その6-02
* * *
「放課後、生徒会室に行くように。学校生活に慣れたかどうか、確認したいそうだ」
授業を終えてさっさと下校する予定のアイラが珍しく呼び止められて、一体何事だろうと、訝ってるアイラに担任がそれを端的に言った。
生徒会が黙ってアイラを見過ごしているはずはないだろうとは予想していたが、以外に早くに生徒会が動き出したようである。
どうせ、噂の出所はあの龍ちゃんであろう。色々な意味で素直な性格は喜ばれるものだが、あの胡散臭い藤波とか言う青年が告げ口したとは考えにくい。
さっさと帰ればいいものを、アイラの仕事が終わるまで全く動く様子もみせなくて、ちゃっかりあそこに座り込んで、アイラが席を外している時は他のホステスに相手をされて、そのホステスと一緒に無理矢理買わされたボトルを半分以上を開けて、ツラッとしているあの態度が怪し過ぎるのである。
冷静沈着なのか、あの動じない態度といい瞳といい、飄々と、いかにも善人を装っている様子が、アイラの“危険信号アンテナ”を更に刺激していた。
出会ったその時から、アンテナが最大限に反応している感じだった。それで、アイラはあの藤波とか言う青年を全く信用していない。
信用していないが、アイラに危害を加えそうにはないところは信用できるようで、それで、かなり遅くなってしまったあの夜、ヤスキの家に帰るのが面倒で、あの藤波とかいう青年のマンションに泊まってしまったのだ。
まあ、親切に部屋を提供してくれた部分は感謝している。一応、出会った時から、アイラの世話をしているようでもあるので、そこら辺は仕方なく、親切だ、と認めている。
なにを思ってあの本人がアイラのことに首を突っ込んでくるのかは知らないが、あの龍ちゃんが気軽にアイラに近寄ってくるので、その警戒のつもりだったのだろうか。
どちらにしても、さっさとフケて退散しようにも、担任を通して生徒会に呼ばれてしまった。ここで無視し続けたら、後々、うるさいことになるかもしれない。
「ああ、面倒ね、まったく。放っておいてよ」
仕方ない。ここは腹をくくって、生徒会に顔を出すしかないようである。
コンコン――と生徒会室前のドアをノックしたアイラは、すぐに中からドアが開けられて、その場に井柳院が立っているのが視界に入る。
鋭利な雰囲気がそのまま出ているような感じの井柳院は、淵なしの眼鏡をかけているが、その黒髪に黒い瞳が、眼鏡のせいで余計にインテリ的な印象を出しているかのようだった。
「これは、どうぞ」
その笑っていないうっすらとした口元が怪し過ぎると思うのはアイラだけではないはずだ。
室内に足を入れると、そこに揃っている面々を見て、アイラの眉間が少しだけ嫌そうに揺れた。
たかが生徒会室なのに、随分、待遇が良いようで、そこに並べてある家具一式とて、そこらの机を並べ合わせたようなものには全く見えない。ビクトリアン風の洒落た洋風の長椅子に、ちゃっかりと座って紅茶をすすっているのは、あの胡散臭い藤波廉本人である。
「生徒会役員以外でも出入りが許されてるんだ」
「今回は特別だよ」
中央の一つ席に座っている大曽根がにこやかに笑う。
こっちは一応目元が笑っている雰囲気を出しているが、それが余計に怪しすぎる。さっきから、アイラの“危険信号アンテナ”がピコピコと鳴りっぱなしだった。
「さあ、どうぞ、椅子に掛けて。今日はそんな特別なことじゃないんだ。転校してきた生徒に、学校での生活が馴染んでいるかどうか、ちょっと確認しておこうと思って」
「それは、随分、親切なことで」
アイラはそこに立ったまま冷たい目を大曽根に向けているだけだ。
どうやら、今日は相手もしらばっくれる様子はないようである。それで大曽根が更ににこやかに笑っていく。
「まあ、椅子に掛けて。長話になるかもしれないから」
「確認でしょう?さっさと済ませてくれません? 生徒会長や副会長の貴重な時間を割いて、受験の邪魔はしたくないんで」
「もちろん、邪魔――なんてことはないよ。一人、一人の生徒のことは、生徒会も気を配っているものだから」
「まあ、いいから座って」
横に立っている井柳院がアイラの肩を押すようにして、そこの長椅子に座らせていくようにする。
アイラの冷たい視線が、スッと、自分の肩に置かれている井柳院の手に向けられていた。
「柴岬だっけ? 猫被るんなら、その目はやめた方がいい。大バレだからな」
「別に生徒会の前で猫は被ってませんけど」
「そうか? だったら、その攻撃的な目は、俺にケンカをふっかけてるのかな。これでも紳士なもので、女生徒に手を上げたくないんだ」
「へえ、手を上げれるの? そんな風には見えないけど」
アイラを長椅子に座らせた井柳院は、大曽根とは対に置かれている一つの椅子に腰を下ろしながら、薄っすらとその口元を曲げてみせた。
「柴岬、お前、そういう性格なんだ。だったら、話は早いな」
「本当に。手間が省けて、これは大助かりだ」
「それで?」
アイラの前に廉が、その左右に大曽根と井柳院。まったくどういう面子かどうかは知らないが、よくやってくれるものである。
アイラはスッと足を組んで、胸の前でも腕を組み出した。この面子を前に、全くものともしていない、かなり高慢――な態度とでも見て取れる感じだ。
おまけに、それを承知していて、わざとにそれを楽しんでいるようでもある。
「これは、これは。俺も君のような女生徒を相手にするのは、久しぶりかな」
「初めてじゃないのか?」
「まあ、そうとも言うけど」
「漫才してるんじゃないんでしょう?用はなに?」
端的に、淡々とそれだけを言いつけるアイラに、大曽根と井柳院の二人がおもしろうに互いを見やる。
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