第6話

「じゃあ、松山の案件頼むぞ」


「はい。必ず成功させます」


 佐久間と別れ一旦コーヒーを飲みに休憩室に向かう。事務で働く女性社員が小話に花を咲かせていたが、小鳥遊の姿を見つけるやいなやぱっと会話を止めてしまう。部長という肩書きがそうさせているのだと理解しているから、さっと飲み干して営業課のあるフロアへ戻っていく。


 キジマ鉄鋼との合同会議はこれが3回目になる。最近できた新しい鉄鋼会社だが、そこで作られる鉄パイプは頑丈で長持ちすると評判で今回の商談が成立することになったのだ。課長の横溝から念入りに指導を受け、部長としては初めての営業になる。シャツの襟を正して書類に不備がないかもう一度確認する。


 同行する米原よねはらに声をかけて本社を出た。移動中、桜並木が風に吹雪いて花びらが散るのを米原は写真におさめていた。重要な会議が迫っているというのに米原は緊張もせず、いつものように妙な歩き方で後ろをついてくる。


 オンとオフと切り替えが上手く、先方の前では礼儀正しくなるものだから二重人格ではないのかと疑うほどだった。米原はベータの一家に産まれた生粋のベータだ。大学時代苦労したと聞いている。住販会社で働くのを夢見てさまざまな資格を取りインターンに足繁く通い、ようやく面接にこぎつけたのだという。スバルホームズは8割型アルファの社員で構成されていて、ベータはほんの1割しかいない。いかに米原が優秀かがわかる。新人の頃も手のかからない頭のきれるやつで苦労しなかったことが印象的だった。

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