第2話

私が目覚めた日…正しくは私がユウキの中から動きを観察するようになってから、2日目の朝が来ました。1日目は、トイレを教えてもらったことと、服を着替えさせてもらったこと、それと担当のお医者さんから色々と質問をされたことぐらいです。内容は、言葉を話せるかどうか、調子はどうか、そんな感じ。そうして1日目は終わりました。

そして2日目の今日、私はユウキの中であれこれ考えてはいましたが、特に見るものもなくすることも出来ないので退屈していました。そんな時、ユウキはおもむろにベッドから立ち上がりトコトコ歩き出したのです。裸足で。

(トイレかな?)

私はそう思ったのですが、ユウキは部屋の入口の扉を普通に押し開けました。えっ鍵かかってると思ったのに!そのままユウキは部屋の外へ出てしまうと、フラフラ廊下を歩いていきます。

(向こうがなんか騒がしいな)

私は少しドキドキしながら、ユウキの向かう先に人の気配があると感じ取りました。そして見えてきたのは談話室のような、テレビがあり、そして数人の人間が話をしていました。ほとんどの人は普段着のような服装で、何人かは今のユウキのような病院服でした。廊下の脇には掲示板があり、そこには各お知らせや病院の関係者向けのものもありました。

部屋で窓から見えた看板と同じ名前もあります。

(本当に、精神病院なんだ)

私はどこかホッとしたような、残念なような複雑な心境でした。ユウキは周りの視線をあびながらも、フラフラと前へ進み、ある場所で立ち止まります。目の前にはテレビがありました。

(そっか、初めて見たなら気になるよね)

ユウキは人間には部屋で何度も会いましたが、テレビは初めてです。目まぐるしく映像が移り変わる四角いモノを、ユウキはジーッと見続けます。

「おーいキミ、見えないよ」

ユウキは後ろから声をかけられ、くるりと振り返りました。それはそうです、テレビを見ている人の前に突っ立っていたのですから。

「キミもテレビみたいなら、ほらこっち座って」

「あー、あー」

「ん?…もしかして話せないの?」

声をかけてきたのは私と同年代ぐらいの人でした。てっきり怒られるかと思ったのですが、ユウキの様子に気づくとその人はユウキへ歩みより、

「はじめまして。ボクはマユだよ」

マユは自分を指さしながら、ゆっくりと自己紹介をしました。ユウキはそれをじーっと見ています。

「言ってみて?マユ、ま、ゆ」

「あー、うー、あーうー?」

「あはは上手上手、よろしくねユウキさん」

ニコッと笑うとマユさんはユウキの手をそっと握り握手をしました。なんで私の名前を…って名札がついていたんだっけ。

その日ユウキはマユさんの横で、ご飯とトイレ以外はずっとテレビを見ていました。私もいい暇つぶしができて良かったです。

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