その7-01
「本名は?」
「
「本名なんだ」
「そうね」
「どこの出身?」
「ここじゃあ、ないわね」
ふうんと、その質問の続きは特別する様子もなくて、大曽根は次を続けていく。
「なんでこの学園にいるのかな?」
「ちょっとね。調べることがあって」
「それが、渋谷のグルーピーに関係がある?」
「そうね」
「この学園内に?」
「そういう噂よね」
「その噂の元は?」
「さあねえ」
大曽根の質問を素直に答えていると思ったら、またこの返答である。それではぐらかせているのか、真剣に答える気がないのか、久しぶりにでてきた手強い相手に、大曽根も苦笑が浮かんでしまう。
「なんで君がそんなことを調べてるんだ?」
「私のはバイトよ」
「バイト?」
「そう」
「なんの?」
「知り合いの仕事のバイトしてるだけ」
「随分、危ない仕事をさせている知り合いなんだな」
「その分は倍額請求するからいいのよ」
「でも、危ないだろう? 君はどのくらい調べ上げているのか知らないし、どれだけ首を突っ込んでいるのかは知らないけど、渋谷にうろついている中でも、危ないのはいるんだよ」
「それ、どこで聞いたの」
「その程度の噂くらいは、俺の耳にも入ってくるよ」
「あのね、私はその噂の出所を調べてるの」
「まあ、色々だよ」
曖昧にそこで終わらせる大曽根を見ながら、アイラはおいしそうにたいらげたチョコレートクリームを終えて、指についたクリームもおいしそうに舐めていた。
そして二個目も食べるようで、チョココルネの袋も開けて行った。
「その噂――KとかRoofiesとか。GHB?」
「ルーフィーズ? ――漫画の話?」
「漫画?」
「そんなこと調べてるのか?」
お互いに意味が判らないといった風の二人の間に廉が割って入った。持っていた紅茶のカップをテーブルに置いて、少し難しい顔をしてアイラを見やる。
「そんなこと、知り合いがさせてるの?随分、危ないことさせるんだな」
「その分は倍額払わせるからいいのよ」
「そういう問題じゃないと思う。自分の身の安全を心配した方がいいんじゃないのか?」
「別に、首は突っ込んでないわ。よく知ってるのね」
「それくらいは、ね」
「それは?」
勝手に話を進めている二人の間に今度は大曽根が割って入ってくる。
「所謂、デートレイプのドラッグで知られていて」
「デートレイプ? ――それは、また危ないことをして」
「だから、首は突っ込んでないわよ。調べてるだけ」
「それが、この学園から?」
「さあね。でも、ちょっとヤバイのが出回ってるそうだから。それで、そういう仕事の依頼が入ってきたのよ」
「Kとは?ルーフィーズとかも言ってただろう?」
「Kは“
「――ロヒプノールは、耳にしたことがあるかな」
「それ、渋谷の噂?」
「まあ、そんなところだね」
「そう。だったら、同じ線みたいね」
それを聞いて、大曽根は珍しく曇り顔をみせて、ふう、と長い息を吐き出していた。
「渋谷にいる若いのとかで、レイプ関係を目的に固まっているグループがあるっていう噂だな。噂の真相のほどは知らないけど、かなり危ない連中がいるという話は聞いている」
「そっちも、結構、裏に精通してるのね」
「俺の所に入ってきたのは噂が多いだけだ。別に、俺がそれを知ってるんじゃないしね。――それで、君が調べてるって?君の裏にいるのは、警察なのかな?」
「違うわよ。知り合いが依頼を受け取ってきただけ」
「その知り合いが警察に精通してるようだ」
「さあね。私はただのバイトだから」
「仕事を変えた方がいいんじゃないの?」
「首は突っ込んでないわ。それに、引き上げ時がきたら、すぐに引き上げるし」
「なるほど。だったら、君の学校はどこなんだ?学校を休んでこんなことをさせる知り合いも、どうかと思うが」
「学校は別に問題じゃないわ。この学校だって、バイトで来てるだけだし」
「バイトが終われば退学するのかな?転校?」
「まっ、そんなとこね」
ふうん、と大曽根がある程度納得したような相槌を返した。
「出初めは渋谷のグループじゃなかったみたいなんだけど、数件、似たような件が持ち込まれたらしくて、どれも記憶がはっきりしてないらしいのよね」
「ロヒプノール――か」
「そうみたいね。Rohypnolは――鎮静剤の一種で、飲み物に混ぜやすいからGHBよりは頻繁に使用されるかもね。GHBは色も形もほとんど残らないけど、どうも味が悪くて、Rohypnolの方が使用されやすいのかも。その効果は薬の摂取から15分から30分ほどで始まって、その継続時間が4~6時間ほどだと言われてるわ。極たまに、その時間が12時間ほど続くらしいけど。代表的な副作用は、消化された薬の効用のせいでおきる記憶障害ね。だから、それを盛られた側は、目が覚めるまでほとんどの記憶がないことになるわ。意識的にフラッシュバックとかがあって、断片は覚えてるかもしれないけれど」
「それは、問題だな。そんな深刻なものがこの学園に?」
「そっちの方は、ただのパーティードラッグ系なんだけど。受験を控えてる生徒に精神安定剤代わりで売られてるんじゃないかしら。Pの形跡もあるとは聞いてるわ」
「Pとは?」
「Methamphetamineよ。メタドンって言うの? ――麻薬の一種よ。でも、それと渋谷の件の出所が同じじゃないかって疑いがあるらしくて、高校の方は私が調べてるというわけ」
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