恋に落ちたい私と片思いを続けたい俺

神原依麻

ゲームのような恋人関係

第1話 苦手なこと、恋愛

 名前、比嘉華恋ひがかれん

 おとめ座。O型。高校二年生。

 趣味、動画鑑賞。

 好きな食べ物、栗・かぼちゃ・さつまいも。

 嫌いな食べ物、しいたけ。

 将来の夢、特になし。

 特技、これといってなし。

 苦手なこと、恋愛。




「比嘉はもう卒論のテーマ決めた?」


 ニヤニヤしながら聞いてくるこいつは茂木愛歩もぎまなぶ。小学校からの腐れ縁。私と違ってモテモテで恋愛経験豊富。ただし、長続きはしないようだけれど。


「決めてないよ。決まってるわけないじゃん」


 高校で卒論とは何ぞや、という人もいるだろう。


 実は私たちの通う学校はとある大学の付属高校だ。高校受験をするにあたり、大学受験が免除されるというメリットに目がくらみ、この高校を選んだ。


 いわゆるエスカレーター方式というやつなのだが、そのためには卒業要件となっている卒業論文の執筆が不可欠となっている。優秀なものは全校生徒の前で表彰されるそうだが、目立つことが苦手な私からすれば地獄でしかない。


 噂では、論文の形式になっていて規定の文字数さえ満たせていれば内容はどんなものでも認めてくれるそうだ。とはいえ論文など読んだことすらない私にとって、二万字以上が規定要件となっている論文の執筆など頭が痛いことこの上ない。


 先日説明会はあったものの、本格的に取り組むのは三年生からと聞いている。二年生の、しかもまだ春の息吹を感じる今日この時分にテーマが決まっている人はごく一部であろう。


「そういう茂木はどうなの?」


 すると茂木は得意げに笑った。


「俺はもう考えてる」


 予想通りの答えに少し辟易する。こいつは昔から抜け目がない。


「ふーん、そう、頑張って」


 私が興味なさげにそう言うと、茂木は少し拗ねてしまったようだ。


「おいおい、そこは『へぇ~、どんな?』って食いついてくるところだろ?」


 そう言われても、今の私の最大の関心毎は別のところにあるので仕方がない。


「聞いたらお金くれるって言うなら聞いてあげてもいいけど。今の私は人にやさしくできないの」


 すると茂木はなんとなく私の関心毎を察したようだ。


「ふ~ん、なんかあったの?」


 その返答に、私は呟くように答えた。


「また一つ、桜が散りました」


「……それはそれはお気の毒に」


 ちっとも気の毒に思っていないであろう口調でそう言って、茂木はおやつのポテチを口に放り込んだ。


「はぁ、どうしてうまくいかないんだろう」


 そもそも私は恋愛に関する沸点が極端に低いようなのだ。


 それでも『付き合ったら好きと思えるかもしれない』と来るもの拒まず、また『この人なら好きになれるかもしれない』と思う人に自らアタックもして、何人かと付き合ってはみた。


 しかし、やはり世にいう〝恋に落ちる〟という感覚を経験することはなかった。次第にお互いの温度の違いに耐えきれなくなり、振られたり振ったりしてお付き合いが終わることが定番化してしまった。


「そりゃ、比嘉が相手のこと好きじゃないからでしょ」


 茂木は笑ってそう言った。


「それはそうだけどさ。それが失恋した人間に対する態度なの?」


 少しは気を使って優しい言葉の一つでもかけたところで罰は当たらないのではないだろうか。


「いや、失恋はしてないでしょ。最初から好きじゃなかったんだからさ」


 しかし、私の抗議など痛くも痒くもないのか、茂木はさらっとそう言うと、また一つポテチを口に放り込んだ。私はその余裕の態度にムッとして、ポテチの袋を取り上げた。


「どうせ茂木には分からないよね!」


 そう吐き捨てて、袋に残っていたポテチを口にザッと流し込んだ。


「うわ、ひっでぇ。それこの春限定の味なんだけど?」


 茂木はそう言うと、仕方ないと言った風に一つ息を吐くと、こちらに向き直る。


「それにさ、俺だって比嘉と似た悩みを持ってるよ?」


「似た悩み?」


 唯一の共通点と言えば付き合いが長続きしないこと、だと思うけれど。それは茂木が飽き性だからではないのだろうか。モテるのを良いことにとっかえひっかえしているイメージしかないけれど。


「唯一の人を探してるってこと。比嘉は自分が好きになれる人、俺は俺のことを好きにならない人」

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