第5話

「小鳥遊。この資料佐久間に渡しておいてくれ」


 同僚の百田がデスク越しに資料を渡してくる。ホッチキスで止められた書類に軽く目を通しながら小鳥遊は席を立った。営業部のエースを競う百田とはいいライバルだった。毎月どちらが多く契約を取れたか競い合い、営業成績を伸ばしていた。百田は人を寄せつける何かがあるらしく、常に人々の円の中心にいる。一方の小鳥遊は周りを寄せ付けぬ空気を身にまとい、その円の外からその様子を眺めているといったふうだった。


「佐久間。百田から回ってきたぞ」


「小鳥遊さん。わざわざすみません」


 爽やかな笑みを浮かべて佐久間が頭を下げる。綺麗なつむじをしているとしげしげ眺めていると、「部長?」と訝しげに見つめられた。


「すまない。少しぼんやりとしていた」


「お疲れですか。今日ですもんねキジマ鉄鋼との合同会議」


「ああ。午後1時に向かう予定だ」


 壁にかけられた時計に目をやりながら小鳥遊は目を伏せる。佐久間はそのきりりと引き締まった横顔に見入っていた。他を寄せつけない一匹狼のような小鳥遊だが、指導は手厚く新人の頃は非常に世話になったことを思い出してくすりと笑う。すると、なんだと言わんばかりに小鳥遊が眉をひそめた。


「小鳥遊さんの熱いご指導を思い出してしまって……怒涛の研修期間だったなと」


 そういうと佐久間は眼鏡のブリッジをひょいとつまみ上げた。小鳥遊は「そうか」と呟く。まだ佐久間がひよっこだったときを思い出して堪えきれずに苦笑すると、佐久間は少しばつが悪そうに肩をすくめた。

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