悪魔が来たりてフラフープ
川谷パルテノン
フラフープ
絶望だけがあった。働いていた会社が突如倒産。社員は即刻全員解雇。裏ではいろいろあったようだが俺たちは何も知らないままその日が来た。訴えるという奴もいた。それが正しさなのかもしれない。ただ俺の場合はこんなときどうしていいかも分からず結局何もできないまま借りたアパートの畳の上でぼーっとしている。
引き出しを開けるとビニール紐を取り出してそれを解き、なんども紐同士を巻きつけて固いロープのようなものを作っていると日が暮れた。部屋が暗いので灯りをつけたかったが丁度停まっていた。笑うことも出来ない。手探りでドアノブを握ると、そこに先程まで作っていたロープをかけ、輪状にしたもう一方の先を自分の首にかけた。後はもう、そうなるだけだ。
ジリジリと締め付けられ呼吸が苦しく、顔中が熱い。鼻水と涎、涙はそのまま目玉ごと流してしまいそうだった。さようなら、ごめんなさい。
「こんちゃー」
「ヴ? ゥゥウウウウ!」
「大変そっすね」
「ググググッヴヴ」
「そっか 締まって 切るね」
「ブハァアア! ゲホッゲホッ! ハァ ハァ オエエエエ!」
「はい、フラフープ」
「ゲホッゲホッ ハァ あんた ダレ」
「悪魔です はい フラフープ」
「悪魔? 何? どやって入った!」
「どやってってフツーに はい フラフープ」
「何!? フラフープ何!?」
「助けてやったでしょうが! はい! フラフープ!」
「頼んでねえ! 俺ァもう終わりなんだよ」
「はい フラフープ」
「聞いてる? フラフープしまえ」
「ダメだよ〜 コレが目的 フラフープ」
「目的?」
「そう 目的 フラフープ」
「どうすりゃいいんだ」
「フラフープだよ! ひとつに決まってんだろが!」
「わからねえよ!」
「ほら、腰に、こやって、そう! そう! 振れぃ!」
「なんだよコレ! なんでフラフープ振らされてんだよ!」
「もっと振れ! もっと! もーーっとぉ!」
「何! 何なんだよ! アーーーッもう! しぇいおらぁあああああ!」
「いいよ! すごくいい! すんごくいいよ! 振りまくれぃ!」
「もうダメだ! 乳酸が溜まってきた! 止まる!」
「まだダメ! 我慢しろ! 限界を自分で決めるな!」
「おま ひょっとしてそれを俺に教えに」
「勘違いすんな! ただ振れぃ! フラフープになれ!」
「ダメだ! 砕けそうだ! もうやめるぞ!」
「耐えろ! 意気地なし! 根性みせろ! そんなでいいのか!」
「変わりたいデェス!」
「なら見せてみろ! 意地を! フラフープを!」
「アーーーッ!」
「よくやった やればできるじゃねえか」
「ハァ ハァ ハァ なんすかコレ」
「電気代 ここに置いとくぜ」
「悪魔 あんたほんとに悪魔なのか! なんで どうして俺にコレを」
「振ったじゃねえか 魂をさ」
「意味わかんないけど ありがとうございました」
「また来るからよ 腰 鍛えとけよ」
「もうこんとってください」
「またな」
「だから」
悪魔は消えた。茶封筒にはキッチリ未払い分の電気代だけが入っていた。よくわからないがその金でたらこスパゲッティを買って食った。下半身がガクガクだ。明日から就活しようと思う。
悪魔が来たりてフラフープ 川谷パルテノン @pefnk
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