6話 彼と凪の出会い 後編
「見失った?いったいどういうことだ?」
「誠人さんには話していませんでしたが、先生は凪を連れてくるためにこの1週間、遠くに行っていました。
ですが、この近くに着いた辺りで凪とはぐれてしまったみたいなんです。」
「わかったけど、そもそも凪って誰なんだ?」
「その件に関しては後でお話します。とりあえず今は先生と合流しましょう。」
そういうと彼女は鞄を持って立ち上がる。
俺も立ち上がり彼女の後に続くように部屋を出た。
***
俺と凛が先生がいるという近くの駅に着くと、そこには困ったような表情を浮かべた藤堂先生が立っていた。
「悪いな橘、わざわざ呼び出して。」
「別にいいですよ。それより早く探しに行った方がいいんじゃないですか?」
「ああ、そのつもりだ。だが、久遠はどうした?彼女はいっしょじゃないのか。」
「凛は先は探しに行きましたよ。俺は凪の見た目を知りません。
だから藤堂先生に聞くために俺だけ先生と合流したんです。」
「そうか。二人には迷惑をかけるな。」
「ここに来るまでに思ったんですが、凪の魔力を感知して場所を知ることはできないんですか。
先生ほどの人ならそれくらい簡単だと思うんですけど。」
俺でも凪の魔力を知っていればできることだ。藤堂紫苑ほどの魔術師ができないとは思えない。
「ああ、それは無理なんだ。彼女には魔力隠ぺい訓練だけをずっとさせてきたからね。
私でも見破ることはできない。」
「なんでそんなことを・・・」
そこまでの魔力隠ぺいが必要があるのか疑問だった。
魔術師としての訓練の中には、魔力制御を鍛えるために魔力隠ぺいを行う場合もある。
だが、それだけを教えるなんてことはやり過ぎのように思えた。
しかし、先生はその質問に対して答えるつもりはないようだった。
「何、そう遠くには行っていないはずだ。三人がかりで探せばすぐに見つかるさ。」
先生はそう言った後、俺に凪の見た目の特徴を伝えて、探しに行ってしまった。
俺も仕方なく、凪の捜索を始める。
「短めの茶髪で、身長は低く、目は白っぽくて、おどおどとした女の子ね・・・」
凪を探すため、先生が教えてくれた特徴をもとに探し始めたのだが、なかなか見つからない。
「それにしてもどこにいるん―――」
「君かわいいね~。俺たちとあそぼうぜ。」
「ここらじゃ見たことない子だな。どっからか遊びにきたのか?」
荒々しい声に振り向くと、そこにいたのはヤンキーっぽい金髪と銀髪の二人組――そして茶髪の少女。
「あ、あの・・・その・・・」
少女は怯えた様子で後ろに下がろうとするが、壁に当たりそれ以上下がることができないようだ。
「ほーら怖がんなって、楽しいところに連れて行ってやるからよぉ!」
二人組の金髪の方が、手を伸ばして凪の手を掴もうとする。
その瞬間、俺は男の腕を掴み、捻り上げるようにして地面に叩きつけた。
「ぐあっ!?」
男はうめき声を上げて倒れるが、まだ意識はあるようだ。
「てめっ!いきなり何をしやがる!!」
「俺はこの子の関係者だよ。この子が嫌がってるように見えたんでな。助けに入っただけさ。」
そう言いながら凪の前に出る。
「あぁん!!邪魔する気なら容赦しねえぞこらぁ!!!」
俺が倒した方の金髪が立ち上がる。
銀髪の方がこちらに話しかけてくる。
「俺たちをなめんなよガキ。俺らは魔術師だぜ。」
(魔術師?嘘だろうけど魔力の量は中ぐらい、おおよそ半魔術師ってところか。)
正式な魔術師になるために必要とされる魔力の量はあまりにも多い。そのため中途半端に魔力に持つものは独学で魔術を学び、
魔術師を勝手に名乗るものもいる。そういう輩のことを『半魔術師』と呼ぶのだ。
すると後ろから凪の心配そうな声が聞こえてくる。
「誰かは知りませんが、私・・・大丈夫です。それよりもあなたの魔力じゃ―――」
「そうだぜ。てめー俺たちの半分以下の魔力しか持ってねぇんだろ? その程度の実力でよくしゃばれたな。」
確かに俺はそんな『半魔術師』以下の魔力しかない。もう少し欲しかったぜ。
「だとしても、俺はあんたらに負ける気はしないよ。」
そう言うと、彼らは顔を真っ赤にして怒り出した。
「上等だクソガキ!!!ぶっ殺してやるよ!!!」
「後悔すんじゃねえぞゴラァ!!」
二人は身体強化の魔術を使い、殴りかかってくる。
俺はそれら難なく避ける。
「は?避けただと?」
「分かったぞ。てめーも身体強化を使ってやがるな。」
「なるほどな。だが問題ねーぜ。俺たちの方が魔力があるんだ。
先に魔力がなくなるのはあいつの方だ。」
二人は余裕の表情を浮かべる。
もし本気を出せば、彼らを一撃で沈めることは簡単な話である。
だが、それじゃつまらない。だからこそ軽い身体強化のみに縛る。
(もう少し痛い目を見てもらわないとな。)
俺は彼らの攻撃を避け続けることに徹する―――
***
「はぁ、はぁ、なん、で、俺たち、の方が。」
「ぜぇ、ぜぇ、先に、魔力が、無くなる、んだよ。」
二人は息を切らしながら倒れている。魔力も空っぽである。
それに対して俺の魔力は満タン。息一つ切らしていない。
「なんで・・ですか?」
凪は不思議そうに俺を見つめる。
「あの人たちの・・魔力は、どんどん減って・・いったのに、あなたは・・少しも減ってない。」
俺は彼女の疑問に答える。
「そりゃそうさ。俺は身体強化の魔術に一切の無駄なんてないんだからな。」
身体強化の魔術を使っている時、魔力を消費し続けるのは魔力を外に漏らしてしまっているからだ。
魔力制御を完璧に行えば、身体強化で魔力を減らすなんてことはありえない。
その点で言えば、彼らは魔力を無駄に外に漏らしまくり、だから数分で魔力が空になってしまった訳だ。
「そもそも俺、身体強化はここ半年解いたことは無いしね。」
彼らは俺よりも魔力を持っていながら、努力を怠ってきたことが見て取れた。
だからこそ、それを実感させるために身体強化だけを使いよけ続けるという方法を取ったのだ。
無論、ただの嫉妬によるものではない・・・本当である。
しかし、凪という少女には無駄に怖がらせるものであったのは事実だ。
「ごめん。君に心配させるつもりはなかったんだが・・・」
「いえ、それよりも・・・お名前を聞かせて欲しいです。」
彼女はまっすぐに俺の目を見て聞いてきた。
よくよく考えてみれば、彼女に俺の事を何も伝えてなかったことに気づく。
「そうだった、俺は橘誠人。君の事は―――」
俺は彼女に事情を説明しようとするが彼女の言葉に遮られる。
「誠人先輩!」
彼女は突然大きな声を張り上げる。
「はい?」
俺はさっきまでと打って変わってはっきりとした彼女の言葉に戸惑う。
「私、
(久遠?師匠?)
俺は彼女の言葉に困惑し続けることしかできなかった。
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