もーらった

 そのときのことを私は未だに覚えています。

 夏のことです。キャンプ場に家族と向かいました。なつちゃんやゆうちゃんは海に行ったというので私も家族といきたいと駄々をこねたのです。パパは私のためにはりきってくれて、ママも道具を借りてあれこれとしていました。私は楽しみでなりませんでした。


 しかし。


 キャンプ場はいろんなお客さんがいっぱいでした。

 パパは慣れないテントにてんてこまいだし、ママもやっぱり慣れない料理道具に困っていました。

 私は思ったよりもパパもママもあてにならないので、すぐに飽きてしまい、退屈してしまいました。両親は困り果てて、険悪な雰囲気になりはじめたのもあったのかもしれません。

 私は持ち前の我儘を発揮して

 つまんなーい

 やだもうかえる

 とパパとママを困らせました。二人ともむすっとしていましたが、こうやって私の我儘に従うふりをして帰ればいいのだと、チャンスをあげたつもりでした。

 車で三時間のところです、帰って別の所に行けばいいんだと私は思っていたのです。せっかく両親ががんばってくれていたのに現金なものです。

 もうちょっとだから

 と二人に言われても地団駄を踏んでその場を飛び出しました。

 そうして川辺の所に行くと私は両親の悪口を言い捨て、そのあともう、いらない、と口にしました。

「じゃあ、いらないならもらってもいい?」

女の子がいました

「パパとママ、いらないならもらってもいい?」

 変なこと言う子だなって私は思いました。

 だから気軽に

 いいよ、と口にしたのです。

 そのとき、女の子が嬉しそうに笑って


 もーらった


 女の子が口にしてわたしの横を通り過ぎて走り出しました。私はその意味がわかりませんでした。

 けれどいやな予感がして追いかけると


「パパ、ママ!」

 女の子が私のパパとママに呼びかけます。二人とも驚いた顔をして振り返って笑って


 その女の子に、私の名前を呼びました。

 パパもママも笑って女の子を受け入れます。私が声をあげて、追いかけても――弾かれたのです。目に見えない壁によって、両親も他の人たちすら私が見えないのです。

 女の子が笑いました。


 もーらった、と口にして。


 おいていかれた私はその場から――キャンプ場から逃げることが出来なくなった。

 鬼ごっこみたいなものです。

 もらいたいものを口にして、走って、そのほしいものを手にする。そしたら手に入る。入れ替わってしまった私はここにずっといました

 そう、あなたが来るまでね

 私と同じ

 パパとママはいらないって口にしたの。

 私は優しいから仕組みを教えてあげる。がんばって人から奪うのね。問題は、同じ年くらいの同性じゃないと無理ってことだけど

 最近は少子化で子供がいないから、さて、次はいつ、私と同じ年くらいの女の子が来るかしらね。

 ばいばい



 もーらった

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