猿轡をしたまま、わざと用便を垂れ流すのだ。こうすることが英一が喜ぶと調教されていたのだ。
英一は、用便を垂れ流し、猿轡から涎を垂らす詩織をニタニタと見下ろし、足首と手首の手錠を外す。
すると、詩織は用便に塗れながら、四つん這いになり英一に尻を突き出すのだ。
英一は、「困った雌犬だなぁ~、何度教えてもここでしやがる!」と笑いながら言い、詩織の尻を引っ叩くのだった。
その時、既に詩織は1回目の絶頂を迎え、ピクピクと痙攣をしながら、更に用便を垂らしまくるのであった。
そして、英一にシャワー室で綺麗にしてもらい、また、英一に褒めて貰おうと、英一の仁王立ちした顔を下から見上げながら、英一の陰茎を咥え必死に奉仕を行うのであった。
そして、ベットに連れて行かれ、英一から、
「お前は何が欲しい?」と問われると、パブロフの犬かのように、「英一様のオ○ン○ンが欲しいです。」と涎を垂らしながら言うのであった。
すると、英一は全裸になり、詩織の用便で汚れたベットカバーの上に横たわる。
詩織は今か今かとご主人様の合図を涎を垂らしながら正座して待つのであった。
英一が詩織の用便を背中で充分味わってから、「よし!」と言うと、
詩織は英一に跨り、英一の男根を淫部で咥え込み、前後左右に激しく腰を動かし、歓喜の奇声を上げながら、何度も何度も絶頂を迎え、逝き果てるのであった。
詩織が失神すると、英一は、へ○インの注射器を握り、また、静脈に注入する。
すると1~2分で詩織は錯乱状態を取り戻し、淫乱と化し、淫語を叫びながら、腰を振り続け、また、何度も何度も絶頂を迎え、ピクピクと痙攣を繰り返し、そして失神してしまうのであった。
その悍まし狂乱の舞は、この2週間、毎夜、朝方まで行われるのであった。
ある日、詩織が意識を取り戻した時、いつもの全裸状態ではなく、あの夜、実家の料亭を出た時の服装を着せられていた。
詩織の荷物を入れたリュックもベットサイドのテーブルに置かれ、その横に詩織のスマホとこのマンションの合鍵が置かれていた。
詩織は恐る恐る自分のスマホを取り、電源を入れると、英一からのLINEの通知が表示された。
詩織はLINEを開き、英一のコメントを読んだ。
「欲しくなったらいつでもおいでよ。」と記されていた。
そして、そのコメントの下にアルバムに保存されたコメント欄が表示されていた。
詩織はそれをクリックした。
ビデオが再生された。
あの淫乱の舞が映し出された。
詩織は泣き崩れながら、あの悪夢の絶頂を思い出した。
そして、詩織は健人のLINEを開いた。
そのコメント欄は真っ白であった。全て削除されていたのだ。
詩織は英一のマンションを出た。
その手には、しっかりとその部屋の合鍵が握られていた。
詩織は駅に向かって、何かを考えながら、ゆっくり歩いて行った。
詩織が考えていたことは、健人のことではなく、やはり、あの「悪夢の絶頂」の快感であった。
福岡に戻った詩織は、健人から姿を消すように、福岡の大学も辞め、マンションも引っ越してしまった。
健人は、詩織を心配し、毎日、何度も何度も連絡し、毎日、詩織のマンションに様子を見に行っていた。
しかしながら、健人はビヤガーデンのバイト期間が終了すると、詩織のことを心配しながらも、
「詩織も選挙で料亭が忙しいって言っていたから、なかなか帰って来れないのだろう。」と思い至り、
夏休み最後の1週間、実家の愛媛に帰ってしまった。
そして、健人が福岡に戻ったのは、夏休みが終わる前日であり、流石に詩織も熊本から戻っているだろうと思い、詩織のマンションに原チャリで向かった。
健人が詩織のマンションに着くと、何故か、3階の一室の窓から知らない女性が健人を見ていた。
健人はその視線を無視し、2階の詩織の部屋を下から覗き込むように眺めていた。
カーテンが外れており、その窓には空室有りとの不動産会社の貼り紙が貼られていた。
健人が首を傾げていると、先程、3階から健人を見ていた女性がマンションの玄関を開けて健人に近づいて来た。
健人は、何の用かと、不思議そうにその女性を見た。
その女性は、健人に近づきこう言った。
「後藤君ですよね。」と
健人は、「そうですが。」と答えた。
その女性は健人に言った。
「佐野さん、熊本に帰りましたよ。引っ越しましたよ。」と
健人は茫然とし、「はっ」とだけ言うと、
その女性は健人にこう言った。
「なんか佐野さん、大変そうでしたよ。」と
健人は、「そうですか。」と言い、その女性に礼をし、原チャリに跨り、詩織に電話した。
詩織は出なかった。
この先、健人は何度も何度も詩織に電話を掛けたが、詩織が電話に出ることはなかった。
健人が詩織を失ったショックは想像以上に大きなものであった。
このショックは健人の心を蝕み、後に、健人を鬱病に追い遣ることとなる。
新学期が始まって1週間が経った時、健人は学食で偶々熊本出身の男の隣に座った。
すると、見ず知らずのその男が健人に話しかけてきた。
「後藤君ですよね。」と
健人は、「そうだけど何か?」と答えた。
すると、その男はこう言った。
「佐野さんと別れたんですか?」と
健人は驚き、その男の顔見ながら茫然としていた。
その男が言った。
「いや、佐野さんと僕は同じ高校だったんですよ。
てっきり、佐野さんの彼氏は後藤君だと思っていたんだけど、熊本帰ったらさぁ~、佐野さん、同じ高校の変な奴の車に乗っていたのを見たんだよね。」と
健人はその男に問うた。
「本当ですか?詩織に間違いないんですか?」と
その男は、その質問を待っていたかのようにニタニタ笑いながらこう答えた。
「間違いないよ!ある意味、2人とも熊本では有名人だからね。
奴の大学にも2人で現れたみたいだよ。
熊本では、凄い噂になっているよ。」と
健人はその男に聞いた。
「その男は、なんて言う奴ですか?」と
「後藤君もそいつの親父は知ってると思うよ。
あの城下太郎議員、暴力団との関係をマスコミに暴かれて辞めちゃった、城下太郎の息子の城下英一だよ。
僕らの同級生の中では、奴のことデビルマンって呼んでいたけどね。」とニタニタ笑いながら答えた。
今、健人はその学食の光景を思い浮かべながら煙草をくねらせていた。
すると、「健ちゃん、もう帰るべ!」と言う陽介の声が聞こえた。
陽介は、大将に勘定をしていた。
テーブルには焼酎の五合瓶が3本、空になって置かれていた。
いつの間にか、店は多くの客で賑わっていた。
健人は、「よし!」と言い席を立った。
陽介はタクシーを拾いながら、健人にこう言った。
「また、目が据わっていたぜ。あの女のことは忘れろよ!」と
そして、陽介はタクシーに乗りながら、「また、明日、頼むな!」と言って帰って行った。
健人は陽介のタクシーを見送ると、ゆっくりと肩を落としながら家路に着いた。
だが、その表情、眼には、鬼のような鬼気迫る「怒り」が表出されていた。
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