5話 彼と凪の出会い 前編
あの決闘から三日が経ち、今は4月も中旬。
俺は久遠凛の指導官として認められ、彼女の指導をすることになったのだが……
「誠人さんの決闘祭を見て気になったんですけど、上級魔術を四属性までしか使っていないのに、『破界の虹』が発動していたのですが、あれはどういうことなのでしょうか?
私はその状況だと『破界の虹』の発動のタメが長かったように思えたので、そこに理由があると思ったのですが……。」
「凛の想像通りだと思うよ。俺の『破界の虹』に必要な上級魔術は四属性まで。タメ時間は必要になるけど、最後の一属性は別の魔術を使う必要はないんだ。
相手が得意としてる属性の魔術は使えるタイミングが少ないから、最後の属性はそうして貯めることもある。」
「やはりそうでしたか、だとすると『反射鏡』は誠人さんにとってかなり相性の良い上級魔術ですね。どんな魔術相手にも使いやすく、これ一つで光と闇どちらの条件をも達成することができる……。
後、これも気になった所なのですが、決闘祭での誠人さんの衣装が他の選手と比べて派手なのはなぜなのでしょうか?
私は派手で悪目立ちした衣装をすることで相手をかく乱する意図があったのだと考えたのですが、どうでしょう?」
「それは魔術には関係ないだろ………。」
あの頃は俺も調子に乗っていた時期であり、そのため衣装も派手になっていた。そんな事実を語る勇気もない俺は誤魔化すしかなかった。
そんな感じで、毎日のように放課後になると凛による質問攻めを受ける日々を送っていた。
ここ最近は、俺の決闘祭での記録を藤堂先生から借りたみたいで、そのことについての質問もされるようになった。
彼女はあの決闘で俺に負けた後、
「先生の言う通り、あなたからは学ぶことはたくさんあると痛感しました。
あなたの魔力の低さを補うために身につけた力、すばらしいものです。
それを知らずに、あなたを格下だと考えた私が未熟でした。
あなたに対しての暴言をあやまります。ごめんなさい。」
「それでは、これからの指導お願いします、誠人さん。」
と言ってきた。だからこうして毎日のように質問してきている訳だ。
それよりも、同級生だからなのか知らないがすぐに下の名前を呼んでくる距離感の近さや、
「久遠とは呼ばず、凛と呼んでください。私たちはそんな他人行儀な関係ではないでしょう?」
とか平然と言ってくる所など、凛の距離感はおかしいというか、天然なところがあるように思えた。
そういう俺もすぐに凛と呼ぶようになった辺り、彼女に影響されているようにも思える。
「そんなことより、藤堂先生はいつ帰ってくるんだよ。元々は俺が指導されるはずなのに、ここ三日、お前の指導しかしてないじゃないか。」
俺は藤堂先生に指導してもらうためにここに来たはずなのに、今では俺が指導役となっている。
「それは本当に申し訳ありません。先生の用事は今日には帰るはずなので、もう少しだけ待って頂けませんか?それに先生は私の用で遅くなっているので、私にも責任はあるんです。」
そう言って凛は頭を下げてくる。
そうされるとこちらは何も言えないし、そもそも藤堂先生が一日で帰るといったが遅れてしまったのが理由なのだから、凛に謝られる筋合いはないのだが……
すると凛は表情が暗くなりこちらを見つめてきた。
「もしかして私、鬱陶しかったですか? そうですよねずっと私ばっかり質問するから、誠人さんは何の訓練にもなっていないし、嫌気がさしても仕方ありませんよね……」
おいやめてくれ、そんな顔されたらこっちが悪いみたいになるだろう!
「いや別にそんなことはないぞ。こうやって他人に自分の魔術を分かりやすく説明するのも魔術研究の一つだしな。むしろもっと聞いてほしいくらいだよ。」
実際、こうやって他人に自分の魔術について話すのは新鮮でいい経験だと思っている。
「本当ですか!?ありがとうございます!」
俺の言葉を聞いた途端、彼女は嬉しそうな笑顔を浮かべた。
そんな顔をされるのは悪い気はしないが、さすがにはずかしくなってきたので俺は照れ隠しをするように話題を変える。
「それよりも凛のような強い魔術師なら決闘祭に出てもおかしくないのにどうして出てなかったんだ?あの強さなら、上位に入れるぐらいの実力はあるのに。」
あの決闘祭に彼女の名前はなかった。エリア戦で落ちた可能性もあるが、彼女の実力ならありえない話だと思った。
すると凛は少し困ったような表情して答える。
「私、先生から決闘祭に出ることを禁止されていたんです。」
「えっ、なんで。」
「考えてみてください。先生はここで教師として働いていることを隠しているんですよ。そこで私が決闘祭に出て活躍なんかしたら、バレてしまうじゃないですか。」
「ああなるほど、確かにそうだな。」
言われてみるとその通りだ。魔術師がほとんどいないこんな田舎から、これほどの実力者が決闘祭に出ることになれば、目立つことは間違いない。そうなればそこから藤堂紫苑がいることがばれる危険性がある。
「ならなんで藤堂先生に魔術を教わってるんだ。決闘祭にでれなきゃ、魔術師として将来は不安定だぞ。」
倭国魔術決闘祭の成績は将来の魔術師としての進路を左右する。
だからこそ多くの高校生魔術師はこのチャンスにすべてを賭けているのだ。
「私もそれは分かっています。だからこう言ったんです。『禁止されていた』と、今年の決闘祭からは私は先生に出場の許可が出されています。」
そう言いながら凛は一枚の紙を取り出した。そこには決闘祭出場を許可する旨が書かれた書類だった。
「でもそれだと、藤堂先生の正体がばれないか?」
「はい、ですが大丈夫です。先生は今年、私の出場を機に表舞台にもどるつもりですから。」
その言葉を聞いて俺は驚きながらも納得する。
「なるほどな。だから俺みたいな部外者にもあっさり自分の居場所を教えた訳か。」
だが、そうなると一つ気になることが浮かんできた。
「ということは藤堂先生は、凛を育てるために指導官をやめて、ここで教師として働いているのか?」
藤堂紫苑が姿を消したのは3年前、その頃から彼女を密かに育てていたとするのなら説明がつく。
ただ少し違和感も感じる。確かに彼女の才能はすばらしいものがあるが、
彼女のために指導官をやめてまで育てるほどの価値があるとは思えなかったからだ。
あの『珠視炎華』ほどの才能ならまた別の話かもしれないが・・・
そんなことを考えていると、凛は首を横に振った。
「いえ、先生がは私にそんな期待していることはありえません。先生がここにいるのは別の理由があります。
そう、私への指導は『凪』のついでにやってもらっていたことです。そもそも指導自体も私から先生に無理して頼んだことですし。」
すると凛は少し悲しげに目を伏せる。
(『凪』ね・・・)
最初に出会った時にも話していたが、藤堂先生がここに来た理由が『凪』というならそれは何なのかが気になった。
「なぁ、凪っていったい―――」
その時、俺の言葉を遮るように彼女のスマホの着信音が鳴り響いた。
「失礼します。」
そう言って彼女は席を立ち、教室の隅に行き、スマホを取り出す。
「もしもし、どうしました?……え、わかりました。すぐに行きます。」
電話を切ると、彼女はこちらを向いて焦った表情で話しかけてきた。
「先生がこちらに着いたみたいなんですが・・・」
「そりゃ良かった。けど、なんで焦った顔してるんだ?」
「それが、先生が連れてきた『凪』を見失ってしまったみたいなんです。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます