八杯目 ビールとにんにくのシイタケの炒め

 今日、ようやく長年の夢が叶う。

 酒が飲めるぞ!

 二十歳になったゆきおは大学の授業中、ずっと酒のことを考えていた。

 はじめて飲むアルコールはどれがいいだろう。

 ビール? カクテル? ワイン? 焼酎? 日本酒? 考えたらキリがない。けど考えずにはいられない。

 大学の授業は高校のときみたいな朝から晩まで決められるということはない。

 自分で選択するから朝からの場合もあるし、昼からのときもある。

 ゆきおはわりと手も抜きたい派。必要なものだけ選択して、だれるときはだれる。

 出席についても、ここの教授は優しいのでちゃんと授業を聞いているかをチェックするための終了時前のテストといった小細工はしない。授業がはじまる前に出席リストがあるので、それに名前を書くだけでいい。あとで友達にノートをとらせてもらっておけばいいということで好きなだけお酒のことを考える。

 だってこの授業が終わった、あとは自由だもん。

 うららかな日差しが差し込む窓辺でひたすらにノートを開いて、話しを聞くふりをして酒のことを考える。

 あ、だめだ、つまみもいるじゃん。


 両親はお酒が飲めない人だったが、祖父母が飲める。夏休みや冬休みの折々に田舎にお泊りをして、いつもビールを飲んでいる二人の姿を見た。

 しゅわしゅわの真っ白い泡と黄色い液体――そのとき、いつも食べているものがあった。

 あ――過去を思い出してゆきおは決意した。

 ビールにしよう。

 つまみを思い出すと飲むものが決まった。

 ちょうどチャイムが鳴った。

 憂鬱な授業とはお別れだ。


 友達に呼び止められたが、すべてお断った。気になっている伊藤くんからも声をかけられたがごめんねと可愛く断って早足で歩いていく。背中に、なにあれっていう声が聞こえた。

 お酒が飲める。お酒が飲める。

 とある歌が頭のなかに響いてる。

 ずんずんと足を進めて、コンビニに向かいお酒のコーナーに陣取る。

 仁王立ちになって腕組みをしてどれにしようかと吟味する。たかだか四百円程度。されど四百円。

 よし、お前だ。私のはじめてのお酒は

 ということでキリンを手にとった。

 一番搾り。苦味が少ないのとは聞いていた。

 そのまま野菜のコーナーでシイタケを買うとレジでお会計をした。店員さんが念のために年齢確認します、というので免許書を出した。

 ちらりと顔を見られてから会計は進んだ。

 自分はもう大人なんだと思った。

「おめでとうございます」

 会計を済ませて立ち去ろうとしたときの不意の店員さんの一言。少し体が硬くなった。うひゃ。


 家に帰ると、狭いアパートのキッチンに直行。

 フライパンを出して油をひいて、切ったシイタケをいれてそこににんにくチューブをいれる。あとは炒めるだけ。出来上がったそれを皿に移してビールを開ける。

グラスに注ごうかと迷ったが、このままでいいやっと一気に煽った。

 苦い。

 まずい。

 もっと!

 ぷはぁーと声を漏らして、シイタケを頬張る。

 噛み応え抜群で心が緩む。

 交互にずっと続けると、ふふっと笑えてきた。幸せ笑いだ。

 まだ日は高い。

 実はコンビニにはのんべぇのためのおつまみが大量にある。この日のためにいつも目にしては食べていなかった。

 ナッツ。

 こっそりと買ったこれを--一人暮らしで誰も咎めないのに! --あけて、ぱくり。こりこり、塩加減最高!

 悪いことしてる気分。

 んふふ。


 夜はこれからだろうが、酔っぱらったままふらふらと腹を満たしてベッドに沈む。

 満足。

 目覚めたとき、またコンビニによってお酒を買おう。おつまのみも買おう。

 楽しみ。

 大人になってよかった。

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