8 田中と学校
血まみれでポツンと置き去りにされているそれを見て、私はその手があったかと頷いた。
「鈴木サん、スマホもっテマす?」
「あー、どっカに落としタみたイダ」
「そウですカ」
外部と連絡が取れれば私や鈴木の様なゾンビもどきがいる事を伝えられる。そして外でニンニクについて研究してもらえれば、私たちもなんとか人に戻りのではないかと希望を抱いたのである。
ならば早速行動だと私は鈴木と別行動をする事に決め、カバンの中に必需品を詰め込んでいく。
脳を活性化させると思われるニンニクチューブと生ニンニク。腐っていない生肉少々。多様性のあるミネラルウォーター。あと万が一に備え自分自身を拘束できそうなロープ。
主に食事や睡眠時に使用し、うっかりミスで人にあったときに襲わない為のものである。
私は準備を終えると鈴木に挨拶をし、そして学校へ向かった。
学校までは徒歩で半日かかり、道中生存者を見ることはなかった。流石に一月以上経っているし、もう望みは薄いのかもしれない。
とは言ったものの街にまだ水道もガスも通っている。外の人間はそれでもなお生存者がいると願っているのだろう。でなければ早々にライフラインは途絶え、生きている人間は住めない土地へと変わってしまうのだから。
私は校門まで辿り着くとゾンビの群れの間を縫う様に進み、渡瀬さんに遭遇した場所へ向かう。スマホはきっと襲われたときに落としたか、もしくは襲ったときに落としたに違いないだろう。
見知った顔をしたゾンビも多くいる学校は気分のいいものではないが、それでも進まずにはいられない。
ようやく辿り着いたその場所には探し求めていたスマホはなく、私はあの悪夢の場所へと足を向けた。
「──あっタ」
可もなく不可もなく、ありきたりなカバーをかけたれた私のスマホは伊藤の血に塗れている。そしてその横には腐り始め異臭を放つ伊藤がそこにあった。
私が喰らった後も誰かに食われたのだろうか、上半身と下半身が離れかけている。ゾンビは生きている人間しか食べないという説は正しくないのかもしれない。
私は一度伊藤に合掌をした後スマホを拾う。電源を押してみるが稼働することはなく、充電が切れていることが推測できた。何処かのクラスに入り残っているカバンをあされば、充電器くらい出るだろう。その後誰かと連絡を取ってみるとしよう。
トイレから抜け出し、今度は近場の教室へと入り込む。そこにはゾンビの先約がいて、同じくゾンビであっただろう遺体を貪っていた。やはり腹が減ったら腐っていても食ってしまうのだろう。
どうせ襲われないしとゾンビに近づき、肉片の上にニンニクチューブを搾りかける。するとゾンビは一口それを食べたのちに、ゆっくりと後退していく。縛り付けないでニンニクを食べさせたのは初めてであったが、ゾンビはニンニクを不得意としているのかもしれない。これもまた一つの研究成果として外部に伝えよう。
ゾンビがいなくなった教室で私はカバンをあさり、計七つの充電器を見つけることができた。そのうち三つはポータブル充電器で、今後はより一層役に立つに違いない。
充電器の他に幾つかのスマホを見つけたがたった一つを除いて全て充電切れで、残ったスマホはずっと充電器につながっていたのものであった。
そのスマホのホームボタンを押せば親からきたのであろうラインが表示されており、無事ならば連絡してくれと何度も懇願している。
しかしながらこのスマホの持ち主は既に生きてはいないだろう。悲しくも、それが今の状況なのだから。
あたりは既に薄暗くなり始め、私は両足を軽く拘束する。いないと思うが生存者遭遇しても、これで彼らが逃げる時間は稼げるだろう。
早めの夕食としてニンニクマシマシ七味マシマシの生肉にかぶりつき、落ちていた飴で口直しをする。
そして苦しい気持ちを抱きながら、鉄臭い教室でひっそりと眠りについたのである。
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