第3話

マユと出会ってから数日たちました。

相変わらずユウキは今日もマユの隣でテレビを見ています。まあ他にやることも無いし私も色々と見れて嬉しいのですが。

「あははこの芸人おもしろいよね」

「うー?」

「ユウキは何でも初めてだもんね。きっと毎日が新鮮なんだろうなー」

マユは毎日飽きもせずユウキに声をかけ続けました。もしかすると暇な入院生活で、たまたま歳の近い相手が居たからかも知れませんが。

「今日の夕食はなんだっけ」

夕暮れ時、マユが掲示板の献立をチェックしようとしたある日のことでした。

「ん?どうしたのユウキ」

いつもテレビの前から動かないユウキが、マユの後をトコトコついて行きます。立ち止まると目の前には今週の献立が貼ってありました。

「あ、え……あ、えー、あえー」

指でなぞったのは、今日の夕食欄でした。

「今日は…カレーだ。カレーって言ったの?」

「あえー」

「すごい!ユウキ言葉が分かるんだね!」

マユはユウキの手をとると、まるで自分の事のように喜びました。私は正直とてもビックリしています。今まで言葉に理解を示すようなそぶり無かったから。

(……もしかして、テレビを見て?)

ユウキは毎日テレビをひたすら見ていました。

それは娯楽のためではなく、ユウキにとっては勉強だったのかも知れない…そう感じたのです。

「ねえユウキ!それじゃあ、ここに何か書けるかい?紙とペンだよ。やってごらん」

「うー?」

マユは閃いたとばかりに、自分のメモ帳を取り出すとユウキに渡します。ユウキがペンをジロジロ眺めていると、マユがお手本にと紙にスラスラ書きました。

【マユです。よろしく】

それを見てユウキも、ぎこちない手つきで紙にペンを走らせます。

【ユウキですよろしく】

「すごい!読めるよユウキ!」

ペンの持ち方も文字もガタガタでしたが、確かにそう読めるものをユウキは書いてみせたのです。

テレビは時々、字幕が出てきます。その字幕に合わせて人が喋る場面も沢山あります。ユウキはそれを必死に目と耳で追いかけて、学習したのかも知れません。

(すごい…)

私は自分のことながら心底感心してしまいました。

仮に私が同じ状況になって、この短期間で同じことができるようになるか自信がなかったからです。

ユウキはそれから自分用のノートとペンをスタッフから貰い、マユやその周りの人たちと筆談で一日中会話をしていました。

「ユウキやっと笑ったね。いつもボーッとした顔してたからさ、その方がずっといいよ」

マユがそう言って笑った場面が印象的でした。

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