かみさま、リセット

 ごめん。いま、ちょっと忙しいの。説明するの、あとにして!


「ねぇねぇ、お願いだからー、あなたの声をわたしはー聞きたいのー」

 鶯のように、たかだかとした声でわたしは歌いながら恋人に問いかける。

けむくじゃらのひげに、がっしりとした体のわたしの恋人はずっと黙ったまましゃべらない。ちょっとー、のってきてよね! こっちは必死に腰を振って踊ってるのに!

「あなたはわたしのこと、きらいなのー?」

 首を傾げてきらきらおめめで見つめてみる。


 無言。

 無言。

 無言。

 無言。

 もう、もう、もう!


 この世界は困る!


 あ、こんにちはー。わたし、人間の雌科の十六歳。

 歌ってるから鳥? と思った? 

これでも立派な人間! 

え、なんで歌っているかって。ああ、それはね、――この世界がミュージカルの世界だから!


 この世界は、七日ごとにリセットされる。

 神様が飽き性だからだ。

 ちなみに作られるのは二日の間、その間はふつーの日なの! ちゃんと普通な日もあるっていうのがみそよね。神様、よくわかってる!


 朝、目覚めると

 あ。世界、違うな。

 頭にぴーんとくる。

体が自然とこの世界のルールを理解してる。前はツーステップ踏みながらじゃないと移動できない世界。わたしは体を横に伸ばして、ツーステップ、ぴょんぴょんって移動。家のなかでもパパも、ママも、ちなみに飼い犬のぽちも。犬だって前足あげて、ぴょんぴょんするんだから。車とかも右にきゅーきゅー、次に左にきゅーきゅーってするの。

さすがにオリンピックとかの世界イベント事のときなんて困るんだー。だって、みんなツーステップしか出来ないから! こういうときは

「神様気まぐれにつき、イベント事は延長!」

 

 一番困ったのは古典の言葉しかしゃべれないやつ。あれね、「なんとかで候」とかいうの。もう、意味がわからないからちんぷんかんぷん。ここは宇宙? ってなっちゃう。

 けど、わたし、この世界の神様がけっこう好き。だって、一週間ごとになんか新しいことあるんだもん。

 パパも、ママも、みんな、困るけど、まぁ、いっかーっててなる。

 人間ってほら、神様に一番近い生き物らしいから、きっとわたし達も神様の気まぐれな性質が似てるんだね。

 ただね、困ってる。

わたしの恋人はそんな気まぐれな七日間のたんびに月曜日に憂鬱だ、死にたいっていいながら引っ込んじゃう。見た目がクマみたいだからって引きこもるところまで似なくていいのに!

 けどね、わたしのことを愛してるから、いつもいつも死ぬに死ねないと我慢するの。そういうところ、可愛くて好きなんだけど。

 さて、問題


 今回はミュージカルの世界。みんな歌いながら話すの。楽しくない? わたしはすごく楽しいけど、恋人は一言もしゃべらない。家に引きこもってる。ごはんどうするの? っていったらインターネットをそっと出してる。

ちょっとー!

 これがね、一日なら、わたしも、いつものことかーってなるんだけど、もう四日。四日もしゃべらないの。

 どうしたの。どうしてなのぉー!


 とうとう五日目。


 寂しくて、寂しくて死にそうなわたし。むすっとしている恋人。

「愛が冷めちゃったの。冷めちゃったのぉ~」

 我慢、限界。

 わたし、わんわん泣き出した。いくら歌っても歌ってもぜんぜん返事がないのはもう耐えられない。

 恋人が困った顔をしている。けど、げと、わたしはもう無理。寂しくて死ぬ。

どんな世界が楽しいのは、恋人がいて一緒にわいわい楽しめるから。

はじめは困っても結局わたしとこの世界を楽しんでくれるのに。

「は、は」

 ん?

 誰?

 泣きながら、わたし、顔をあげる。

「はずかしい」

 消え入りそうな声で、――ごめん、言っちゃう。音痴だ。そっか、そうだった。このひと、すごく音痴だったんだ!

 わたしは泣きながらじぃと見つめる。

「そんなあなたがわたしは大好きよ~!」

 笑って告げる。

 七日目になって、世界はまたリセットされる。

その前に、ちゃんと恋人の歌声を聞けたから満足。

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