その7-02

「どこからそれが流れてくるんだい?」


「それは、私の範疇を超えてるわ。警察のすることでしょう。ただ、Rohypnolはアメリカでその使用が禁止されてるのよね。だから、ヨーロッパ経由で回ってくるのかしら。おまけに、最近はキャイニーズギャングが色々持ち込んでくるらしいし。今回もそうとは言い切れないでしょう?ここの学園に持ち込まれてるのは、たぶんキャイニーズギャングが売りさばいてるやつだろう、って聞いてるわ」


「まったく、そんなものに手を出すとは」


 大曽根は嫌そうにその目頭を摘んでいる。


「そうね。でも、受験のストレスも大変だろうから、息抜きには最高なんでしょうよ。ご親切なことに、ウェッブサイトで、簡単に手に入る薬の紹介まであるらしいわよ。よくやるわね」

「確かに」


 ふう、と大曽根が溜め息をついて後ろの背もたれに寄りかかった。


「試験前にこれですか。まったく」


 井柳院までも溜め息をこぼしていた。


「なに? 生徒会に茶々入れするように頼んだ覚えはないわよ」

「覚えはなくても、俺がまだ生徒会にいる間にそういった問題を出されても困るんでね。学園内の取り締まりは、一応、生徒会が扱うことになっている。だから、黙って見過ごすわかにはいかないでしょう」


「邪魔しないでよ」

「君は、渋谷系の仕事があるだろう?学園内は、生徒会の責任なんでね」

「でも、私の仕事の邪魔はしないでよね」

「だったら、協力、ということには?」


「協力するようには見えないわ」

「人を外見だけで判断するのはよくないな。俺は、もちろん、全面的に協力するつもりだけど?

「その顔がね、胡散臭いのよ。こっちの副会長と言い、目が笑ってないわよ。猫被るんなら、その目をやめるのね」


 井柳院と全く同じことを繰り返すアイラに、大曽根と井柳院の目が細められる。


「本当に、こんな相手は久しぶりだなぁ。龍ちゃんもおもしろい女生徒を拾ってきたこと」

「拾ってないじゃない」

「拾ったのは、ここの藤波君だけどね、その後、拾い直したのが龍ちゃんっぽいじゃないか。だから、共同に仕事する、ということで仲良くしようね、柴岬藍羅ちゃん」


「仕事の邪魔しないでよ」

「でも、俺はね、これでも他の学校とかにコネがあるし、そういった関係の情報も手に入れやすいよ。君が聞きまわって疑われるよりは、俺の方が簡単だと思うけど?そこの、副会長さんも、ある程度のコネクションはあるしね。副会長さんの実家だと、結構、裏の情報も手に入りやすいかもよ」


「なんで? 金持ちなの?」

「そういうんじゃないけどね」


「だったらなに?」

「そこの副会長さんの実家は歴代の代議士の家でね。結構、警察がらみとかでも手は回ると思うんだよねぇ、俺は」


 それを回された井柳院はただ肩をすくめてみせるだけだ。


「と言うことで、交渉決定かな?」


 勝手に話を進められたのだが、まあ、出された提案は悪くない。動き回らない分だけ、アイラの仕事も減るというものだ。


「君の――スナックだったかな? それと渋谷の件と、どう関係があるんだい?」

「浮気調査よ」

「浮気調査?だったら、別件?」


「そうね。そっちの方は、もうすぐ終わるわ。渋谷の方は――発見が早かったから、警察にも通報されたみたい。家に帰ってきた娘がヒステリー状態で興奮してるから、心配した親が病院に連れて行って発覚したらしいわ。この時勢で、警戒心も出さずに、知らない男からもらったドリンクを飲む方が間違ってるけど、そこに突け込む男はね。病院で、血液検査を受けて、Rohypnolとエクスタシーが検出されたんですって。話では、以前から、海外に旅行してる大学生がたまに持ち帰ってきて、そういう事件が出始めた――みたいだけど、最近は、ちょっとヤバイ方に流れてるんでね」


「それで、渋谷のグループ?」

「そうみたい。リングがあるみたいで、そのリング内で売りさばいてるような気配もあるらしいわ」

「集団――用のリング?」

「そうらしいわね」

「それは――また、大掛かりなことになってきたな」


「ここの学園内の調査の協力の話は悪くないわ。私が知ってる情報を譲ってあげるから、しっかり調査してよね」

「君と話をしていると、どうもねぇ。協力――ていう響きがないな」

「結果が同じならそれでいいじゃない」


 あまりにツラッとしてそれを断言するので、言い返す気も失せて、大曽根は背もたれによりかかったまま、一気に疲れていた。


「君には、ここの藤波君をつけるから――」

「なんでこの男なの?」


男はね、これから君の付き添いになるんだ。首を突っ込んでなかろうと、君はね、とても危ないことをしているし、危ない状況にいると俺は思っているんだ。だからね、何かある前に、一応の対策は立てておかないといけないだろう?そうなると、ここの藤波君が最適だ。俺達と一緒に行動すると、かなり目立つよ?そっちの方がいい」


 アイラは苦虫を噛み潰したような顔をして、むーっと何も言わない。


「邪魔はしないけど、協力しないんだったら、俺はバラすからね。そうなったらバイトどころじゃないだろ?」

「脅しにはのらないわよ」

「脅しだと思う?」


 にこやかに大曽根は微笑み返す。


「受験に専念してなさいよ」

「それは一理あるけど、嫌だったらそう言うだろう?」


 その視線が、自然、廉の方に向けられる。


 廉はただ静かに座っているだけで、何も言わない。


「なんで首突っ込むのよ」


 つっけんどんにアイラが廉を責めてきて、廉は少し肩をすくめてみせた。


「ただの興味、かな」

「興味があり過ぎじゃないの」

「いいじゃないか。色々、経験するのもいいことだよ」

「お荷物は邪魔ね」


 きっぱり、はっきりと、疑いもせずに、自信を持って廉が無能だと断言してくるものである。


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