9 田中と写真
「わぁー、須藤先生ガ原先生喰っテるよー」
目覚めてすぐ見た光景が教員同士の共食いだった私の心情を誰か考えてみてほしい。
まぁ、ここには誰もいないのだけれども。
一度深くため息をついて、わたしは両足の拘束を解いてスマホを確認する。夜中中充電していたからか既に百パーセントになっており、ついでに両親からの届いたラインを見ることができた。
昨日の知らない生徒のものと同じように心配だと、生きているのならば連絡をくれと何度も何度も連絡が入っているが、一番新しいものは八日前。きっと心が折れたのだろう。
もし仮にわたしが生きていたのならば直ぐにでも連絡したに違いない。けれど今のわたしは理性のあるゾンビ。そしてその理性も人を前にすればぶっ飛んでしまう仕様でもある。両親に期待を持たせるのは苦でしかない。
では誰に連絡すべきか。
警察が消防か、どちらも似たようなもので悪戯と思われてしまうかもしれない。
わたしの言う事を信じてくれて、尚且つ皆にこの状態を知らしめてくれるもの。果たしてそれは誰?
友人の殆どはこの校舎の中で死体かゾンビになっている。連絡したって返ってこない。
じゃあテレビ局?電話番号知らん。ネットで調べればもしかしたら分かるかもしれないが──?
「……ネット、か」
ネットならば勝手に拡散してくれるのではないのか?
こんなご時世とはいえいつだって人間は話題に飢えている。自分を晒すのは忍びないが、この町の情報を知りたがっている人間もごまんといるに違いない。
きっと拡散されれば人を喰った私を非難する人間もいるし、化け物だとなじる人間もいる。そのうち両親にも私の存在が伝わってしまうかもしれない。
それでも、今私がすべき事はこれなのではないだろうか?
「ヤラない後悔よリ、しタ後悔」
パシャリと青い白く血管の浮き出た自身の左手を撮り、校舎の中と外の写真も撮っておく。その音のせいでゴロゴロと集まってきたゾンビたちも画像に収め、私はフォロワー数の殆どないTwitterへとツイートをした。
勿論、『半ゾンビ化なう。情報知らせます』と分かりやすく明記して。
電話で片言で話すよりは、文章のほうが伝わるだろう。人任せで申し訳ないが、数少ない趣味繋がりのフォロワーさんが拡散してくれる事を願うしかない。
私はそれから遅めの昼食を取ると鈴木の元へ戻ろうと必死に足を動かし始めた。
行きと違い帰りは街や人を撮影して、その度にツイートを続けていく。二時間もすれば少しずつ嘘が本当か気にする通知が届き始めだが、すぐに返信することはなかった。
いちいち返信していては時間がかかるし、鈴木の元へ戻ってから何を伝えたほうがいいかも考えたほうがいいだろう。
ぶっちゃけ少し面倒臭いと思っているので大人に任せたいという気持ちもあったが、嘘と馬鹿にする人間に一人で立ち向かう勇気なんて私にはなかったのだ。
私はひとまず連絡手段を得たのだが、これでいいのだと自分勝手に納得しつつ進んだ。
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