3-4 俺の幼馴染はツンデレだった

 ふにふにと柔らかい唇を触られ、サリーは押し黙る。触り方がいやらしいと難癖つけたい気分で睨み付けると──


「そろそろ、俺以外の男の話はやめようか」


 爽やかな笑顔と共に指が離れた。


「……そうやって、何人の女を口説いたんだか」

「お前だけだよ」

「嘘ばっかり」


 げんなりとした顔をしたサリーは、一言二言、何か言い返そうと口を開きかけたが、同時に自分を呼ぶ声に動きを止めた。

 振り返ると、そこに清楚なワンピース姿の女性が立っていた。織戸清良おりとせいらだ。


「お待たせしてしまいましたか?」

「大丈夫よ。座って」

「失礼します。えっと……」

「彼はモーリス・ロニー。同じ部署なの。モーリス、彼女が前に話した清良ちゃんよ」

「初めまして。サリーから話は聞いています。ご婚約をされたそうで、おめでとうございます」


 立ち上がったモーリスは手を差し伸べて握手を求めた。その時、ほんの一瞬だが、清良の表情が曇ったのを彼は見逃さなかった。

 握手を交わした後、二人の向かいの椅子に腰を下ろした清良は改めて頭を下げる。


「今日は本当に、ありがとうございます。少ないお休みの日に無理を言ってしまって」

「気にしないで。清良ちゃんの為なら、あたし、いくらでも休みをもぎ取ってくるわよ」

「俺の為にも、そうして欲しいとこだな」

「あなたが清良ちゃんくらい可愛かったらね」

「俺に女ものの服を着る趣味はないんだが」

「そういうことを言ってるんじゃないんだけど」


 飾り気のない彼らの会話に安堵したのか、清良は肩の力を抜いて笑顔を見せた。

 丁度、店員が注文を受けに来たこともあり、メニューブックを見ずに彼女はサリーと同じものをと頼むと、少し羨ましそうな眼差しを二人に送った。

 

「お二人は仲が良いんですね」

「付き合いはそれこそ産院からだから、腐れ縁ってやつよ」

「そこは運命って言ってほしいな。生まれた日までも同じなんて奇跡だろう?」

「ただの偶然でしょ。あなたの頭の中って、軍人になってもお花畑ね」


 二人のやり取りを微笑ましく思ったのか、目を細めた清良は口許を緩めて笑った。


「ふふっ。サリーさんって、ツンデレだったんですね」


 突然の発言に、二人は口をそろえて「はい?」と言って彼女を振り返った。モーリスは心底驚いた顔で、サリーはばつが悪そうに顔を赤らめて。

 そのタイミングの良さに、清良は零れそうになる笑い声を必死に堪えた。


「一年ちょっと前ですけど、モーリスさんがアサゴに来るって、私に話してくれた時のサリーさんの嬉しそうな顔──」

「ちょっ、清良ちゃん、そんなことは良いから!」

「へぇ……初耳だな」

「こら、顔が近い!」


 にやにやと笑ったモーリスが顔を近づけると、サリーは力いっぱいその頬を手で押し返した。


「ちょっと、そのにやけ顔やめなさい」

「日頃つれない態度のお前が、外ではデレてくれてるかと思うと、そりゃぁな」

「デレてないし!」


 誰が見ても仲睦まじい様子を眺め、清良は小さく息をつくと──


「お二人は幼馴染みだって聞いてましたが、本当に仲が良くて……」


 耳を赤く染めるサリーの様子に微笑みながらも、浮かない声で「羨ましいです」と消えそうなほど小さく呟いた。

 清良の目が、せわしく動いていた。

 それが気になったモーリスは、ちらりとサリーと視線を交わす。ここが、染野慎士の話に繋げるタイミングだろうと。

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