STADIUM

KAKUMEIKA

第1話眉間

男の勝負に逃げ場は無い。そう確信したものの俺は、あの試合に負けた。結果に理屈なんか要らないと直結に思えるのは俺がプロボクサーだからかもしれない。シャイな子供の遊び感覚でリングに立つ奴はあの世界には居ない。額に汗をかきボコボコに腫れ上がった顔と胸の鼓動が響く妥協音がよく似合う男はこの業界がお似合いだ。


ここぞという所で後一歩届かない。俺は、

何度経験しただろうか。リングに上がれば相手側も俺を眉間を曲げて睨み合う。一瞬の隙間も許されない。まるで、リングの外側が別の世界のようにも俺は感じた。


毎回、慣れないんだ。いつだってリングに上がり試合が始まれば客の歓声すらエキストラのように感じて俺の両手が瞬時に相手のフックを避けながら隙を探してた。ただ、慣れが少し怖い物だ。まるで、本能のように俺の神経は研ぎ澄まされ相手の様子を伺う。試合が終わりコングの鐘が鳴り終わるまでリングの外側を忘れ相手と真剣に向き合い続けた。


そんな俺も、今では年間プレイヤーからも外れて賞金も殆ど手にする事なく停滞していた。


今、向き合ってるのはコンビニのレシートぐらいだ。引退した訳ではないがボクサーとしてはあまり活動していない。別に、ドラマチックな展開など無く俺が、超一流アスリートだった訳でも無い。


現役時代の貯蓄はまだあるが最近は、新宿の飲み屋街で飲んだりダラダラと過ごしてる。


まるで、幻のようだ。今の俺にはあの頃の緊張感なんてありゃしない。気が緩んでるというより目的を失ったな近い。


左手に持ってるのはコンビニのレシート。俺は軽めに買い物を済ませてコンビニから出た。それにしても、ファミマの入店音は平和ボケしてやがる。これっぽっちも危険を感じない。そういえば、最近コンビニ強盗が多発してるらしい。まぁ、この間の抜けたリズムなら無理もない。


俺は、散歩がてら都内の繁華街を歩いてた。金もかなりあるし特に生活にも困ってない。正直、これなら毎日が優雅に過ごせる筈だ。この辺りを彷徨く若者からは邪気をあまり感じなかった。多分、彼らは現代社会と張り合うつもりもないのだろう。器がでかいというより最初から気にしてない感じだ。考えれば、プライドなどという価値観は切りがない。俺は俺だという感覚の方が楽観的に歩めるのかもしれない。そう、プロボクサーを辞めた今の俺からはすんなりと言える言葉だ。


その時、気が抜けて歩いてた俺の背後からクラクションが鳴り響いた。直ぐに、後ろを振り向くと一瞬にして目の前が真っ黒になり俺は、気を失った。

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