7話 彼と凪の決闘  前編

あの後俺は、藤堂先生と凛に連絡し、凪と共に六英荘高校で合流することになった。


「凪!なんで先生から離れたの!」


凛は凪に会うと開口一番にそう言った。


「ごめんなさい、お姉ちゃん……」


凪は目を伏せて謝る。すると、先生が口を開いた。


「いや、凪は悪くない。私が目を離してしまったのが悪かったんだ。

凪はここに来るのは初めてだ。こうなることを予測できなかった私が悪い。」


「でもっ!―――すいません、私が取り乱し過ぎました。」


先生の言葉に冷静さを取り戻したのか、凛は謝罪する。


「ごめんね、凪。知らない場所に来て不安だったのに、

会っていきなりどなっちゃうなんて・・・」


凛は申し訳なさそうな顔をしながら言う。そんな彼女に凪は笑顔を返す。


「大丈夫。お姉ちゃんが心配性なのは昔からだし。

それよりも、お姉ちゃんって誠人先輩から魔術を教えてもらってるんだよね?」


「え?」


突然話が変わったことに戸惑ったのか、凛は首を傾げる。


「そうだけど・・・それがどうかしたの?」


「私、誠人先輩の弟子にしてもらったんだ!

だからお姉ちゃんは私の姉弟子になっちゃうんだって思って。」


その言葉を聞いた瞬間、凛の顔が一気に険しくなる。


「ちょっ……ちょっと待って!?私は誠人さんから教わってるけど弟子入りなんかしてないし、それに凪が誠人さんに弟子入りって・・・。」


慌てる凛の隣で、藤堂先生も驚いていた。


「私も初耳なんだが、あれ、私もいろいろ教えてたんだけどな・・・」


というか藤堂先生、落ち込んでいらっしゃる・・・?


「というか、誠人さん!いったいうちの妹に何を吹き込んだんですか!」


「いや、話の流れというか、なんというか、俺もあまり理解できてないんだ・・・」


 あの凪の師匠呼び宣言の後、俺は凪に自分の素性を話していたら、いつのまにか彼女が弟子になっていたのだ。


「誠人先輩って魔力があんなに少ないのにすごい強くって―――ほとんど無いも同然な量なのに!」


 凪は俺の事を褒め称える。最初に会った時のオドオドした姿は何処へやらだ。

というか、口が悪い。ほとんど無いは余計である。


「凪は初対面の人には怯える所があるが、仲が良くなると気さくな子なんだが・・・」


藤堂先生は俺の疑問の答えを口にするが、俺、そんなに仲が良くなった気がしていないのだが。


「私のなんて、先輩と比べたら贅沢なものなんだって思ったし、先輩ががんばってるなら、私も逃げずにやるべきって思えたの!」


そう言って彼女は笑う。藤堂先生はその言葉に目を見開く。

「まさか、最初の壁だと思っていた事がこんなに早く解消されるなんてな・・・。だがちょうどいい。 橘!!お前、私の指導を受けにここに来たんだろ。」


その通りだが、遅らした先生が今言うか。というか本当になぜ今のタイミングで言い出したのか、俺が気になっていると、先生が続ける。


「最初の指導だ。久遠凪と決闘をしろ。彼女と戦うことが君を強くするための最初の一歩になる。」


突然の申し出に俺は驚く。隣の凛も驚いている。凪は――わくわくした顔をしていた。


「待ってください、いきなり過ぎますよ。理由を聞かせてください。」


「そうです。凪はまだここに来たばかりですし、急すぎます。それに・・・」


凛は何かを言いかけるが途中で止める。

そして視線を凪の方に向けると、そこには覚悟を決めた表情をした凪がいた。


「大丈夫だよ、お姉ちゃん。私もう怖くない。

それに、私もお姉ちゃんみたいに誠人先輩と決闘してみたいって思ってたし。

だから、お姉ちゃんには私の決闘見てもらいたいんだ。」


凪のその姿を見て、凛の心は決まったようだった。


「・・・分かった。だけど、もし怖くなったらすぐにやめるんだよ。」


凛は納得したみたいだが、やはり心配なのか念を押している。


「分かってる。それじゃあ、早くいこうよお姉ちゃん!!」


そう言うと凪は、凛を連れてどこかへ向かっていく。

まだ戦う場所も決まっていないのに、いったいどこへ行くつもりだろうか。


「まったく・・・私のこれまでの説得はなんだったのかね。」


そう呟きながら、藤堂先生はため息をつく。


「それで、君は?」


そう聞いてきたのは藤堂先生だった。


「さすがに、理由の一つは説明してもらいたいですね。」


二人の間では、既に話が決まったらしいが、俺には何も聞かされていない。

それ自体は凪自身の問題であるから別に聞こうとは思わなかった。だが、


「なぜ凪との決闘が必要なんですか?」


俺はこのことだけは聞く必要があると思った。


「そうだな・・・。まず、凪は魔術師としての技術がほとんど無く、戦闘経験もほとんど無い。

前に言ったように、彼女には魔力隠ぺい訓練を中心に教えてきたからだ。

つまり、魔術師としての基礎的な能力は無いに等しい。だが、彼女のの前には問題にはならない。

ここまで言えば、君もすでにわかっているんじゃないか?」


確かに、これまでの話から考えれば、俺も薄々そうなのではないかと想像はしていた。

だが、そんなことはありえないという思いの方が勝っていたのだ。

しかし、先生の言うがが本当にあの事ならば、俺の成長に必要だということも理解できる話だった。


「分かったよ。凪は『OVER』なんだな。ならその決闘全力でやらせてもらうよ。」


俺は決意を固める。そして藤堂先生は微笑むのだった。

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