第2話 スーパーフード「UKE」

 弱い者から次々と餓死していく、深刻な食糧不足。

 そんな時、何が起こるかって?

 そう。限られた食糧の奪い合いだ。

 熾烈な争いの末に戦争まで起こりそうになり、世界は非常に危なかった。


 でも、幸いな事に先人達はそこまで愚かじゃ無かった。

 戦争なんかした所で、奪い合う食糧すらなくなって、人類は滅びるだけだって気づいたんだ。


 人々は未来を生きるために、全ての人がみんなで協力しあう事を決意し、自然環境の保全に取組み、経済や社会の仕組みを大きく変えていった。

 

 また、守ったり止めたりするだけじゃ生きるには足りない。

 生物は何かしらを食べなきゃ死んでしまうものだから。

 世界中の研究者が農業・食糧分野等のバイオテクノロジーを駆使し、食糧難に挑んだ。

 そして遂に究極の食べ物が創り出された。


 それが、スーパーフード「UKE」。


 ヒトに必要な栄養素は、糖質・脂質・タンパク質の3つ。

 そこに所謂ビタミン・ミネラルを加えたものをバランス良く摂取すれば、人間は理論上は健康を損なわずに生きていける。

 「UKE」は、そうした栄養を全て満たしつつ、食べ易く、その生産過程も画期的だった。

 

 なんと農業も漁業も要らない。

 少しばかり広い土地に、工場ひとつ建てればできてしまう、環境負荷が極めて低い食品なのだ。

 主な原料は、クリケットパウダーとワームオイルとスピルリナ…… コオロギとイモ虫と藻って言った方が分かりやすいかな。

 いずれも繁殖力が強い種、劣悪な環境でも生きられる種をつくりあげることに成功したことは大きかった。

 

 この「UKE」、そのままでも栄養価の高いお粥みたいにして食べられるんだけれど、専用の3Dフードプリンターを使うと、適度な味付けと噛みごたえを付与することができる優れものなんだ。

 そんな訳で今、世界の食事は「UKE」と後発の類似食品に切り替わっている。


 実は僕は「UKE」を製造している世界最大の企業『UKE Corporation』の社員なんだ。


 今の時代「美味しい」は生きるのに不要な欲と見做されていて、所属する開発部でもいかに栄養価の高い商品を作り出すかに力を入れている。

 けれども僕は、会社では少しばかり異端で「美味しい」をテーマに商品を開発している。

 AIではなく、人間の母親に育てられたからか非合理にも惹かれてしまうんだよ。


 「欲」=「悪」という時代だ。

 「美味しい」の追求は風当たりが強かったけれど、僕は新たな味の「UKE」を次々と考案した。

 そうだね、『カレーライス』とか『オヤコドン』とか『サバノミソニ』とか、昔のメニューを研究して味を再現してみた。


 会社は最初期待していない風だったけれど、市場に出したら新製品は大好評だった。

 そしてね、偶然かもしれないけれど、美味しい商品のヒットに合う形で、原因不明のまま下がり続けていた平均寿命が下げ止まったんだ。


 「美味しい」の力、侮れないと思うんだよ。



 さて、今日は待ちに待った日。

「美味しい」のヒントになりそうな、とっておきの誕生日プレゼントがもらえるんだ。

 

 身だしなみを整えた僕は、部屋の中をウロウロしながら迎えを待っている。

 


 


 


 

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