『夜光兄妹の休日』
「お帰りなさい、お兄様。……なんですか、それ?」
切れていた歯磨き粉を買いに行くとかでコンビニに行っていた幽。
彼が持つレジ袋には、明らかに歯磨き粉ではない何かが大量に詰め込まれていた。
「ただいま。……○る○る○るね、知らないのか?」
そう言いながら、幽はレジ袋から出した有名な知育菓子を机に並べていく。
どうやら一種類ではないらしい。
こういった物に疎い麗薇は次々と並んでいくそれを興味深そうに眺めて――
「……って、どれだけ買ってるんですか!」
「見たこと無い味もあったから、とりあえず麗薇の分も入れて8個買った」
「私の分、ですか?」
当たり前の様に言った幽に、麗薇はきょとんとした顔で首を傾げた。
「……いらないなら全部俺が食うぞ」
「いえ、せっかくお兄様が買ってきて下さったのですから頂きます!」
本当に全部食べてしまいそうな勢いの幽に、麗薇が慌てて応える。
「よし、じゃあ早速作るか」
そう言って、幽は一番メジャーな紫色のパッケージを手に取った。
「作るんですか?」
「知育菓子だからな。水入れて混ぜるだけだけど」
麗薇に応える幽の目は普段の彼からは想像もできないほど輝いている。
「これが意外と楽しいんだ」
「はぁ……お暇なんですね」
麗薇はそう言いながらも、幽と同じ紫色のパッケージを両手で抱え、
「お兄様、いつまで突っ立ってるんですか? 早く行きますよ」
義妹の毒舌にショックを受けていた幽を急かす。
どこかワクワクした様子の麗薇に幽は頬を緩め、彼女の頭をポンと叩いてキッチンへ向かった。
「さっきも言ったが、作るっていっても水入れて混ぜるだけだ。……だから麗薇、エプロンはいらない」
キッチンに入ってすぐにエプロンを手に取った麗薇に幽が言う。
「へ? わ、分かってますよ? これは……そう! シワを伸ばしてただけです」
バレバレの嘘で誤魔化して、麗薇は幽の隣に立った。
すると幽はすぐに慣れた手付きでパッケージの中身を仕分け始めた。
麗薇も慌ててそれに倣う。
番号の書いてある粉を順番通りに入れ、付属のカップで水を注ぐ。
そこに最後の粉を入れて混ぜれば完成だ。
「わ! 色が変わりましたよ、お兄様!」
「これ何回見てもすげぇよな。……あ、後ろに説明書いてあるぞ」
「ほんとですね。楽しいだけじゃなく勉強にもなるとは……知育菓子を名乗るだけのことはありますね」
子ども向けの知育菓子で喜ぶ兄を暇人扱いしていた事などすっかり忘れて、麗薇がはしゃぐ。
珍しく子どもらしい一面を見せる麗薇につられてか、幽もいつもよりハイテンション気味だ。……いつものテンションが低すぎるだけだが。
「できました!」
しっかりと○る○るし終わった麗薇がトレーを掲げる。
「おう。じゃあ食べるか」
「はい!」
花が咲いたような満面の笑みを浮かべて、麗薇は足早にテーブルに着く。
幽はその隣に立って、二人同時にスプーンを口に運んだ。
「美味い」
「っ! 美味しいです!」
一口目を味わった瞬間、二人が同時に叫ぶ。
その後はノンストップでスプーンを動かして、口の中に広がる甘味と酸味の絶妙なバランスを楽しむ。
この味を発見した人はノーベル平和賞を受賞していいと思うほどのおいしさだ。
そしてもう少し食べたいと思いながらスプーンをトレーに入れると、
「あ……もう空になってしまいました……」
「子ども向けの菓子だからな。……量は少ないんだ」
麗薇が明らかにしゅんとした表情で空のトレーを見つめる。
そんな麗薇を励ますように、
「麗薇、今ウチにはあと3種類の○る○るがある」
「お兄様、まさか……!」
「ああ。食べ比べだ」
幽はどこか得意気な顔で、両手に○る○るを抱えて言った。
そんな幽に拍手喝采な麗薇。今日の夜光兄妹はどこかテンションがおかしい……。
「では早速○る○るしましょう!」
こうして、兄妹水入らずの○る○るパーティーが繰り広げられ、この日以降夜光兄妹のキッチンには必ず○る○るが備蓄されるようになった。
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