第23話 クィア×クィアのリスク
「そんなこんながあったけど、無事愛生からはオッケーもらえたよ!」
「えーっと……うん、ありがとう?」
私は明るく莉緒に報告したのだけれど、莉緒自身はとても複雑な表情を浮かべた。
「どうかした?」
首をかしげつつ尋ねると、莉緒は言いにくそうにしつつも答えてくれる。
「あ、えっと、茂木君に許可をもらえたのは嬉しいし、華恋には感謝してるんだけど……。その、牧田君と本当に二人で話をするつもりなの?」
「そうだよ?」
すると、莉緒は考えながらも言葉を紡ぐ。
「えーっと、あの……。牧田君の話って、普通に考えればあの話だと思うけど、華恋はどうするつもりなの?」
「あの話?」
あれからしばらく自分でも考えてみたのだけれど、本当に心当たりがない。何か貸し借りをしていた覚えもないし、禍根を残すようなことはなかったと思うのだが。
「莉緒には何か心当たりがあるの?」
何か忘れていることでもあるのかと思って聞いてみると、莉緒は驚いた顔をした。
「え。逆に何でわからないの」
「え。そんなに重要なこと?」
何度も記憶を掘り起こしすぎて、もうこの頭の中に金が埋蔵されていないことはわかっている。それでももう一度頭の中をこねくり回した。
「う~ん……。無理! 降参!」
だけどダメなものはやっぱり駄目だった。私があまりに思いつかないからか、逆に自分の考えが正しいのか不安になったようで、莉緒はか細い声を出す。
「あの、普通に考えれば、多分復縁の話だと思うんだけど……」
「え」
私が驚きに固まると、莉緒は慌てる。
「え、え? まさか本当に思いつかなかったの?」
そう言われ、今度は私が慌てる番だった。
「いやいやいやいや、まさかそんなことはないよ⁉ あまりにもあり得なさ過ぎて考えなかったというか、むしろ一番に思いついていたけど捨て去った選択肢というか?」
すると莉緒は困ったように笑った。これは絶対に信用していないやつだ。
「と、とにかく、それはないよ。だって振ったのは朔空の方なんだから」
そう、原因は私にあったとしても、私たちが別れたのは朔空がそうしたいと言ったからなのだ。咳払いしつつそう言うと、莉緒は首をかしげる。
「そうかな? 結局華恋が振り向いてくれないから別れたわけでしょ? ってことは、牧田君にはまだ気持ちが残ってたのかもよ?」
「う~ん」
恋に落ちたことがない私は、恋が終わったこともない。恋が心の中から消えるというのはどういう感覚なのだろう。ある日突然なのか、徐々になのか。
「まあ、実際のところは聞いてみるしかないけど、もし復縁の話だったら、もちろん断るんだよね?」
「まあ、ね……」
そう言われて、改めて考える。もちろん復縁の話であれば断るつもりだ。しかし、ではなぜ恋ができない私が愛生と付き合ったのかと聞かれたら、どう答えるべきなのだろう。
愛生のことは好きになれた、というのは嘘になる。
かといって、朔空と付き合ったときのように、私はまだ好きになっていないけれど付き合っているのだと、そう言うべきか。それが原因で、きっと朔空のことは少なからず傷つけたはずなのに。また違う人に同じ事をしていると、そう言うのか。
それに、だったら俺でもいいじゃないかと言われたら、なんと切り返せばいいのだろう。
利害が一致しているなんてことは口が裂けても言えない。私のことは良いとしても、愛生のことを話すのはアウティングになる。
クィア同士で付き合うというのはこういうことなんだ、とこの時初めて気付いた。一蓮托生の関係。片方がクィアだとバレれば、必然的にパートナーもクィアを疑われる。
莉緒にはその辺りはぼかして伝えたけれど、特に突っ込まれることもなかった。そもそも莉緒の性格上、こちらが話しにくそうにしたら追及してこないことが分かっていたから安心して話せた。
朔空も、どちらかと言えば空気の読めるタイプだけれど、何せ自分が当事者の恋の話だ。あいまいなことを言って乗り切れるのだろうか。
「華恋?」
私が黙り込んでしまったからだろう。莉緒が心配そうに名前を呼んでくれる。
「あ~、うん。まあ、なんとかなるでしょう」
私は自分に言い聞かせるようにそう言って、努めて明るく笑った。
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