さみしいよるに
私の旅に終わりがなく、同時にはじまりもない。いや、はじまりはあるか。母は旅の民であった。旅から旅へ、私を腹に抱えていても数キロ歩いていたのだから感服する。
それが私たち民なのだ。
ただ産めば産んだだけである。
母は私を歩きながら産み、そのままへその緒でつないだまま一日を歩き続けたという。夜以外は止まれない。
私は幸いにも生き残り、乳をもらい、母とともに旅をした。歩けるようになるとひたすらに歩いた。
そんな民だから滅んでいくのだ。
私たちは迫害を受け、ちりぢりとなった民たちはひたずらに歩き続けた。それぞれの道を進むのだ。
私は一人で生きれると判断されたときから、私の王となり、たった一人の民である私とともに歩き出した。
ときどき同じ旅の民に会う。挨拶と言葉を交わし、また今度、と口にしてものを渡す。
私たちは歌と皮膚に刻んだ刻印が、この民の証。それを目印に私達は出会い、別れる。
今宵は一人。また一人。
炎を起こして呪文を口にする。うねりあげて踊る炎の子は私を見つめて笑う。
私たちの歌は命を与え操る。
魔法とも呪とも言われる。これが私たち民を一つの場所に留まることをさせず、さ迷わせる原因だ。
力は人を狂わせ、いくつもの国を滅ぼした。
私たちはただ歌が好きなだけなのに。それを利用する者たちから逃げて、逃げて、旅をする。
炎は私に口づけする。
歌う。
お前は優しい子だね、と微笑んだ。
私たち旅の民はみんな歌に力を持つ。
人々を狂わせないために追い立てられるように歩く。けれど民のなかには喉を潰し、土地に居つくものもいる。歌うことを忘れ、力をなくした種は大地にねぶき生きる。私の母も、そうなりたいと願いながら結局、私を抱えて旅をして、私を一人残して旅をしている。
いつか私も恋をして子を産むのか。
この歌を歌わずに済む方法があるのか。歌を捨てて一つの土地に生きれるようになるのか。
踊る炎の子と私は手をとりあって踊る。
いつかこの歌を捨ててもいいと思えるほどに、焦がれるものができるように。
ピングーイ・ソーニョ 北野かほり @3tl
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