第5話

マユの退院日は刻々と、無常に近づいていきました。その間はいつもと変わらない毎日で、マユもユウキも周りの人達も、筆談でよく話しよく笑いあったりしていました。寂しさを紛らわすように。

そして退院前日の夜、ユウキはマユと二人で肩を寄せ合い筆談をしていました。周りも二人の仲の良さには気づいていたからか、少し距離を置いた中で。

実はこれまでマユ以外にも仲良くなった人は数人いたけれど、その誰もが一人また一人と退院していって、気を許せる相手はユウキにとってマユ一人だけになっていました。

【明日退院だね、おめでとう】

ユウキはノートにそう書きます。

「うん、ありがとう」

マユはその隣に書きながら返事をします。

【あの日、声をかけてくれてありがとう。マユのおかげで毎日が楽しかったよ】

「それなら良かったよ。ボクも……」

マユは途中でピタッと手を止めました。

【どうしたの?】

とても悩んでいる様子にユウキは首を傾げます。

マユは再び文字を紡ぎました。言葉には出さずに。

【このまま時間が止まればいいのに】

ユウキはそれを見て驚きました。目を見開いているのが私にも分かります。

【同じこと考えてたよ】

ユウキはすかさず返事を書きました。

【本当に?嬉しいな。もし時間がとまったらユウキはどうしたい?】

【んー、まずここからマユと一緒に脱走したい笑】

【あはは大胆だね笑 それから?】

【お日さま浴びながら芝生でゴロゴロして、草木の匂いを目いっぱいクンクンして、海にも行きたいな。あとテレビで見た美味しそうなもの全部食べたい!旅行もしてみたいなー】

【うんうん、どれも楽しみだね。ユウキと一緒ならきっと何だって楽しいんだろうなー。ボクはね…】

消灯時間ギリギリまで、話が尽きることはありませんでした。もうすぐ今日も終わりという頃、

【寂しいよ。離れたくない。もう会えないから】

ユウキは素直な気持ちをようやく伝えました。

【ユウキ…同じ気持ちだよ。ありがとう】

マユは少し顔を赤くして、微笑みました。

【明日からもユウキが寂しくないように、おまじないかけてもいいかい?こっちを向いて目を閉じて】

ユウキはマユの言う通りに目を閉じました。

唇に触れる柔らかい感触。ほんの一瞬。

ビックリして目を開けると、マユは顔を真っ赤にして照れ笑いをしていました。

【不意打ちみたいでずるかったかな?だけどー】

マユが筆談を続ける中ユウキは遮るように、

ちゅ

マユの頬に両手を添えて口付けをしました。きっとマユよりも真っ赤な顔で。

【外でもマユが元気でいれる、おまじない】

ユウキは急いでそう書き残すと、手を振って駆け足気味に部屋へ戻りました。その夜は中々眠れませんでした。

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