4話 彼と凛の決闘 後編
そもそもの話である。魔術師になれる規定量の魔力とはどれぐらいの量であるのか。さらに言えば、なぜ規定量が設定されているのか。
その答えは簡単だ。一つの魔術を使うのに多大な魔力を消費するため、魔術師になるために求められる魔力の量は膨大な量となっている。
そして規定量があることで、低い魔力によって何回か魔術を使うだけで魔力が足りなくなり使い物にならない魔術師を生まれないようにしているだ。
魔術師の才能を持つものは少ない。だからこそ、その才能を持った一部の魔術師は、自分たちは特別だと思い、魔術師になれないものを卑護者と蔑むのだ。
ではなぜ橘誠人は膨大な魔力を持つ魔術師でも多くの魔力を必要とする上級魔術を使っているのに、魔力が無くならないのだろうか。
それは彼が魔力最適化を極めた存在であるからだ。
例えば、先ほど誠人が使った術。「
魔術師になれるほどの魔力を持ち、新しい魔術を生み出せるほどの天才は、魔術の威力や効果を優先し、その時に使う魔力の量を最適化しようとしない。
だが、誠人の場合は違う。彼は魔力の消費効率を極限まで高めることにより、少ない魔力で協力な上級魔術を使えるようにしているのだ。
「反射鏡」の場合は、それまでの必要魔力のおよそ100分の1にまで最適化しているのである。
そして彼は他の上級魔術も同じような量まで最適化を行っている。
その結果として、A級レベルが使う強力な魔術を、彼の少ない魔力で使うことができるというわけなのだ。
もちろんそんな簡単に魔術の最適化はできるものではない。魔力最適化を行うということは、他人が作った魔術を解析し、それらすべて理解し、そしてそのすべてを自分専用の魔術として作り替え、最適化することが必要になる。
それは並大抵の努力でできることではない。
しかし、誠人はその努力によって、魔人の討伐、決闘祭での勝利を立て続けに成し遂げてきたのだ。
その魔力最適化のための努力こそ、彼の強みであり、そして彼が卑護者でありながら特例として魔術師になれた所以でもある。
***
久遠凛はその可能性に気付き愕然とする。
だがその可能性自体に気付くことができるのは彼女が藤堂紫苑の弟子であるからでもある。
(まさかそんな……。だとすれば先生が言った彼から学べることって……。)
彼女は理解しようとしていた。なぜ先生が橘誠人という男に指導を頼んだのか、その理由を。
しかし、彼女は思考はそこで中断する。なぜなら、それは今、決闘に必要ではないからだ。
(だとしても、決闘を始めた以上、私は負けられない。藤堂紫苑の弟子に敗北は許されない!)
そう決意すると、彼女は自身の使える最大の魔術を詠唱し始める。
(彼の残り魔力は約半分。これで魔力を使わせる!)
「『
彼女の言葉と同時に、巨力な冷気光線が彼を襲う。彼女のもつ最強の魔術であり、火も自然も光も闇もそのすべてを凍り付かせる必殺の奥義である。
しかしその瞬間、誠人もまた行動していた。
「『
誠人が右手を前に突き出すと、目の前に大きな氷の山が現れる。その大きさは誠人の身長の二倍近くもあり、それが巨大な壁のとして、彼女の奥義を防ぐ。
そう、すべてを凍らす『
そして次の瞬間には、二人の間で凄まじい爆発が起きる。その衝撃により、二人の体は吹き飛ばされる。そして数メートル先に着地した二人は再び向き合う。
(まさか本当に防がれるなんて。けどこれで彼の魔力は残り2割。)
久遠凛は、勝利を確信していた。なぜならば、残りの魔力でどんな上級魔術を使われようと、耐える自信があったからだ。
その理由こそ最初に使った魔術である『
彼女の十八番ともいえる魔術である。そしてこれにはもう一つの能力が隠されているのだ。
それは冷気の結界がそのまま残り続けることで、相手のすべての魔術の威力を減衰させるというものである。
もし相手が凍結を防いだとしても、これにより相手は決め手を失う。これこそが『
(どれだけ魔術を最適化できたとしてもこの結界を塗り替えるほどの魔術を使うには魔力は足りない!)
後は彼がすべての魔力を用いて放つ最後の一撃を耐えるだけだと考える。だが彼の右手に何か大きな力が産まれ、私の考えのすべてが吹き飛ぶ。
***
ここまで、橘誠人の強さの源として、
***
「なっ!? 何なのその右手―――!」
久遠は俺の右手の異変に気が付いたようだった。
それもそうだろう、俺の右手にこれまでとは比べ物にならないほどの魔力が集中しているのだから。
「驚くのも無理もないさ。これが俺の切り札。すべての属性を右手に貯めこみ、束ねることで放つ必殺の魔術『
そう言って、右手を挙げる。俺の右手に火、水、自然、光、闇すべての属性の魔力が混ざり合い、大きな力を放つ。それぞれの魔力の色が光ることで、
まるで虹のように光り輝いていく。
五つの属性の反発を制御しながら、右手に集中させるという無茶苦茶な行為の行いに久遠は驚くも、それよりもある疑問が浮かんだらしい。
「あなたはいつそんな大規模な魔術の準備を? それにどこからそれだけの魔力を?」
そう、闘いの中でこれだけの魔術をすぐに発動するのは不可能に近いし、できたとしても彼女がその前準備に気づかないはずはない。
さらに言えば、俺はもうすでに魔力の半分以上を使い果たしてしまっているのだ。
それなのにこれだけの規模の魔術が完成しているのはおかしい。そう思うのは当然である。ではなぜそれを成しえたのか、その答えは―――
「決闘が始まった時からずっと準備していたのさ。」
「え……?」
彼女はありえないという顔をする。それもそうだ。決闘の最中にこんな大掛かりな魔術を発動できるわけがない。
だが、彼女ははっとする。
「まさかこれまで発動させた魔術に潜ませていたの!?」
さすがは藤堂紫苑の弟子である。こんなにすぐ正解を当てられるとは思わなかった。
彼女の言う通り、この決闘で使った『
五つの属性の上級魔術を発動させることを条件とした、俺が作り出した超魔術、それが『
「分かったわ。その魔術は実質あなたのすべての魔力を込められたものと同じということなのね。」
どうやら久遠は俺の『
「ならそれさえ耐えることができれば、私が勝つ!!」
そして再び両手を前に出し、魔力を込める。すると先ほどと同じように『
久遠の魔力すべてを出し尽くすような一撃、その威力はこれまでの比ではない。『
それに対して俺は右手を振り上げ、彼女の光線にぶつける。
「うおおぉお!!」
そしてそのまま、右手を下ろし、久遠の『
これこそが魔術だけでなく世界そのものをゆさぶり、すべてを崩しながら壊す究極の一撃なのだ。
「くっ……それでも!」
久遠はあきらめることなく、次の魔術を使おうとするが、もう遅い。
久遠の目の前には『
久遠は悲鳴を上げる間もなく吹っ飛ばされ、後ろの木々にぶつかる。そして力なく地面に崩れ落ち、久遠はそのまま気絶してしまった。
「そこまで!勝者、橘誠人ッ」
審判役であった藤堂先生が勝者の名を告げる。
こうして俺の高校三年生最初の日、そして最初の決闘は終わったのだった。
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